この人のアルバムは買い漏らしません。中島みゆき、実に3年振りの新作が本日発売しました……Amazon.co.jpに予約してあったから、昨日届いてましたけどね。じっくり聴いてから採り上げたかったし、きのうは午前十時の映画祭13のラインナップ発表があったし。
ちょうど2020年、“ラスト”と銘打ったツアーがコロナ禍によって、一部を除いて中止して以降、長らく沈黙が続いていました。《夜会》の計画が発表される気配もなく、一部のメディアが仄めかしていた“引退”説をちょっと信じそうになってしまった。
ただ、まったく音沙汰がなかったわけではないのです。切れ切れではありますが、公式サイトには本人のメッセージがときおり掲載されていたし、新作ではないけれど、中断されたツアーの模様を収録したライヴ・アルバムや、コロナ禍だからこそリスナーを力づけるためのベスト盤をリリースしたりしていた。
しかし痛快だったのは昨年の秋頃か、某週刊誌がようやく本人を街中で捉えて取材した模様が掲載されたことでした。近所のひとの証言から、どうやらきちんと仕事に行っているらしい、という情報が出てきたうえ、本人も韜晦しつつそれを否定しない。あれを読んだとき、「ああ、やっぱり黙って下りるような人ではなかった」と安堵したものです。
何より、このアルバムを手にしてからあの記事を思い出すと、なかなか痛快なのです。無責任なメディアは、吉田拓郎が同年をもって音楽活動からの引退を表明したことにかこつけ、拓郎を尊敬していた彼女も引退するのでは、という風説を流していましたが、その問いに中島みゆきは「そのうちまた何かするんじゃないですか~」みたいな受け答えをしていた。
このアルバムに収録された『体温』という曲に、吉田拓郎がしっかり参加していて、笑ってしまった。
ブランクから考えると、恐らく中島みゆきはけっこう前から曲作りを始めていたでしょうし、スケジュール的にも、取材を受けた時点でオファーはしていたはず……先月頭に発売したアルバムの曲を1月頭まで作っていたさだまさしみたいなおかしな人もいるにはいますが、あれは例外。少なくとも彼女は、このタイミングで吉田拓郎の名前が出ることを解っていて取材に応えていた、と考えると、ちょっと痛快なものがある。
アルバム自体は、いい意味で無駄な力の入っていない、どっしりした安定感のある仕上がり。まさにこれが、求めていた中島みゆきの音楽、という感じです。『乱世』や『童話』に、ままならない世の中に対するもどかしさを織り込む一方で、先行シングルになった『倶に』、『体温』、『夢の京』で優しく勇気づける。転調を多用した癖のあるメロディと、唯一無二の勇ましい歌声も健在。
実のところ、年齢を考えると、たとえ吉田拓郎の影響などなくともいつ“引退”を持ち出しても不思議はない。ただ、これが最後です、と断ることもなく提示してきたこのニューアルバムは、まだ退くときではない、という明確な意思表示のように思えます。私も、発表してくれる限りは買い続けるし聴きつづけます……ツアーはもうないかも知れないけど、限定的なコンサートなんかはやってくれるのではなかろうか。
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