英題:“Mary and The Witch’s Flower” / 原作:メアリー・スチュアート / 監督:米林宏昌 / 脚本:米林宏昌、坂口理子 / プロデューサー:西村義明 / 作画監督:稲村武志 / 作画監督補:井上鋭、山下明彦 / 色彩設計:沼畑富美子 / 美術監督:久保友孝 / 美術デザイン:今井伴也 / CG監督:軽部優 / 撮影監督:福士亨 / 映像演出:奥井敦 / アフレコ演出:木村絵理子 / 音響演出:笠松広司 / 音楽:村松崇継 / 主題歌:SEKAI NO OWARI『RAIN』 / 声の出演:杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、佐藤二朗、大竹しのぶ、渡辺えり、遠藤憲一、大谷育江、Lynn、満島ひかり / 制作:スタジオポノック / 配給:東宝 / 映像ソフト発売元:Walt Disney Japan
2017年日本作品 / 上映時間:1時間43分
2017年7月8日日本公開
2018年3月20日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|コレクターズ・エディション:amazon]
公式サイト : http://maryflower.jp/
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2017/7/8)
[粗筋]
メアリ・スミス(杉咲花)は忙しい両親に先んじて、大叔母シャーロット(大竹しのぶ)の暮らす郊外の館へと引っ越した。
着いた当日は、村長の葬儀でみな多忙にしている。家政婦のバンクス(渡辺えり)から弁当を持たされハイキングを勧められたメアリは、ひとまず庭師のゼベディ(遠藤憲一)を手伝おうとするが、さっそく失敗してしまう。
ひとり食事を摂っていたメアリは、すり寄ってきた2匹の猫に誘われるように、森の中に入っていく。何故かそこだけ草木が枯れた一角に、青く美しい花が咲いていた。ゼベディによれば、それは“夜間飛行”と呼ばれる花で、この森にしかなく、7年に一度しか咲かない、貴重な花なのだという。かつては魔女も捜し求めたと言われ、“魔女の花”のふたつ名を持っていた。
その晩、メアリの部屋にあの猫の1匹、ティブがやって来る。やけに怯えるティブをメアリは布団に包んで寝かせてやるが、翌朝にはどこかへ消えていた。
ティブの飼い主ピーター(神木隆之介)によれば、もう1匹の猫ギブも前日から姿を隠しているのだという。メアリはピーターの制止も聞かず、霧を孕んだ森の中へと猫たちを探しに向かう。
やはりそこにティブはいた。残っていた魔女の花に手を伸ばすと、花は潰れ花の蜜が手と、持っていた箒についてしまう。そのとき、蜜がまばゆく光ったかと思うと、箒は暴れだし、気づけばメアリは雲よりも高く、空を飛んでいた。
箒に導かれるまま飛び続けたメアリは、積乱雲のなかに隠れた、空飛ぶ島に辿り着く。そこにあったのは、エンドア大学――優秀な魔女達が学ぶ、魔法大学であった。
[感想]
2018年現在、宮崎駿監督の新作長篇を制作するべく、新たに人材を集め再始動しているスタジオジブリだが、一時期、制作部門が解散となり、当時所属していたクリエイターの多くが新たな活躍の場へと散らばっていた。そんななかで、『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』に携わった米林宏昌監督が、同様にジブリを離れたスタッフらと共に創設したスタジオポノックにて制作した、初めての長篇作品が本篇である。
もともとジブリ在籍時も、宮崎駿作品のスタイルにもっとも近い作風を構築していた監督らしく、本篇も名義こそ異なれど、ほぼジブリ映画のような佇まいである。公開時のコピーが“魔女ふたたび”であったのも、スタジオジブリの代表作『魔女の宅急便』を意識していることは明白であり、ある程度はジブリの衣鉢を継ぐ、という信念をもって臨んだのではなかろうか。
しかし、筋運びそのものは宮崎駿・高畑勲らが指揮を執っていたジブリ作品と比較すると、むしろ基本に忠実になった印象がある。冒頭に変化や不思議との遭遇があり、冒険のなかで挫折があって、クライマックスのカタルシスへと結実していく。
また、その作風や作画のタッチ、全体の雰囲気は相通じているが、宮崎駿の作品群と比較すると時代背景が現代に寄っていると思われるのが特徴的だ。劇中、現代的なガジェットが登場することはほぼないのだが、時代設定にやや寛容となったことが、宮崎監督作品にあった懐古的なトーンとはやや印象を異にしている要因のひとつと思われる。
全篇で描かれる躍動感に満ちた飛行シーン、あちこちに登場する奇妙だけど愛らしいキャラクターや小道具の類など、宮崎駿監督によるスタジオジブリ作品のフォロワーであることを貫きつつも現代的な感覚でそつなく組み立てられているが、残念ながらどこか物足りない印象がある。
恐らくそれは、宮崎作品にしばしば見られる、定形から逸脱した部分、捉えようによっては破綻を来しているとも言える“破調”なところがないせいだろう。意識的に王道を志した『天空の城ラピュタ』を除けば、トトロの役回りや出来事との関わりに説明不足の多い『となりのトトロ』をはじめ、物語としての構成はしっかりしていても、その成り行きはパターンから逸脱しているものが多かった。ジブリ作品のヒロインの血筋を感じさせながらも、正統的冒険物語の主人公らしい挫折と成長を見せるメアリはあまりにもオーソドックスなのだ。ジブリの持つ、定番からはいささかズレた魅力とは異なり、それゆえに“小さくまとまっている”という印象を与えることにも繋がっている。
物語の構成は優れている。愛らしくも不気味な未知の生き物の表現、作品全体の絵のクオリティも高い。採り上げたテーマは『魔女の宅急便』を彷彿とさせる一方で、その実、ジブリの第1作『天空の城ラピュタ』に近い構造を持ち、共鳴するようなモチーフや描写もある。スタッフがスタジオジブリに出自を持ち、観客もその点に関心を持って劇場に足を運ぶことを想定したうえで、テーマを選び、絵作りに臨んだことが強く窺える。だが、それと同時に、物語作りの基本に忠実たらんとしたことが、ジブリと比較した場合の物足りなさにも繋がってしまったようだ。
ジブリに寄り添いつつも、そこに留まらない覚悟もある。自覚的なジブリ・フォロワーとして限りなく正しい姿勢であり、出来映えも理想に近いのだけれど、そういう意味では物語作りへの誠実さが却って足を引っ張った、と言えるかも知れない。今後、作品を重ねていくにつれて評価は変わってくるのではなかろうか――それでも当面は、ジブリの“ジェネリック”的な評価に甘んじるほかないようだ。
関連作品:
『借りぐらしのアリエッティ』/『思い出のマーニー』
『千と千尋の神隠し』/『ハウルの動く城』/『ゲド戦記』/『崖の上のポニョ』/『コクリコ坂から』/『風立ちぬ』/『かぐや姫の物語』/『レッドタートル ある島の物語』
『るろうに剣心 伝説の最期編』/『君の名は。』/『清須会議』/『サバイバルファミリー』/『銀魂2 掟は破るためにこそある』/『のみとり侍』/『GROW~愚郎~』/『プリキュアオールスターズ New Stage2/こころのともだち』/『ラビット・ホラー』
『オズの魔法使』/『オズ はじまりの戦い』/『コララインとボタンの魔女 3D』/『劇場版 ふたりはプリキュア Max Heart』/『メリダとおそろしの森』
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