『新解釈・三國志』

TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口脇に掲示された『新解釈・三國志』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口脇に掲示された『新解釈・三國志』チラシ。

監督&脚本:福田雄一 / プロデューサー:北島直明、松橋真三 / 撮影監督:工藤哲也 / 撮影:鈴木靖之 / 照明:藤田貴路 / 美術:高橋努 / 編集:臼杵恵理 / 衣裳デザイン:澤田石和寛 / VFXスーパーヴァイザー:小坂一順 / アクション監督:田口景也 / 録音:柿澤潔 / 音楽:瀬川英史 / 主題歌:福山雅治『革命』 / 出演:大泉洋、ムロツヨシ、賀来賢人、橋本環奈、山本美月、岡田健史、橋本さとし、高橋努、岩田剛典、渡辺直美、磯村勇斗、矢本悠馬、阿部進之介、半海一晃、山田孝之、城田優、佐藤二朗、西田敏行、小栗旬 / 制作プロダクション:CREDEUS / 配給:東宝
2020年日本作品 / 上映時間:1時間51分
2020年12月11日日本公開
公式サイト : https://shinkaishaku-sangokushi.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2020/12/17)


[粗筋]
 いまを遡ること1800年頃の中国は、漢王朝の衰退を契機として動乱が繰り返され、のちに蜀、呉、魏を興す英傑たちが並び立つ混沌のなかにあった。のちに『三國志』として記録され、多くの民衆に親しまれた時代について、歴史学者の蘇我宗光(西田敏行)は独自の解釈を持っていた。
 曰く、のちに蜀を建国する英雄・劉備玄徳(大泉洋)は、しかしその実、戦争嫌いの平和主義者だった。しかし酒が入るとすぐに気が大きくなり壮語する悪癖があり、その演説に惚れた関羽(橋本さとし)、張飛(高橋努)と義兄弟の誓い――いわゆる《桃園の誓い》を結び、にわかに義勇軍を指揮する立場に追い込まれる。
 劉備が率いさせられた義勇軍は、各地で反乱を起こしていた黄巾党を倒すと、関羽・張飛の圧倒的戦闘力もあって瞬く間にのし上がっていく。しかしその一方、漢王朝の弱体化につけ込み、幼帝に代わって政治に携わった董卓(佐藤二朗)が実権を掌握、その権力を悪用して好き放題に振る舞っていた。
 勢力を増しつつあった曹操(小栗旬)、孫堅らと手を組み、虎牢閑に滞在していた董卓を攻める、という計画が立てられ、劉備も参加する――はずだったが、劉備は直前にだだをこね始め、とうとう関羽・張飛に指揮を任せて出陣しなかった。荒馬・赤兎馬を駆る猛者・呂布(城田優)に苦戦しながらも、連合軍は董卓を虎牢関から後退させることに成功した。
 しかし、呂布がいる限り董卓を倒すことは難しい。そこで劉備たちは、董卓と呂布に色仕掛けをするべく、配下で随一のイケメン・趙雲(岩田剛典)に、取り巻きの女性たちのなかから絶世の美女を探すよう命じる。趙雲が連れてきた美女の人選にやや疑問はあったが、実行に移すとこれが面白いように奏功、三角関係に陥った呂布は董卓を殺害、かくて暴君はこの世から姿を消した。
 かくて中国は、劉備、曹操、そして孫堅からあとを継いだ孫権(岡田健史)らが覇権を争う、群雄割拠の時代に突入した。しかし、この状況に置いても、相変わらず戦争嫌いの劉備は、自分が楽をするために、優秀な軍師を雇うことを決める。そこで劉備たちは、《伏龍》と呼ばれる知恵者・諸葛亮孔明(ムロツヨシ)を訪ねた――


