TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『グッドフェローズ』上映時の『午前十時の映画祭11』案内ポスター。
原題:“Goodfellas” / 原作:ニコラス・ピレッジ / 監督:マーティン・スコセッシ / 脚本:ニコラス・ピレッジ、マーティン・スコセッシ / 製作:アーウィン・ウィンクラー / 製作総指揮:バーバラ・デフィナ / 撮影監督:ミヒャエル・バルハウス / プロダクション・デザイナー:クリスティ・ジー / 編集:ジェームズ・クウェイ、セルマ・スクーンメイカー / 衣装:リチャード・ブルーノ / キャスティング:エレン・ルイス / 出演:レイ・リオッタ、ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ、ロレイン・ブラッコ、ポール・ソルヴィノ、フランク・シヴェロ、トニー・ダロー、マイク・スター、フランク・ヴィンセント、チャック・ロー、フランク・ディレオ、サミュエル・L・ジャクソン、クリストファー・セロン、スザンヌ・シェパード、キャサリン・スコセッシ、チャールズ・スコセッシ、デビ・メイザー、イリーナ・ダグラス、マイケル・インペリオリ、トビン・ベル / 初公開時配給&映像ソフト日本最新盤発売元:Warner Bros.
1990年アメリカ作品 / 上映時間:2時間26分 / 日本語字幕:松浦美奈 / R15+
1990年10月13日日本公開
午前十時の映画祭11(2021/04/02~2022/03/31開催)上映作品
2018年3月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc|Blu-ray Disc:4K ULTRA HD & Blu-rayセット]
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/70002022
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/11/13)
[粗筋]
ヘンリー・ヒル(クリストファー・セロン)は小さい頃からマフィアになることに憧れていた。彼が家族と共に暮らす部屋の向かいには、ルッケーゼ一家の有力者ポール・“ポーリー”・シセロ(ポール・ソルヴィノ)が営む店があり、ヘンリーはポーリーに取り入ることで、マフィアの仕事の一端を担おうと試みる。
はじめはタクシー配車場の使い走りとして働いていたが、そのうちに闇煙草の密売や、偽造クレジットの悪用、そして違法賭博や八百長試合、更にはトラックの強奪、とヘンリーはその“商売”の幅を広げていった。やがて警察に摘発されるが、裏取引で方面となったヘンリーは周囲から祝福を受ける――それこそ、彼がマフィアの一員として認められた瞬間だった。
成長したヘンリー(レイ・リオッタ)は、普通に働く同世代を遥かに上回る収入を手にするようになっていた。ヘンリーよりも前からこの世界に入り、トラック強奪を得意とするジミー・コンウェイ(ロバート・デ・ニーロ)、気性の荒いトミー・デヴィート(ジョー・ペシ)らと組み、様々な組織の内部から情報を得て、スマートに強奪を繰り返して荒稼ぎを重ねていった。
ヘンリーたちはやがて、空港の倉庫に輸送される現金に目をつける。エア・フランス航空での強奪を成功させると、1978年、ルフトハンザ航空で600万ドルという桁違いの収穫を得た。
だが、この事件を契機に、ヘンリーの身辺は血腥さを増していく。感情的になりやすいトミーは衝動的に人を殺すようになり、ジミーもまた、襲撃事件の詳細を漏らしかねない人間を次々に手にかけてった。
ヘンリーは狙われずにいたが、ポーリーが固く禁じていた麻薬密売に手を染めていたことが発覚すると、たちまち立場が危うくなっていった――
[感想]
観始めた序盤の印象は、“せせこましい”だった。
とにかく異様なほどに情報量が多い。成長したヘンリー役であるレイ・リオッタのモノローグのもと、主人公ヘンリーがマフィアに憧れた幼少時代から物語は綴られるのだが、映像で展開される出来事とモノローグのなかでの描写が窮屈なまでに詰めこまれていて、油断していると置き去りにされそうだ。
しかし面白いことに、やがてこの情報の奔流に慣れていく。むろん、多くの人にとっては縁のない世界、価値観のなかで繰り広げられる物語なので、言葉の意味、真意を咄嗟に汲み取れるひとはそう多くないだろうが、幼少期から20年以上に及ぶ長い物語に付き合ううちに、モノローグを漠然と聞いていても、その物言いからイメージが掴めるようになっていく。情報量が結果的に観客の想像力を喚起する作りになっている、と考えると、なかなか先鋭的な作りだ。
物語は序盤、極めて鮮やかな成功のドラマだ。マフィアとして成り上がることを夢見たヘンリーは目論見通り、その素質を見込まれ、あれよという間に理想の生活を築いていく。
