『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング(字幕・IMAX with Laser)』

TOHOシネマズ新宿の入っている新宿東宝ビル外壁にあしらわれた『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』キーヴィジュアルと、それを見下ろすゴジラヘッド。
TOHOシネマズ新宿の入っている新宿東宝ビル外壁にあしらわれた『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』キーヴィジュアルと、それを見下ろすゴジラヘッド。

原題:“Mission : Impossible – Dead Reckoning Part One” / 原作:ブルース・ゲラー / 監督:クリストファー・マッカリー / 脚本:クリストファー・マッカリー、エリック・ジェンドレセン / 製作:トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー / 製作総指揮:デヴィッド・エリソン、デイナ・ゴールドバーグ、ドン・グレンジャー、トミー・ゴームリー / 撮影監督:フレイザー・タガート / プロダクション・デザイナー:ゲイリー・フリーマン / 衣裳デザイナー:ジル・テイラー / 視覚効果スーパーヴァイザー:アレックス・ヴットケ / 特殊効果スーパーヴァイザー:ニール・コーボールド / 第2班監督&スタント・コーディネーター:ウェイド・イーストウッド / 編集:エディ・ハミルトン / 音楽:ローン・バルフ / テーマ作曲:ラロ・シフリン / 出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、マリエラ・ガリガ、ヘンリー・ツェニー、シェー・ウィガム、グレッグ・ターザン・デイヴィス、チャールズ・パーネル、ケイリー・エルウィズ、マーク・ゲイティス、インディラ・ヴァルマ、ロブ・ディレイニー / スカイダンス製作 / 配給:東和ピクチャーズ
2023年アメリカ作品 / 上映時間:2時間36分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2023年7月21日日本公開
2024年7月3日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray Disc]
公式サイト : http://missionimpossible.jp/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2023/7/21)


[粗筋]
 ボスニア湾でロシア所属の潜水艦が密かに沈没した。船員たちは氷河によって封じ込められ、潜水艦は深海へと沈んでいった――世界の脅威となる秘密とともに。
 それから半年後、潜伏中のIMFエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)のもとに新たな指令が届く。世界に極めて深刻な危機を及ぼすシステムを制御するための鍵が存在し、2枚ひと組で機能するその半分を、イーサンのかつての戦友イルサ・ファウスト(レベッカ・ファーガソン)が奪い、アブダビの砂漠地帯に潜伏しているという。彼女の首には既に多額の賞金がかけられており、いずれかの勢力が鍵を手に入れるべく暗躍している。イーサンに託されたのは、イルサの回収と鍵の確保。イーサンの判断次第ではアメリカ政府との訣別も予期される任務であり、これまで以上に危険窮まる任務であった。
 それからしばらくして、アメリカ国内のさる情報機関では、異常事態に対処するため大わらわとなっていた。ロシアが極秘で開発した、潜水艦の存在をソナーから隠蔽するためのAIが稼働とともに意志を備えたかのように暴走、既にSNSやニュースサイトを汚染し、フェイク情報を拡散していた。国防に関わる情報にも改竄の可能性が浮上してきたため、全スタッフを動員して情報の紙媒体への出力が急がれている。
 政府情報組織の高官たちはその光景を背に、情報の共有を急いでいた。イルサは砂漠で遺体で発見され、鍵も発見できていない。イーサンはCIA長官キトリッジ(ヘンリー・ツェニー)との情報交換も拒み潜伏しており、既に独断専行を開始していると考えられた。残るもう半分の鍵は、ある人物が確保し、アブダビ空港にて取引が行われようとしていることが確認されていた。極秘のうちにこれを妨害し、2つの鍵を確保しなければいけない。
 しかしこの会議室を、突如として催眠ガスが襲った。直前に手渡されたガスマスクで難を免れたキトリッジの前に現れたのは、イーサン。
 このときを境に、イーサンはまたしても母国から追われる身となり、かつての仲間たちと共に、独自で世界を救うための任務に身を投じる。敵は文字通り、あらゆる場所で潜行している。果たしてイーサンたちに勝機はあるのか……?


TOHOシネマズ新宿の5階ロビーに掲示された『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』ポスター。
TOHOシネマズ新宿の5階ロビーに掲示された『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』ポスター。