[感想]
 その名前だけなら誰しも知っているであろう『三國志』だが、詳しいストーリーどころか、大まかな全体像にも疎い、というひとはたぶん少なくないのではないろうか。かく言う私も、ちゃんと接した派生作品はジョン・ウー監督の『レッド・クリフ』ぐらいのもので、詳細について語る知識はない。
 だが、だからこそ本篇は、『三國志』に詳しくなくても楽しめる、と断言できる。実際、この程度の知識のまま鑑賞しても、何ら問題はなかった。
 監督の福田雄一は手懸ける作品がほぼほぼコメディばかり、というくらいで、そんなひとが主演に大泉洋を招いて撮るのだから、コメディにしないはずがない。その期待通り、冒頭からおよそ英雄には見えない大泉=劉備が、関羽・張飛とメタフィクション的な趣向も加えてボケとツッコミの応酬を繰り返す。いよいよ戦闘へ、という場面でも、のちに一国の主となる男にはとうてい見えないヘタレっぷりを発揮する劉備と、どこまでマジなのか解らない黄巾党の兵(山田孝之)の珍妙なやり取りが続き、その流れはほとんど長篇コントだ。
 ただこのやり取りが誰にとっても楽しめるものか、については疑問符がつく。間違いなく言えるのは、恐らく本篇の笑いには賞味期限が存在する、ということだ。
 本篇の面白さの一因は、キャスティングの妙にもある。名前を知られるようになってから一貫して笑いに寄せていた大泉洋や、福田組常連であるムロツヨシはともかく、『銀魂』のキャラクターを踏襲した趣のある橋本環奈の起用の面白さは、『銀魂2 掟は破るためにこそある』や『今日から俺は!!』から期間をおいていないからこそ通用するものだろう。それ以上に、「結果にコミットする」などといったフレーズを引用した台詞は、たぶん数年で意味が伝わりにくくなる可能性が高い。まして仮に、本篇の原点を生んだ中国など、海外に輸出するとなれば、まったく通用しないだろう。
 しかし恐らく、この作品はそれでいいのだ。序盤からいっさい手加減せず、その場で一番面白いやり取りを組み込み、いま映画館に脚を運んでいる観客を笑わせよう、という意識は、それ自体充分に価値があるし、徹底したその姿勢は、間違いなく観客の期待に応えるものだ。
 とはいえ、あまりにも出演者・スタッフが愉しみすぎた悪影響なのだろう、中盤ではいささか倦んでしまうのも事実だ。畳みかけるような笑いの応酬は、そこだけ切り取れば楽しいのだけど、ずっとテンションが高いままなので、如何せん平板に陥ってしまう。意識的にシリアスな要素を交えたり、「急にどうした?」と観るものが一瞬不安になるくらい情緒的な場面を挟むなど、何らかのメリハリが中盤にも欲しかったところだ。
 それでも、前述した『レッド・クリフ』と同じ《赤壁の戦い》をモチーフにしたクライマックスはかなり見応えがある。大筋では『レッド・クリフ』でも語られる過程と同じながら、ここに採り入れられた“新解釈”がなかなかユニークで、しかもこの世界観ならではの説得力がある。意識的に伏せていた事実や、それまでの描写を踏まえた“策略”まであり、それまでただただ笑っているだけだったひとも、このひと幕には唸らされるはずである。
 ほとんどの登場人物が、従来の『三國志』で語られる人物像とかけ離れていて、なんでこんな奴が英雄扱いなんだ、こんな奴らに政を任せたくない、と思うような連中だが、そこにきちんと「ありそう」と納得させてしまう要素もある。そして、全員がどこか抜けているから、本質的には血みどろの物語なのに悲愴感がなく、全篇に愛嬌がある。
 歴史ものとしての重厚感、男たちの熱いドラマや知略の駆け引きなどを期待する向きには大いに物足りないだろうし、そうした『三國志』に愛着のあるひとにとっては、アドリブも交えて大いに茶化した表現は噴飯物かも知れない。しかしそれでも本篇は間違いなく、作り手が『三國志』についての理解や愛着があってこそ作りうるものであるし、その題材に敬意を捧げた内容になっている。賞味期限付のギャグの数々で、やがては顧みられなくなる可能性もあるように思うけれど、それでもいま観て笑えて、元気づけられる作品であることは確かだと思う。『三國志』はこうでなくては、とか、メタ的な趣向を好まない、などといったこだわりがないのなら、たぶん楽しめるはずである――そもそも「ギャグの方向性が合わない」という場合もあって、そっちの方が問題かも知れない。


関連作品:
かずら』/『銀魂』/『銀魂2 掟は破るためにこそある』/『ヲタクに恋は難しい』/『シャザム!
こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』/『最高の人生の見つけ方(2019)』/『ソフトボーイ』/『貞子vs伽椰子』/『貞子3D』/『銀の匙 Silver Spoon』/『十三人の刺客』/『一度死んでみた』/『幼獣マメシバ』/『任侠学園』/『罪の声
レッドクリフ PartI』/『レッドクリフ Part II―未来への最終決戦―』/『KAN-WOO 関羽 三国志英傑伝

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