しかしそこには常に、不穏な気配がつきまとう。観客からすれば、どれほど派手に繕おうとも、暴力の世界に過ぎないことが自明であることも手伝っているが、常に寄り添うヘンリーの語りのニュアンスに嘆き、後悔が入り混じるせいだ。物語を紡ぐ上での視点が明確になっているからこそ成立する表現であり、極めてハイテンションに語りながらも冷静に全体を見渡す目線は適度に醒めている。この熱狂と知性の特異なバランスが、『ゴッドファーザー』の風格とも、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の豊かな詩情とも違った味を生み出している。
実話をベースにしているからか、随所でいっそドラマ的でない見せ方をしているのも特徴的だ。本篇のター忍苦ポイントとなるのはルフトハンザ航空での強奪事件だが、先行する犯行では現場に居合わせていたヘンリーが、ここでは報道のかたちで計画の成功を知り歓喜する、という表現になっている。フィクションならば、計画の実行を丹念に描いてしまいたくなるところだ。もしこのくだりが脚色なのだとしたら、監督と脚本家の企みは悪魔的だ、とも言える。なにせ、自らが実行に直接関与していないこの犯罪が、ヘンリーを追い込んでいくのだ。
これも考えてみれば当然なのだが、マフィアはイタリア系移民を中心に構成されているが故に、外部の人間は決して厚遇はされない。能力に応じて、それなりの地位は与えられても、“それなり”を脱することはない。マフィアの華やかでクールな暮らしぶりに憧れ、順調に実績を重ねてきたヘンリーも、片親がアイルランド系である、という事実が壁となって立ちはだかる。どこまで行っても彼は“使われる側”に過ぎないのだ。クライマックス手前までの一連の出来事を辿れば、想像に難くなかったひとつの“制裁”が、ヘンリーに現実を突きつけ、一気に窮地へと追い込んでいく。
映像とモノローグ、そして複数の視点を織り交ぜて尾がいていくスタイルはさながら情報の奔流だが、それゆえに2時間半の尺が長く感じない。20年近い月日が怒濤のように襲いかかり、苦渋に満ちた結末によって観る者の心に濃い染みを残していく。
私が観た範囲での感想でしかないが、マーティン・スコセッシ監督は、組織犯罪に手を染めた者が真っ当に生きていくことなど出来ない、と訴え続けているように思う。リメイクである『ディパーテッド』でさえその傾向があり、30年近く経て発表した大作『アイリッシュマン』は、終わり方こそ異なれど、自らの業に縛られた男の末路を描いている、という点で一貫している。『アイリッシュマン』より1時間短く、当時40代で脂の乗りきった時期に制作された本篇はあまりに濃密でエネルギッシュだが、作り手としての成熟度に雰囲気を違えながらも、作家性が固まっていたことを証明しているように映る。
観ているあいだはただただその饒舌な語り口に圧倒されるが、観終わった瞬間、その重みがどうしようもない虚無を生み出す――これも、スコセッシ監督の作品にしばしば感じる余韻だ。出世作となった『タクシードライバー』から本篇のあいだの作品を観ていないので、断言してはいけないのだけど、2019年の『アイリッシュマン』にまで繋がるスコセッシ監督の作風は、少なくとも本篇の時点で確立していた。本篇を鑑賞したことで、この監督の揺るぎないスタンスを垣間見たような気がした。
関連作品:
『タクシードライバー』/『アビエイター』/『ディパーテッド』/『シャッター アイランド』/『ヒューゴの不思議な発明』/『ウルフ・オブ・ウォールストリート』/『沈黙-サイレンス-(2016)』/『アイリッシュマン』
『フィールド・オブ・ドリームス』/『アンタッチャブル(1987)』/『REPO! レポ』/『誘惑のアフロディーテ』/『ボディガード』/『パルプ・フィクション』/『レクイエム・フォー・ドリーム』/『月の輝く夜に』/『Be Cool/ビー・クール』/『ラブリーボーン』/『ザ・シークレット・サービス』
『ゴッドファーザー』/『ゴッドファーザー PART II』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ<ディレクターズ・カット>』/『シェーン』/『めまい(1958)』/『シャイニング 北米公開版〈デジタル・リマスター版〉』/『レザボア・ドッグス』/『ショーシャンクの空に』/『トレインスポッティング』/『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』/『アイ・アム・レジェンド』/『僕らのミライへ逆回転』/『その男 ヴァン・ダム』/『ミックマック』/『アウトロー(2012)』/『アメリカン・ハッスル』/『ジャージー・ボーイズ』
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