プロデューサー:西村義明 / エンディングテーマ:木村カエラ『ちいさな英雄』 / アニメーション制作:スタジオポノック / 配給:東宝
2018年日本作品 / 上映時間:54分
2018年8月24日日本公開
公式サイト : http://www.ponoc.jp/eiyu/
TOHOシネマズ上野にて初見(2018/08/28)
[粗筋]
監督&脚本:米林宏昌 / 音楽:村松崇継 / 声の出演:木村文乃、鈴木梨央
川の岩陰で暮らすカニーニ(木村文乃)とカニーノ(鈴木梨央)。ある嵐の日、水流に巻き込まれかけたカニーノを助けようとしたお父さんが、身代わりに下流へと流されてしまった。カニーニはカニーノの手を引き、お父さんを助ける旅に出る……。
『サムライエッグ』
監督&脚本:百瀬義行 / 音楽:島田昌典 / 声の出演:尾野真千子、篠原湊大、坂口健太郎
シュン(篠原湊大)は元気な男の子だが、生まれたときからのアレルギーで、卵が一切口に出来ない。ダンスのコーチをしているママ(尾野真千子)が食材をチェックしたり、給食とまったく同じ見た目で卵抜きのお弁当を作ってくれたりしているが、常に命の危険はつきまとうのだった……。
『透明人間』
監督&脚本:山下明彦 / 音楽:中田ヤスタカ / 声の出演:オダギリジョー、田中泯
男(オダギリジョー)は姿も重量もなく、存在感もない。職場でもお店でも、まるでそこにいないかのように扱われる。自暴自棄になった男に、しかしひとりだけ、声をかける者がいた……。
[感想]
個人的に前々から、短篇作品を発表する場がもっとあってもいいのではないか、と思っている。小説や漫画で特にそう感じるのだが、映画でも同様だと考えている。ショートフィルムフェスティバルのわうなものが有志によって各地で実施されているが、好事家以外の目に届きにくい地域限定のイベントではなく、一般の劇場で、ロードショーの作品と同じような感覚で、多彩な短篇を鑑賞してもらうほうが、様々なジャンルの作品に触れることが出来るし、新しい才能に巡り会うきっかけになるのではないか、と。
スタジオポノックは2017年の『メアリと魔女の花』から活動を開始した新興スタジオ――とは言い条、もともとスタジオジブリに所属していたスタッフで形成されている。この3つの短篇の監督も、『メアリ~』を手懸けた米林宏昌監督は言うに及ばず、百瀬義行監督は『猫の恩返し』の併映というかたちで発表された『ギブリーズ』やcapsuleの楽曲とコラボした短篇などが劇場でかかっており、知らないうちに鑑賞していたひとも多いはずである。『透明人間』を手懸けた山下明彦監督も、制作部門解散前のジブリの作画スタッフのなかで中心的役割を果たしており、三鷹の森ジブリ美術館上映短篇の監督も担当しているので、その作品に接している可能性は高い。だから、新しい才能に出会う、というより、新たに旗揚げしたスタジオポノックの多彩な表現力をお披露目する、という意味合いの方が大きいように思うが、それでも充分に意図は達成していると感じる。
もとがスタジオジブリで経験を積み、ノウハウを引き継いでいるスタッフが主体であるから、とにかく映像表現が幅広く多彩なのだ。米林監督による『カニーニとカニーノ』はもっとも親しみやすい絵柄と童話風の物語だが、デジタルも利用した水の描写のリアリティと美しさが鮮烈だ。『サムライエッグ』は『かぐや姫の物語』などでも用いられた水彩画調の絵をデジタルで滑らかなアニメに整えるスタイルを見事に踏襲している。『透明人間』はその2作よりも荒々しい画風で、透明人間の視点からの描写を含めたダイナミックなアクション描写を行っている。いずれも、およそ同じスタジオで恐らくは同時期に製作していたとは思えないほど趣が異なり、各篇の映像としての統一感は見事だ。
それぞれに尺は20分にも満たないのだが、そのなかでプロデューサーから提示されたテーマ“ちいさな英雄”を綺麗に落とし込んでおり、話はみなシンプルだがいずれも奥行きがある。
『カニーニとカニーノ』は、擬人化したカニが主人公と思われるが、擬人化していること以外の描写は、水の中に棲息する生き物が体験するであろう現実を巧みに汲み取っている。人間にとっては大したことのない自然現象や、生き物のちょっとした行為が、より小さな生き物にどう影響しているのか、知識のあるひとには納得がいき、知らなければ驚きや感心を抱く、理想的な子供向けのファンタジーとなっている。
それに対し『サムライエッグ』は題名こそユーモラスだが、扱っている題材は非常にシリアスだ。食物アレルギーを患う子供と、その家族の苦労をかなり生々しく織り込んでいる。ただ、それを決して痛ましいものとして捉えず、アレルギーを“戦うべき相手”として雄々しく臨んでいるのが着眼だ。当たり前に生きることの大変さ、目の前にいる“敵”に堂々と臨む姿をさながら“英雄”のように切り取ることで、短いながらも、普通に生きるひとへの応援歌のように作りあげている。
“透明人間”というテーマは先行する2作と比べると有り体のようだが、しかし単純に姿が見えない、というだけでなく、存在感もない者として描いているところが特徴的だ。会社でないがしろにされお店でも無視される、その存在感の乏しさが男を透明人間にしているかのように映る。こういう趣向だからこそ、中盤以降のスペクタクルじみた展開が意味を持つ。
きちんと表現の肝さえわきまえていれば、短篇は充分に面白い――むしろ、ワンアイディアを短い尺のなかで研ぎ澄ますことが出来るので、長篇とは違った振り幅、面白さがある。本篇は、そうした短篇の魅力をうまく活かし、スタジオポノックのスタッフの腕前を全体で1時間足らずの尺に巧ーみに詰めこんだ好企画であると思う。エンドロールにまでちょっとした趣向が凝らしてあるのがまた憎い。
関連作品:
『猫の恩返し』/『借りぐらしのアリエッティ』/『思い出のマーニー』/『メアリと魔女の花』
『千と千尋の神隠し』/『ハウルの動く城』/『ゲド戦記』/『崖の上のポニョ』/『コクリコ坂から』/『風立ちぬ』/『かぐや姫の物語』/『レッドタートル ある島の物語』
『ボクたちの交換日記』/『そして父になる』/『残穢 -住んではいけない部屋-』/『渇き。』/『るろうに剣心 伝説の最期編』
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