原題:“Marrowbone” / 監督&脚本:セルヒオ・G・サンチェス / 製作:ベレン・エティエンザ、アルヴァロ・アウグスティン、ジスラン・バロワ / 製作総指揮:J・A・バヨナ、サンドラ・エルミーダ、パロマ・モリーナ / 撮影:シャヴィ・ヒメネス / プロダクション・デザイナー:パトリック・サルヴァドル / 編集:エレーナ・ルイス / 衣装:ソニア・グランデ / キャスティング:カレン・リンゼイ=スチュワート / 音楽:フェルナンド・ヴェラスケス / 出演:ジョージ・マッケイ、アニヤ・テイラー=ジョイ、チャーリー・ヒートン、ミア・ゴス、マシュー・スタッグ、カイル・ソラー、ニコラ・ハリソン、トム・フィッシャー / 配給:kino films
2017年スペイン、アメリカ合作 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:佐藤恵子
2019年4月12日日本公開
公式サイト : http://www.okite-movie.jp/
[粗筋]
1960年代のアメリカ、メイン州に、母(ニコラ・ハリソン)と4人の子供たちからなる一家がやって来た。イギリスでの忌まわしい記憶を振りきるように、彼らは母がかつて暮らしていた廃屋に身を寄せ、苗字もそれまでの“フェアバーン”から“マローボーン”に改める。これでようやく平穏に暮らせる、と思っていたが、ほどなく母が病によって亡くなり、子供たち4人だけになったところへ、逃げ切ったと思っていた恐怖が兄弟を襲うのだった。
――それから6ヶ月が過ぎた。
マローボーン家は幾つかのルールを設け、それを守りながら、息を潜めるように生活を続けている。引っ越した当時に知り合ったアリー(アニヤ・テイラー=ジョイ)とも、逢えるのは必要に応じて外出を許されているジャック(ジョージ・マッケイ)のみで、他の兄弟は鬱屈を抱えている。
ある日、弁護士のポーター(カイル・ソラー)が、家の名義に問題があることを指摘する。そのために母の署名が必要だ、と言うのだ。母が既に亡くなっていることも周りに伏せている兄弟は、偽造のサインでごまかそうとするが――
[感想]
『永遠のこどもたち』で恐怖の向こう側にある哀しいドラマを描きだし、『インポッシブル』において災害によって引き離された家族のサヴァイヴァルと絆とを紡いだ脚本家セルヒオ・G・サンチェスが、同作でメガフォンを取ったJ・A・バヨナのサポートで初めて自ら監督した作品である。
しかし、初監督の拙さは見当たらない。冒頭から、説明を最小限にすることで、緊張感を孕んで謎めいた空気を醸成し、観客の関心を巧みに掴む。やがて静かに迫りくる追求や謎の脅威を織り込み、緊張や恐怖を盛り上げながら、様々な感情の交錯するクライマックスへと導いていく。
恐らく、ある程度こうした類のフィクションに慣れているひとなら、本篇の“趣向”を看破することは難しくない。実際、かく言う私自身、ある段階でほぼ推測はついてしまった。
だがそれは決して作り手の拙さを証明するものではなく、むしろ極めてフェアに作られている証だ。きちんと伏線が積み上げられ、それと矛盾を来すことなく、際どいラインで観客の目線や感情を操る試みをしているからこそ、慎重であれば読み解ける。
解った上で鑑賞していても、本篇の中盤以降はサスペンスに富んでいる。なおも不明な要素や確定しない部分を意識的に残すことで、登場人物と同様に観客にも緊張を与え、揺さぶり続ける。しかも、それが終盤で更なるドラマにも繋がっていく。『永遠のこどもたち』も同様のドラマ作りで強い印象を残していたが、それを更に洗練させ、深化もさせている。
本篇で真に評価されるべきは、サプライズの向こう側に描かれる情感の豊かさだ。判明した事実の衝撃と同時に襲いかかる危機、それに対する感情と決断。様々な出来事と感情とが渦巻くクライマックスの物語的な躍動感も秀逸だが、それらが静かに昇華されるエピローグの余韻も忘れがたい。
恐怖と謎で観客を惹きつけていく物語だが、その結末は哀しみを孕みながらも、優しさと慈しみに満ちている。本篇は本当の恐怖を扱いながら、美しい家族のドラマでもあるのだ。
その本質は、映像にも顕れている。朽ちかけた屋敷で身を潜めるように生活するマローボーン家の姿は悲愁を感じさせ、何が出てくるか解らない暗がりに恐怖を滲ませるが、その端々に覗かせる家族のやり取りには愛があり、閃くような美しさがある。
読み解くのは難しくないとは言い条、それでも最初の1回を楽しんでいただくためにはネタを明かすことは出来ず、隔靴掻痒になってしまったが、間違いなく優秀なホラーであり、驚きとそれに匹敵する感情の揺れを体感出来る、美しいドラマである。
関連作品:
『ディファイアンス』/『スプリット』/『ミスター・ガラス』/『サスペリア(2018)』/『アンナ・カレーニナ』
『悪を呼ぶ少年』/『アザーズ』/『灼熱の魂』/『インシディアス』/『クリムゾン・ピーク』/『search/サーチ』/『ヘレディタリー/継承』
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