『ライトハウス』

TOHOシネマズシャンテが入っているビル外壁にあしらわれた『ライトハウス』キーヴィジュアル。
TOHOシネマズシャンテが入っているビル外壁にあしらわれた『ライトハウス』キーヴィジュアル。

原題:“The Lighthouse” / 監督:ロバート・エガース / 脚本:ロバート・エガース、マックス・エガース / 製作:ロバート・エガース、ユーリー・ヘンレイ、ロウレンソ・サンターナ、ロドリゴ・テイシェイラ、ジェイ・ヴァン・ホイ / 撮影監督:ジュアリン・ブランシュケ / プロダクション・デザイナー:クレイグ・ラスロップ / 編集:ルイーズ・フォード / 衣装:リンダ・ミューア / キャスティング:カーネル・コクラン / サウンドデザイナー:ダミアン・ヴイルペ / 音楽:マーク・コーヴェン / 出演:ロバート・パティンソン、ウィレム・デフォー、ワレリア・カラマン、ローガン・ホークス / 配給:Transformer
2019年カナダ、アメリカ、ブラジル合作 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:松浦美奈 / R15+
2021年7月9日日本公開
公式サイト : https://transformer.co.jp/m/thelighthouse/
TOHOシネマズシャンテにて初見(2021/7/15)


[粗筋]
 19世紀末、ニューイングランドの離島にある灯台で、灯台守の交代が行われた。
 かたや既に幾度も勤務を経験している老人(ウィレム・デフォー)と、これが初めての勤務である若者(ロバート・パティンソン)。ろくに面識もないふたりはその日から4週間、宿舎に寝泊まりし、灯台を維持するための仕事に就く。
 しかし初日から若者は、老人の横暴に悩まされた。清掃や宿舎の修理、燃料の運搬など、雑事全般を若者に強制し、自分は灯台守としての花形である灯室の終夜番に徹している。どう懇願しても灯室に入れてもらえない若者は、いつしか疑惑を抱きはじめる――あそこには、なにか秘密が眠っているのではないか?
 規則に従い、老人の勧める酒には口をつけずにいた若者だが、飲料を供給する貯水槽はすぐに汚染され、飲める状態にならなかった。4週目、次の当番との交代を前に、とうとう若者は杯を傾けてしまう。
 泥酔状態から目醒めて、交代のために屋外に出たふたりだが、船は来なかった。次の定期船が来るまで早くとも4週間、もし海が荒れ続ければ、いつまでも船は来ない。
 孤独と強迫観念、そして質の悪い酒がもたらす幻覚。ふたりの男の精神は、じわじわと破壊されていった――


[感想]
 ろくに船も訪れない、絶海の孤島での勤務。同僚は傲慢で、振る舞いも粗野なヴェテラン。文明から遠く隔たった場所なればこそ、清潔も期待は出来ない。たとえ、何事もなく済んだとしても、精神に異常を来しそうな過酷の環境だ。ましてそこに秘密や疑惑がちらついていれば、なおさらに心は病んでいく。
 本篇はそういう極限状況を、全篇モノトーン、そして20世紀初頭に主流だった正方形に近いアスペクト比の画面で描き出す。現代人の目から見れば窮屈なこの構図と色遣いが、しかし物語の閉塞感を絶妙に演出する。しばしば、「見辛い」とさえ感じる映像は、それ故に主人公である若者の心情に序盤、観客を同調させる。
 それにしてもこの作品、序盤はなにが起きているのかさっぱり解らない。明確なのは、ふたりの男が4週間のあいだ、孤島で灯台を管理しながら生活せざるを得ない、という点だけだ。ふたりが自身の来歴について語るくだりはおろか、何故老人が若者に激務をすべて押しつけて、灯室を独占しているのか、なども明かされずに進んでいく。人魚の人形や、飛び交うカモメ、そして頻繁に鳴り響く警笛といったモチーフも、その不穏なムードを助長する。
 そのなかで、随所に挿入される幻覚じみたシーンが、果たして現実なのか幻覚なのか、次第に判然としなくなっていく。若者が入手した人魚の人形と、それが喚起する官能的な妄想も、灯室に籠もる老人の異様な振る舞いも、果たしてどこまでが物語のなかにおいてリアルなのか。その彼我の境の曖昧さは、観ている側の感覚をも狂わせていく。
 この彼我の曖昧さは、物語が壮絶なクライマックスを迎えても一貫して残っている。観終わっても、若者が遭遇した悪夢の正体をきっちり説明出来る者はいないはずだ。そのつもりになって賢しらに解説を試みても、観たひとによって見解は食い違い、より腑に落ちない想いを抱くのではなかろうか。
 しかし、そのすべてが霧――というより、荒波に覆われたかのような感覚こそ、本篇の本題だろう。衛生環境も整わない時代に孤島でふたりきり、自らの理性や生存本能と向き合わねばならない恐怖、おぞましさを、本篇は生々しく表現する。
 いまの感覚では“不潔”としか思えない孤島での生活ぶりも本篇はかなりダイレクトに描いているが、映像としては力強く美しくさえある。劇中で、一連の出来事に明確な結論が出せないからこそ、観客の想像を喚起し、その心に深い楔を穿つ、禍々しい傑作である。


関連作品:
トワイライト~初恋~』/『TENET テネット』/『アクアマン
パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』/『クリムゾン・ピーク』/『ヘレディタリー/継承』/『ミッドサマー』/『シャッター アイランド』/『レッドタートル ある島の物語

コメント

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