『キス・オブ・ザ・ドラゴン』


原題:“Kiss of the Dragon” / 原案:ジェット・リー / 監督:クリス・ナオン / 脚本:リュック・ベッソン、ロバート・マーク・ケイメン / 製作:リュック・ベッソン、スティーヴン・チャスマン、ジェット・リー、ハッピー・ウォルターズ / 撮影監督:ティエリー・アルボガスト / プロダクション・デザイナー:ジャック・バフナー / 編集:マルコ・キャヴ / 音楽:クレイグ・アームストロング / 出演:ジェット・リー、ブリジット・フォンダ、チェッキー・カリョ、リック・ヤン、バート・クウォーク、ローレンス・アシュリー、マックス・ライアン、シリル・ラファエリ、イザベル・デュホーヴェル / ヨーロッパ・コープ製作 / 初公開時配給:K2 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan
2001年フランス、アメリカ合作 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:?
2001年8月25日日本公開
2012年9月14日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/60020780
初見日不明(たぶんテレビ地上波)
NETFLIXにて再鑑賞(2020/04/21)


[粗筋]
 中国の捜査官リュウ(ジェット・リー)は麻薬の密輸ルート摘発の任務を帯び、フランスへと渡る。現地では既にフランス警察のリチャード警部(チェッキー・カリョ)らが、組織の幹部(リック・ヤン)が現れるという情報のあったホテルに網を張っており、リュウはその監視に合流した。
 やがて幹部は護衛を追い出し、ふたりの娼婦と共に部屋に残る。隠しカメラを介して監視していたそのとき、ひとりの娼婦が隠した武器で幹部を刺した。リュウが幹部の護衛を倒し室内に突入すると、あとからやって来たリチャード警部が幹部と、幹部を刺した娼婦を射殺する。凶器に用いたのは、リュウが預けた拳銃だった。
 罠にかけられたことを悟ったリュウは、リチャード警部と部下たちの激しい追撃をかわし脱出する。リチャード警部はリュウに罪を被せるため、機材を破壊させていたが、手違いで記録されていた犯行の様子を収めたテープを持ち去られたことを知り、追っ手を放った。
 一方、幹部が殺害された際、ホテルにいたふたりめの娼婦ジェシカ(ブリジット・フォンダ)は、薬物を投与された上で路上に戻されていた。本心では足を洗うことを望んでいるが、娘の身柄をリチャードに押さえられ、反抗することが出来ない。娼婦仲間から邪険に扱われ、裏町でも人通りの少ない場所に追いやられたジェシカだが、そこは他でもない、リュウを匿っている中華料理店の前だった――


『キス・オブ・ザ・ドラゴン』本篇映像より引用。
『キス・オブ・ザ・ドラゴン』本篇映像より引用。


[感想]
 ジェット・リーは『少林寺』で鮮烈なデビューを飾ったあと、出演作を厳選するあまり露出が減り低迷に陥った。だが、1990年代に出演した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズでふたたび脚光を浴びると、世紀の切り替わりのあたりからハリウッドへの進出を実現した。本篇はその初期、フランスにおける娯楽映画を新たな次元へと導いたリュック・ベッソンと共に自らプロデュースして撮った作品である。
 若手や新しい才能の起用にも積極的で映画界への貢献も大きい一方、関わるとかなりの率で彼自身のカラーが反映されてしまうのがリュック・ベッソンというひとで、本篇もまた如何にもリュック・ベッソンらしい組み立てになっている。しかし、そこにジェット・リーという、こちらも自身の役柄やアクションの活かし方にこだわりを持つ俳優が加わることで、化学反応が起きている。
 リュック・ベッソン作品には共通して言えることだが、善人も悪党も人目を気にせず無茶苦茶をやりがちだ。本篇の場合、ことに悪党であるリチャード警部と部下たちのやり口がまったく人目を憚っていない。さすがにここまでやると悪事も発覚するだろうし、というのもあるが、並の人間ならとっくに消し炭にされている。しかし、そのくらい派手に仕掛けてくるからこそ、ジェット・リー演じるリュウの尋常ならざる戦闘能力が早いうちに明確になる。いきなり発砲し、街中だというのに手榴弾まで使ってくるような相手に立ち向かい逃げおおせるには、あれほどの凄腕でなければ不可能だろう。
 不運な美しい女性もまたリュック・ベッソン作品では多用されるモチーフだが、やもするとお飾りになりがちなこのキャラクターも、プロフェッショナルであるリュウが無謀な戦いに臨むための動機付けとして極めて有効に機能している。彼女が図らずもリュウの無実を証明できる存在であったこともそうだが、彼女を巡る設定が本篇のクライマックスを決定づけている。明らかに理性的に立ち回っているリュウを動かすには、彼女は必要不可欠なのだ。
 そうした完璧なお膳立てのうえで、ジェット・リーが自身のアクション俳優としてのセンス、魅力を存分に発揮している。突然の襲撃に対する鮮やかな立ち回り、身を隠さねばならない状況での配慮も交えたトリッキーなアクション。そしてクライマックスでは建具を蹴破っての突入から、多数の格闘家を相手にした大乱戦、また意表をついた攻撃を仕掛ける相手との最終対決も用意している。それまでは爆破や銃撃戦も織り込んでいるのに、クライマックスは恐らくあえて拳銃などの火器を用いていないにも拘らず充分なカタルシスを演出出来ているのは、それだけ作り手がジェットのアクションを信頼しているからこそであり、また充分にその真価を発揮することに成功した仕上がりとなっている。
 しかもそのうえで、決着に激しいアクションを選ばなかったこともなかなか挑戦的だ。ラストにもうひと押し、強烈な趣向が欲しかった、というひとも少なくないとは思うが、個人的にこの締めくくりは粋だと思う。きちんと伏線が設けてあり、フランスが主体となって製作された映画に東洋人であるジェットが主演する意義がより強まっている。趣向としてはジェットほどの遣い手でなくても可能だが、その手段にジェットほどの説得力を持たせられる俳優は、実のところそんなに多くはない。
 私の捉え方では、この頃のジェット・リーは組む相手に恵まれていた。だがそのなかでもリュック・ベッソン率いるヨーロッパ・コープと組んだ本篇は、恐らくジェット・リーが作ろうとしていたエンタテインメントのひとつの理想型を窮めていたのではなかろうか。このあとジェットは『ダニー・ザ・ドッグ』でふたたびヨーロッパ・コープと組み、異色の役作りで度肝を抜いたが、それも彼らしさを突き詰めた本篇があってこその実験だったのかも知れない。


関連作品:
エンパイア・オブ・ザ・ウルフ』/『ラスト・ブラッド』/『96時間 レクイエム
ブラック・マスク』/『THE ONE』/『ブラック・ダイヤモンド』/『ロング・エンゲージメント』/『トランスポーター』/『007/ゴールドフィンガー』/『リーグ・オブ・レジェンド 時空を超えた戦い』/『クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち
ポリス・ストーリー3』/『ドラゴン×マッハ!』/『ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』/『パリより愛をこめて』/『TAXi ダイヤモンド・ミッション』/『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

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