『THE ICEMAN 氷の処刑人』DVD Video(amazon商品ページにリンク)。
原題:“The Iceman” / 原作:アンソニー・ブルーノ、ジェームズ・ティボート / 監督:アリエル・ヴロメン / 脚本:モーガン・ランド、アリエル・ヴロメン / 製作:アリエル・ヴロメン、エフード・ブライベルグ / 製作総指揮:レネ・ベッソン、ボアズ・デヴィッドソン、ラティ・グロブマン、アヴィ・ラーナー、ローラ・リスター、トレヴァー・ショート / 撮影監督:ボビー・ブコウスキー / プロダクション・デザイナー:ネイサン・アマンドソン / 編集:ダニー・ラフィック / 衣装:ドナ・ザコウスカ / 音楽:ハイム・マザール / 出演:マイケル・シャノン、ウィノナ・ライダー、クリス・エヴァンス、レイ・リオッタ、ジェームズ・フランコ、デヴィッド・シュワイマー、スティーブン・ドーフ、エリン・カミングス、ロバート・デヴィ、ヴェロニカ・ロサティ、ジョン・ヴェンティミリア、クリスタ・キャンベル、ジェイ・ジャンノーネ、ヴィンセント・フエンテス / エフード・ブライベルグ/ミレニアム・フィルム製作 / 配給:日活 / 映像ソフト発売元:Happinet
2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:佐藤恵子 / PG12
2013年11月9日日本公開
2014年4月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://iceman-movie.net/ ※閉鎖済
DVD Videoにて初見(2021/2/2)
[粗筋]
リチャード・“リッチー”・ククリンスキー(マイケル・シャノン)がロイ・デメイオ(レイ・リオッタ)と面識を得たのは、その当時、ククリンスキーが生業としていたポルノビデオの海賊版作りを急がされたことがきっかけだった。指定した日時になっても7箱の不足を残していたククリンスキーにロイは銃口を突きつけるが、ほとんと動じることのない彼の度胸を見込んで、ロイは殺しの仕事を斡旋するようになる。
ロイの見込んだとおり、ククリンスキーは鮮やかに仕事を片付けた。巨体と天性の冷徹さで依頼をこなすククリンスキーは財産を築き、高級住宅街に家を購入するまでになる。
暗殺を繰り返す一方、ククリンスキーは家では良き夫、良き父親に徹し、愛妻デボラ(ウィノナ・ライダー)とのあいだに生まれた2人の娘を私立に進学させるほどに裕福な生活をさせた。家族に対しては、為替ディーラーとして収入を得ているように装い、徹底して裏稼業から遠ざけようとする。
綻びが生じたのは、ロイがいちから育てた部下ジョシュ・ローゼンタール(デヴィッド・シュワイマー)が犯した失態だった。前々から、他のファミリーから軽んじられたくない一心でロイの名前をちらつかせていたジョシュはあるとき、薬物の取引で接触した男たちを殺害、薬物も所持金も奪うという蛮行に及ぶ。自身の命が危うい状況に、ロイはしばらく裏稼業から手を引いてしまう。収入源を失ったククリンスキーは、我を失い、家族に対してさえ暴言を漏らしてしまう。
窮した挙句、ククリンスキーは以前、マーティ(ジェームズ・フランコ)を始末した際に面識を得た同業者のフリージー(クリス・エヴァンス)と接触する。フリージーが取引先から受注した案件を、ククリンスキーが実行、報酬は山分けにする。ブリージーが証拠隠滅のために用いていた、遺体を冷凍して死亡推定時刻を誤魔化す手法も踏襲し、ククリンスキーはふたたび殺人を重ねるのだった……
[感想]
本篇は実在したリチャード・ククリンスキーに対するインタビューと、彼が逮捕される経緯に基づいたルポルタージュをもとにしているらしい。生憎、どちらも本文に触れる機会は得られなかったので、英語版のWikipediaをどうにか読み解いてみたところ、どうも本篇で描かれていることには脚色も、眉唾な部分も多々含まれている。法廷にかけられた罪状については有罪と見ていいようだが、「100人以上殺した」という伝説や、本人が実行した、と証言する殺人の詳細については、多くの疑問が残っているらしい。
