『ジュラシック・パークIII』

TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『ジュラシック・パークIII』上映当時の午前十時の映画祭13案内ポスター。
TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『ジュラシック・パークIII』上映当時の午前十時の映画祭13案内ポスター。

原題:“Jurassic Park 3” / 監督:ジョー・ジョンストン / 脚本:ピーター・バックマン、アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー / キャラクター原案:マイクル・クライトン / 製作:キャスリーン・ケネディ、ラリー・J・フランコ / 製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ / 撮影監督:シェリー・ジョンソン / プロダクション・デザイナー:エド・ヴァリュー / VFX:インダストリアル・ライト&マジック / アニマトロニクス:スタン・ウィンストン / 編集:ロバート・ダルヴァ / 衣装:ベッツィ・コックス / キャスティング:ナンシー・フォイ、ウェンディ・ウォッシュブルック /  / 音楽:ドン・デイヴィス / テーマ音楽:ジョン・ウィリアムズ / 出演:サム・ニール、トレヴァー・モーガン、ウィリアム・H・メイシー、ティア・レオーニ、アレッサンドロ・ニヴォラ、マイケル・ジェッター、ブルース・ヤング、ジョン・ディール、ローラ・ダーン、テイラー・ニコルズ、ブレイク・マイケル・ブライアン / アンブリン・エンタテインメント製作 / 初公開時配給:UIP Japan / 映像ソフト日本最新盤発売元:NBC Universal Entertainment
2001年アメリカ作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:菊地浩司
2001年8月1日日本公開
午前十時の映画祭13(2023/04/07~2024/03/28開催)上映作品
2022年11月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray Disc4K ULTRA HD + Blu-ray Disc4K ULTRA HD + Blu-ray Disc Amazon.co.jp限定セット]
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/title/60004473
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2023/4/25)


[粗筋]
 イスラ・ヌブラル島での悪夢のような経験以降、古生物学者アラン・グラント博士(サム・ニール)はしばしばあの事件について質問を受けるようになる。しかしグラント博士はその忌まわしさゆえに、一切の答を拒んできた。
 講演を済ませ、んっ、モンタナ州の化石発掘現場に赴いたグラント博士を、人が訪ねてきた。《カービー・エンタープライズ》の社長である、というボール・カービー(ウィリアム・H・メイシー)とその妻アマンダ(ティア・レオーニ)は間近に控えた結婚記念日に、蘇った恐竜たちを鑑賞するツアーを企画しており、その案内をグラント博士に求める。巨大生物の跳梁する世界の恐怖をいやと言うほど知っていたグラント博士は当然のように拒否した。しかし、グラント博士の現場は資金難に陥っており、援助をちらつかせるカービー夫妻の提案を受け入れざるを得なかった。
 助手のビリー・ブレナン(アレッサンドロ・ニヴォラ)とともにカービー夫妻のチャーターした飛行機に乗り込んだグラント博士だったが、機内にはやけに物々しい雰囲気を醸した人びとが同乗していた。グラント博士は不審を覚えるが、島が近づくとガイドとしての役割を果たそうとした。しかしそんなグラント博士をよそに、飛行機は彼が聞かされていなかった、滑走路への着陸を開始する。話が違う、と抗議したグラント博士は同乗者によって殴打され昏倒、意識を取り戻したときには、既に陸地に降り立っていた。
 実はカービー夫妻の本当の目的は、ふたりの息子エリック(トレヴァー・モーガン)を探すことにあった。2ヶ月前、アマンダの友人ベン(マーク・ハレリック)と共に、島をパラセーリングで鑑賞するツアーに参加したエリックは、それ以来消息を絶っている。パラグライダーを牽引するボートが、何らかの生物によって大破しており、上空にいたエリックとベンは島に不時着した、と考えられる。島を擁するコスタリカ共和国は捜索の許可を下さず、夫妻は生存の可能性を信じ、自ら捜索に赴いたのだ。グラント博士を招いたのは、彼らが雇った捜索隊のメンバーが、世界で一番、蘇った恐竜に詳しい人物のガイドを求めてのことだった。
 だが、着陸したのはグラント博士が知るイスラ・ヌブラル島ではなく、その後にもうひとつの事件の舞台となったイスラ・ソルナ島、こちらの内実をグラント博士は把握していない。何より、捜索隊は本物の恐竜の脅威を甘く見ていた。着陸から間もなく、彼らはその過酷な現実を思い知ることとなる――


