原題:“解憂雑貨店 Namiya” / 原作:東野圭吾 / 監督:ハン・ジェ / 脚本:ハン・ジェ、シュー・シーイー、サン・シーユー、タイガー・シャオ / 製作:バービー・タン / 撮影監督:クリス・リー / プロダクション・デザイナー:アッティス・リー / 編集:クォン・チーリュン / 衣装:ワン・タオ / 音楽:ネイサン・ウォン / 出演:ワン・ジュンカイ、ディルラバ・ディルムラット、ドン・ズージェン、チン・ハオ、リー・ホンチー、チェン・ドゥリン、ハオ・レイ、ジャッキー・チェン / 配給:KADOKAWA
2017年中国作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:鈴木真理子 / PG12
2018年10月13日日本公開
公式サイト : http://namiya-saisei.jp/
シネマート新宿にて初見(2018/10/13)
[粗筋]
2017年最後の夜。街が新年の訪れにざわめくなか、シャオボー(ワン・ジュンカイ)、トントン(ディルラバ・ディルムラット)、アジェ(ドン・ズージェン)の3人は、ある女性の別荘を襲撃していた。途中、やって来た女性を縛りつけると、彼女を車を奪って逃走するが、ガス欠で足止めを食ってしまう。3人は近くにあった、閉店したと思しい雑貨店の建物に侵入して、やり過ごすことにした。
1993年からずっと閉ざされているらしいが、その割にはあまり荒れていない店内を訝りながら散策していると、閉ざされたシャッターの投函口から、手紙が差し込まれた。
好奇心から手紙を読んだ3人は、どうやらこの店、“無名雑貨店”がかつて悩み相談を受け付けていたことで評判を呼んでおり、ネット上に今夜ひと晩だけ窓口を再開する旨が告知されていることを発見する。
手紙の主は、北京でミュージシャンを目指しているようだが、父が病を患ったことで、家業を継ぐべきか悩んでいるらしい。しかし店内に人の姿はない。シャオボーとトントンは戯れに、このミュージシャンに返事を書いてみることにした。
ルールに従い、店の裏の牛乳箱に返信を置くと、何故かあっという間に返事が届いた。シャオボーたちが返事に書いた“ネット”や“配信”が、理解できない様子の文面にしばし困惑するが、アジェが買い出しに出かけて戻るまでの短い時間が何故かシャオボーたちには1時間近くに感じられたことから、3人はあることに気づく。
どうやらいま、この雑貨店の中だけ時間が歪んでおり、過去から手紙が届く状態になっているようだった――
[感想]
予め原作を読んでから鑑賞したのだが、ちょっと驚くくらいに、東野圭吾による原作に忠実な作りとなっている。
舞台を中国に変え、それに添って時代設定や、劇中に登場する風俗は変更されているが、大枠が原作どおりに進むよう、きちんと配慮されている。特に、原作では“ビートルズ”を使っていたところに、“マイケル・ジャクソン”を当て嵌めているところが絶妙に巧い。同級生達と交流せず、ひとりで聴いて踊っている少年、というヴィジュアルがその境遇を映像的に象徴しているし、何より実際にマイケル・ジャクソンを巡って起きた事件が、劇中の出来事とうまく重なって効果を上げていることに、観ていて感心するほどだった。
だが残念なことに、忠実ではあるけれど、長篇映画としての流れがだいぶ不格好だ。原作どおりの物語をなぞるため、必要な場面はしっかり拾っているのだが、如何せんこの物語は時代が頻繁に飛び、視点も繰り返し入れ替わる。小説では章を区切ることで分けられるが、映画ではそうもいかない。“小都市ミュージシャン”や“マイケル・ジャクソン”など、劇中でシャオポーたちと手紙のやり取りをすることになる人々の物語が始まる最初にはテロップが現れるが、観る側からすればそれ以上の区切りはない。長篇映画にする以上、そこをどう切り分けるか、どうやって観客の気持ちを切り替えさせるか、というところが工夫のしどころのはずだが、残念ながら本篇はその点について無頓着に映る。結果、映画としてはだいぶギクシャクした語り口になってしまった。
もうひとつ引っかかるのが、美術である。物語の鍵となる無名雑貨店の店舗は、恐らく建物ひとつを隅々までリメイクしたか、或いはスタジオにそっくりセットを組んでいる、と思われる。多彩な商品が豊かに陳列されていた様を窺わせる作りにはなっているのだが、雰囲気がいささか非現実的に過ぎるように映る。雑貨店、というよりも、おとぎ話に登場するお菓子の家のような佇まいなのだ。実際にスタッフがそんな雰囲気を狙ってデザインしたのかも知れないが、出来事はファンタジーでも展開はリアルな物語といまいち合わないように思える。何より、ひとが暮らさなくなった建物に見えにくい。登場人物が「ホコリを被っていない」と廃墟としては奇妙な点を挙げ、現実に囚われない空間であることを示唆してはいるものの、それでもあまりに浮世離れしている。あくまで好みの問題なので、本篇の表現がしっくり来る人もいるだろうが、やはり物語全体のトーンには似つかわしくない、と私は捉えた。
実は中国では、東野圭吾作品の人気はかなり高いのだという。それ故か、どうやら本篇に起用されているのは現地では人気の高い俳優ばかりのようだ。あいにく私は最近の中国圏のスター事情には疎いのだが、そうした背景からも原作の内容に敬意を払っていたことが窺える。雑貨店に迷い込んだ3人のうちひとりを女性に変えているが、男ばかりでは画面に彩りが乏しくなる、という事情もあるだろうし、何より色恋が絡まないので、物語に無理矢理ねじ込んだ印象もなく、そこにも作品に対する誠意が垣間見える。
そういう意味で本篇最大の注目点は、最重要人物である無名雑貨店の店主を、ジャッキー・チェンが演じたことだろう。言わずもがな、香港アクション映画を牽引し、いまもなお世界を股にかけ活躍する大物だが、本篇ではアクションを封印、驚くくらいの老けメイクで、落ち着いた演技を展開している。近年は役柄も多彩になり、その演技力の高さには定評があったが、今でもアクションに意欲的な彼がここまで演技に徹した作品は珍しい。誰しもが認める豊かな経験が、匿名の問いかけに時として洒脱に、時として真摯に応える店主のキャラクターに、この上ない説得力をもたらしている。ジャッキーをアクション・スターとしか見ていないひとには物足りないだろうが、俳優として培った経験とその年季が生む貫禄を充分に見せつける好演だと思う。
映画としてはだいぶ問題が多く、ぎこちない出来、と言わざるを得ない。とはいえ、肝心な要素を原作からしっかりと抽出し、本質に忠実であろうとする脚色、そして上質のキャストを揃えて臨んだその姿勢には好感が持てる。原作ファンなら、満点こそつけられないまでも楽しめるはずだし、内容的に原作の芯を外していないので、原作を知らない層でも映画として一定の満足は得られるはずだ――色々注文はつけたくなるだろうけれど。
関連作品:
『ウォーロード/男たちの誓い』/『ミラクル/奇蹟』/『1911』/『ラスト・ソルジャー』
『レイクサイドマーダーケース』/『容疑者Xの献身』/『真夏の方程式』
『素晴らしき哉、人生!』/『ビッグ・フィッシュ』/『ミッドナイト・イン・パリ』
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