だが恐らく本篇のスタッフは、その辺を割り切ったうえで、事実を脚色し再編している。それゆえなのだろう、いささか強引な展開が幾つか見られる。こと、、クライマックス、ククリンスキー画逮捕される経緯については、実際の出来事をなぞりながらも不自然さが否めない。それは本篇が捜査側についてまったくと言っていいほど描写していないので、どのようにこの展開に至ったのか、が解りにくいのも一因なのだが、もともと疑問を呈されるほどに大仰なククリンスキー自身の告白をベースにしているので、それ故の粗さが細かに表れてしまうのだろう。
犯行の詳細の真偽はどうあれ、本篇が興味深い物語であるのは確かだ。
手にかけた、と称する被害者の数に驚かされるが、しかしいわゆる猟奇殺人犯と趣は違う。あくまでククリンスキーは家族を幸福にするための資金稼ぎのために、殺人に手を染めていることが窺える。猟奇殺人犯というよりは、職業的な暗殺者と呼ぶ方が似つかわしい。
だが一方で、決して職業的な必要性だけで殺人を犯していたわけではないことも、本篇には仄めかされている。そのことが窺えるのは他でもない、劇中最初に描かれるククリンスキーの犯行だ。粗筋では敢えて省いたが、このときの犯行にはまだロイと面識はなく、裏社会の事情も絡んでいない。直前の出来事に起因する激情、一種の処罰意識が、彼を犯行に駆り立てたように映る。
そしてもうひとつの象徴は、終盤にさしかかったところで登場するククリンスキーの弟だ。先に収監されていたこの弟との会話は、ククリンスキーという家庭環境と、それ故に屈折していった兄弟の姿が垣間見える。もしククリンスキーの辿った道が異なっていれば、このとき壁の向こうにいたのはククリンスキーだったのかも知れない。
そうして読み解いていくと、ククリンスキーという男はとても哀れにも映る。この男は、自分のなかに怪物がいることを承知しながら、幸せな家庭に憧れていた。劣悪な家庭環境で育った者は、自身が年長になると、結果的にかつての家庭環境を再現してしまう、という悪循環に陥りやすいが、ククリンスキーは職業的な殺人者になることで破壊衝動と折り合いをつけ、ある程度までは実現させていたのだ――ある意味で、この男が家族を愛していたことは本当だったのだろう。罪を重ねることでしか、自らの人生を築けなかったこの男は、決して許されはしないけれど、それゆえにあまりにも悲しい。
主演のマイケル・シャノンは『マン・オブ・スティール』のゾッド将軍役などでもインパクトを示した強面が印象的だったが、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』でオスカー候補にも上がった演技派でもある。本篇はその冷徹な厳めしさと家族に接する際の柔らかさ、そして窮地に陥った場面で示す激情と、演技の種類が極めて多彩だ。本篇は事実をだいぶ脚色し、実際よりもククリンスキーを狡猾な犯罪者にして、真摯に家族を想う人間に仕立てていると考えられるが、しかしそうして割り切って組み立てられた本篇の《リチャード・ククリンスキー》という男の多面性は、マイケル・シャノンという俳優のポテンシャルを遺憾なく発揮させている。
視点のブレや、周囲のひとびと、犯罪者側のエピソードの掘り下げが不充分な点など、あっさりと処理しすぎて重厚感に欠く嫌味はある。しかし、特異な人物像を描いたドラマとして、充分な見応えを備えた佳作だと思う。
関連作品:
『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』/『ロシアン・ルーレット』/『マン・オブ・スティール』/『スキャナー・ダークリー』/『アベンジャーズ』/『ジャッキー・コーガン』/『猿の惑星:
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ<ディレクターズ・カット>』/『ラスト・ターゲット』/『アメリカン・スナイパー』/『アイリッシュマン』/『モンスター』/『ゾディアック』/『テッド・バンディ』
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