[感想]
 スティーヴン・スピルバーグとしては珍しく、続篇のメガフォンを自ら取ったこのシリーズだが、3作目にして初めて他のスタッフに委ねている。続篇の評判の悪さに辟易した――というのは意地の悪い見方で、当時既にビッグネームであり、多数の企画を抱えていたスピルバーグが、自身での監督にこだわらなくなった、というあたりが実態に近いのではなかろうか。
 代わって監督に就任したのはジョー・ジョンストン。本篇の発表から20年以上経てもフィルモグラフィは10作程度、という佳作ぶりだが、かの《スター・ウォーズ》初期3部作の視覚効果に携わった、という経歴からも明白なとおり、もともとは視覚効果技術の専門家である。ゆえに監督作も『ミクロキッズ』にはじまり『ジュマンジ』、『ウルフマン』、そしてマーヴェルの『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』と、視覚効果へのこだわりが粗筋からも窺える作品ばかりだ。監督作がまだ少ない時期に本篇を手懸けたのも、その映像技術に対する素養が見込まれてのことだろう。
 そして、シリーズのファンでもあった、という監督が紡ぐ物語は、良くも悪くもシリーズの特徴を踏まえ、敷衍した作りとなっている。今回も技術面での発展は見られるが、世界観や物語としての基本ルールは逸脱しておらず、登場人物を入れ換えながらも違和感なく鑑賞出来る仕上がりだ。
 だがそれゆえ、やむを得ないことながら、どうしても二番煎じの印象は前作以上に強くなってしまっている。第1作以来となるアラン・グラント博士が中心人物となる物語だが、相変わらず発掘資金に汲々としており、援助を仄めかされて渋々の体で腰を上げるのも、現地での冒険で子供を伴うのも一緒だから、既視感すら覚える。第1作での反省を踏まえたアップデートは第2作から引き継いでいるし、恐らくは技術的な面で難しかった新たな、かつ待望とも言えた恐竜を登場させ、なおかつサスペンスの演出にも新しい工夫が凝らされているのだが、惜しむらくはそこに観客が驚きや新鮮味を感じられないことだろう。
 工夫の中で特に印象に残るのは、マイクロバスを襲撃されるくだりと、翼竜との駆け引き、そしてクライマックスの逃走劇だ。
 前者の特筆すべき点は、人智を超えた脅威を間接的に、だがダイナミックに表現し、立体的に演出したことだ。明らかに恐竜がそこにいて、まさに絶体絶命の状況でありながら、恐竜そのものの描写は決して多くない。1作目の波紋から一貫して、間接的な表現にアイディアとこだわりを感じさせるのがこのシリーズだが、これもその流れを汲んでいる。そこから立体的な駆け引きに発展していくが、スリリング、という意味では先行作を凌駕している、とさえ言える――惜しむらくは、いまいち“恐竜ならでは”という印象が与えられていないことだが、既に1作目、2作目と工夫が様々に凝らされていた分だけ、厳しいのも事実だろう。
 脅威が立体的に襲いかかる、という点で言えば、翼竜を登場させたこともやはり特筆に値する。本篇の舞台となるイスラ・ソルナ島は《ジュラシック・パーク》として展示を目的として設計された場所ではなく、試験的培養と飼育に用いられていたと考えられ、そこに柵など易々と越える翼竜をどうやって飼育するのか? と疑問が湧くが、本篇はその疑問に素直に応え、活用して翼竜を新たな恐怖として描写している。やはりこれも、アイディアとしては見事ながら、方法論が旧作を敷衍しているので、はっきりと飛んでいるシーンを除くといまいち衝撃に欠くのが残念でもある。
 そしてクライマックスの逃走劇である。それまでに提示された要素を巧みに活かした様々な趣向が、ギリギリまで登場人物を翻弄し、観客を昂揚させる。ここのシチュエーションはいささか滑稽でもあるのだが、ユーモアとスリルを混在させて、与えるインパクトは強い――それを魅力と取るか問題と取るか、が観る人それぞれの判断によって分かれるうえ、このくだりの締め方にやや消化不良の余韻を感じる可能性もあるので、巧妙に考えられた流れにも拘わらずポジティヴな印象に繋がるとは断言出来ないのも惜しい。
 斯様に本篇は、新しい趣向も工夫もあるが、それが必ずしもいい印象をもたらさないのが、先行2作と比較してもいまいちの評価を受けてしまう原因なのだろう。シリーズであることの意義、価値に対して誠実であるのは間違いないのだが、だからこそ不幸になった作品、という気がする。
 しかし、本篇が無意味ではなかったのは、14年後に証明されたのではなかろうか。シリーズとして新たに仕切り直され、劇中でもリニューアルされ《ジュラシック・ワールド》となったテーマパークは、本篇で示した可能性の先に誕生している。ミニチュアやアニマトロニクスの手法はあらかたCGに取って代わられてしまったが、その過渡期にあって、試行錯誤のあとを強く残した本篇は、里程標として観る価値はいまもある。


関連作品:
ジュラシック・パーク』/『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』/『ジュラシック・ワールド
ウルフマン』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『くるみ割り人形と秘密の王国』/『チェ 28歳の革命』/『チェ 39歳 別れの手紙』/『アバウト・シュミット
愛をつづる(うた)』/『ファーゴ(1996)』/『さよなら、さよならハリウッド』/『二重誘拐』/『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』/『パーフェクト ワールド』/『GODZILLA ゴジラ(2014)
見知らぬ乗客(1951)』/『JAWS/ジョーズ』/『ダイナソー・プロジェクト』/『トランスフォーマー/ロストエイジ』/『恐竜超伝説 劇場版ダーウィンが来た!

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