[感想]
 トム・クルーズが稀有なスターである、と言い切れる理由は数多ある。恐らくはその不世出の資質が最も発揮されているのがこの《ミッション:インポッシブル》シリーズだろう。ドラマシリーズに憧れ自ら映画化するために権利を確保、成績の低調からシリーズの終了、主役の交代も囁かれながら、長いキャリアの間に縁を結んだクリエイターたちを少しずつ呼び寄せクオリティとシリーズに対する信頼を高めていった。製作として作品に責任を負うばかりか、それゆえの権限を駆使して危険なアクションも自ら演じ、生身のスリルを加えることで、危機管理の行き届いた近年では稀な価値をも作品にもたらした。その凄みは作を重ねるごとに説得力を増し、もはや現代でもトップのアクション映画シリーズに成長している。
 大きいのはクリストファー・マッカリーという得難いクリエイターを迎えたことだろう。遡れば人気の小説を映画化した『アウトロー(2012)』で初めてタッグを組むと、このときまだ長篇監督作は同作含め僅か2作のこの人物を《ミッション:インポッシブル》シリーズに大抜擢、以降、シリーズとして初めて同じ監督に3本連続でメガフォンを委ねている。本篇は2部構成のため、既に4作続けて携わることが決まっている格好だ。他の作品でもたびたび脚本を任せているあたり、トム・クルーズからの信頼の厚さが窺える。
 結果として、トム・クルーズのファンからは、濃密なアクションを得意とする監督のようなイメージを抱かれたかも知れないが、クリストファー・マッカリーの脚本家としての出世作は企みに満ちた傑作『ユージュアル・サスペクツ』であり、その後に発表した作品も、何らかのアイディアに芯を通した作品ばかりだ。そもそも、作品に必要なモチーフをどのように研ぎ澄ましていくか、を高いレベルで弁えた脚本家なのである。だから、彼がメガフォンを取った本篇も、このシリーズに求められる要素がきっちり盛り込まれ、バランスを保っている。
 率直に言って、そもそも解りやすい話ではない。いきなり冒頭から高度な陰謀と駆け引きが繰り広げられ、人によっては、ちょっと見落とした、聞き落とした要素があっただけで、「いま何をやってるんだ?」という状態に陥ってしまう。
 ただこれは、デジタル技術の複雑に発達した現代に高度な聴放線を描くとすれば、致し方のないところだろう。それに、たとえ細部が解らなくとも、本篇で描かれる“脅威”はこの数年のうちに急速に現実性を帯びてきたものだ。ごく漠然と捉えても“脅威”は実感出来るだろうし、またこの“脅威”ならではの、得体の知れない緊張感と恐怖を孕んだ見せ場もきっちり設けられている。このあたりが、クリストファー・マッカリー監督の如在のなさを窺わせる。
 しかし本当に見事なのは、見せ場の豊富さだろう。プロローグ部分、会議のかたちで迫り来る“脅威”について説明しながら、カメラワークに工夫を凝らして緊張と衝撃を演出する。すぐにイーサン・ハントと仲間たちが空港を舞台に繰り広げる追跡劇。舞台を大きく移したローマでは、街を破壊する勢いのカーチェイスを描いたかと思うと、次なるヴェネツィアでは、路地の狭さと、無数に水路の張り巡らされた特異な立地を活かした追跡劇からアクションまでがもっちりと盛り込まれている。そしてクライマックスでは、トム・クルーズの驚異的スタントも含む圧巻のアクションと駆け引きが、後半1時間を費やして展開する。
 そのうえ、ただ無作為に見せ場を放り込んでいるのではなく、ドラマとしての構成の巧みさに加え、随所にユーモアや、感情的な昂りを演出する場面も加え、細かな緩急をつけている。シリーズ初登場の頃からコメディ・リリーフ的な役割を果たしていたベンジーは今回も、イーサンが本筋で奮闘している間に、並行するトラブルで右往左往するさまが緊迫しつつもユーモラスだし、ローマでの複数勢力が入り乱れる追跡劇においても、ちょこちょこと笑いが差し挟まれて、適度に緊張を緩めてくれる。最高潮の見せ場もずっと続くと平坦になってしまって、折角の予算と手間のかかった映像を楽しみたくても観客が疲れ果ててしまう、ということを、よく熟知した作り方だ。
 しばしば笑いを盛り込みつつも、しかし本筋は極めて現実味のある危機であり、それを虚構ならではの派手さで更に膨らませたミッションはこれまでになく過酷だ。しかし、それ故に本篇はまさに“ミッション:インポッシブル”らしさを横溢させている。自ら権利を取得し、最初の作品を発表してから27年を経て、トム・クルーズが辿り着いたひとつの集大成と言っていい作品だろう。残された問題と対峙する続篇がいまから待ち遠しくなる、堂々たる娯楽大作である。

 ……とか書いてるが、途中まで書いたところで、感想を書く余裕が乏しくなってしまい、投げ出しているあいだに、続篇である『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の先行公開が始まってしまった。
 そのあいだに本篇は、続く作品のタイトルを分けるほうが適切、という判断により、公開後ほどなくして“PART ONE”が取れ、続篇のタイトルは前述の『~ファイナル・レコニング』となった。私はあえて本篇を“集大成”と読んだが、これまでのシリーズで蓄積したドラマが本当に昇華され決着するのは、この『~ファイナル・レコニング』になるらしい。
 だからあえて、この2025年の最新作を鑑賞する前に、本篇の感想を急ぎ書き上げた次第である――最新作を観てから、1本戻って感想を書くと、まとめて語らざるを得なくなりそうな気がしたからだ。
 どうにか『~ファイナル・レコニング』公開前に書き上げることが出来た。これで、心置きなく最新作に向き合える……そんな風にコンディションを整えたくなるほどに私はこのシリーズに期待しているし、最新作を楽しみにしていたのだ。そういう気分にさせてくれるのである。


関連作品:
M:i:III』/『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』/『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』/『ミッション:インポッシブル/フォールアウト
アウトロー(2012)』/『ワルキューレ』/『ツーリスト』/『ジャックと天空の巨人』/『オール・ユー・ニード・イズ・キル』/『トップガン マーヴェリック
ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『宇宙人ポール』/『DUNE/デューン 砂の惑星(2021)』/『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』/『ファーストフード・ネイション』/『ソー:ラブ&サンダー』/『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』/『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』/『野性の呼び声(2020)』/『トランスフォーマー/ロストエイジ』/『SAW ザ・ファイナル 3D』/『ロックダウン(2021)』/『エクソダス:神と王』/『キャッシュトラック
ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』/『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』/『スティング

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