TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』上映当時の午前十時の映画祭11案内ポスター。
原題:“The Nightmare Before Christmas” / 原案&キャラクター設定:ティム・バートン / 監督:ヘンリー・セリック / 脚本:キャロライン・トンプソン / 脚色:マイケル・マクダウェル / 製作:ティム・バートン、デニーズ・ディ・ノーヴィ / アニメーション監修:エリック・レイトン / ストーリーボード監修:ジョー・ランフト / 撮影監督:ピート・コザチク / 美術監督:ディーン・テイラー / ヴィジュアル・コンサルタント:リック・ハインリックス / 編集:スタン・ウェッブ / 手描きアニメーション:ウォルト・ディズニー・フィーチャー・アニメーション / 作詞、作曲&歌:ダニー・エルフマン / 声の出演:クリス・サランドン、キャサリン・オハラ、ウィリアム・ヒッキー、グレン・シャディックス、ポール・ルーベンス、ダニー・エルフマン、ケン・ペイジ、エド・アイヴォリー、ランディ・クレンショー、グレン・ウォルターズ、ケリー・カッツ、シャーウッド・ボール、スーザン・マクブライド、デヴィ・ダースト / 初公開時配給:ブエナビスタ / 映像ソフト最新盤発売元:Walt Disney Japan
1993年アメリカ作品 / 上映時間:1時間16分 / 日本語字幕:石田泰子
1994年10月15日日本公開
午前十時の映画祭11(2021/04/02~2022/03/31開催)上映作品
2016年12月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|:Blu-ray Disc|:Blu-ray Disc 3Dセット]
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/12/14)
[粗筋]
扉の向こうには、祝日の国がある。1年にいちど訪れるその日のために、それぞれの国の住民は準備を続けている。
《死者の国》の住民達の晴れ舞台はハロウィンだ。このときとばかり、子供たち脅かし恐怖させる仕掛けを繰り出し大騒ぎになる。
しかし《ハロウィン・キング》と称されるジャック・スケリントン(クリス・サランドン/歌:ダニー・エルフマン)は同じことの繰り返しに過ぎない日々に飽いていた。新しい趣向はないか、思案に暮れたジャックは、部屋を飛び出しあてもなく彷徨う。
ハロウィンを済ませた住民は早くも来年の計画に着手しようとしていたが、決断のできるジャックが姿をくらましたことに困惑する。なかでも、フィンケルスタイン博士(ウィリアム・ヒッキー)によって屍体を継ぎ接ぎして作られ、心を持った人形のサリー(キャサリン・オハラ)は、何か不吉なことが起こるのでは、と心配した。
その頃ジャックは、祝日の扉が立ち並ぶ森に到達し、ひとつの扉をくぐっていた。そこはクリスマスの国――降りしきる白い結晶が積もっているが、色とりどりに飾り立てられ、屋内には暖かな笑いが満ちていた。これこそが自分の求めていたものだ、と確信したジャックは、自分の国に戻ると、住民達に“クリスマス”の存在を教え、翌年のその日を自分たちが祝おうと目論む――
[感想]
ハロウィンの“仕掛け人”たちがクリスマスの主役になったらどうなるのか? 極めて子供っぽくシンプルな発想だが、しかし真っ向から向き合えば立派な作品になる。ましてそれが、排除されるもの、“バケモノ”を意識的に採り上げ、グロテスクさはそのままに愛らしく描くことに長けたティム・バートンが舵を取るなら尚更だ。
ミニチュアのセットに配置した人形を少しずつ動かして撮影する、いわゆるストップモーションアニメーションの手法で製作された本篇は、ティム・バートン自身が監督していないとはいえ、原案にキャラ設定、そして製作というかたちでも深く携わっているので、明白に彼の個性が滲み出している。ハロウィンの主人公たちらしく、骸骨に継ぎ接ぎの屍体など、キャラクターのモチーフは不気味なものばかりなのに、不思議な愛嬌がある。場面のひとつひとつが緻密に構築された本篇は、全篇がそれこそハロウィンの愛らしい絵葉書になりそうな仕上がりだ。
本篇の際立ったもう一つの特徴は、見せ場の多くがミュージカル使用になっている点だ。ストップモーション方式で、動きにコンマ秒単位の微調整を求められるミュージカルを採用すること自体が驚きだが、その動きにも隙がない。驚異的な一体感は、その世界観に馴染むことが出来るなら、いつまでも浸っていたくなる。
――ただ、よくあることだが、全篇が均等にハイクオリティだと、悪い意味で慣れてしまう。私の場合、その“慣れ”が早い段階で退屈に転じてしまった。
ミュージカルの質は安定していて、シチュエーションの変化、設定の活かし方も無駄がない。しかし、すべてが理想的に転がっていくので、さほど驚きはない。まだ知識が浅く、展開に想像が及ばないほど思考が子供なら素直にハマれるかも知れないが、多彩なフィクションに慣れすぎてしまったひとは、設定の荒唐無稽ぶりのほうに気を取られて没頭出来なくなりそうだ。
しかし、言い換えると、純真な“子供”に戻れるひとならば、終始ワクワク感に浸れるのではないか、と思う。ハロウィンやクリスマスのモチーフが自我を持ち、毎年たっちいちどの“出番”のために待機している、という想像力に富んだ発想は、固着的な現実から解き放たれた感性でこそ楽しめる。
羨ましいのは、ティム・バートンというひとの確固たる、そして自由なイマジネーションだ。意識的に子供の奔放な想像力に寄り添うことが出来る職人でもあるのだろうし、それに合わせることの出来るプロフェッショナルがいてこその成果だろうが、発表から30年近く経ち、実写も含む複数の新作に触れてきたあとでも、“ティム・バートンらしい”というヴィジョンが確立され、それが恐らくいまなお子供たちに訴えかける力がある、と感じられるパワーを備えているのだ。そこにははっきりと、時代を超えて残り続け、愛され続ける可能性が見える。こんな作品、なかなか作れるものではない。実写ではいささか迷走する傾向もあるティム・バートンだが、本篇と『シザーハンズ』という2作だけでも、長らく映画史にその存在を刻まれるはずだ。
……それにしても、ティム・バートンのこうしたミュージカル要素を含む作品におけるダニー・エルフマンの重要性は半端ではない。作詞作曲ばかりか、キャストに代わって歌唱も担当し、不気味な外観に反して繊細なジャック・スケリントンの内面を歌として表現する彼は、確実に作品世界の大きな部分を形成している。その後の『チャーリーとチョコレート工場』、『ティム・バートンのコープスブライド』でも同様の役割を担うダニー・エルフマンは、間違いなくティム・バートン作品における重要な存在であり、本篇はとりわけそのことを強く実感させる。
関連作品:
『ティム・バートンのコープスブライド』/『フランケンウィニー』/『シザーハンズ』/『PLANET OF THE APES/猿の惑星』/『ビッグ・フィッシュ』/『チャーリーとチョコレート工場』/『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』/『アリス・イン・ワンダーランド』/『ダーク・シャドウ』/『ビッグ・アイズ』/『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』
『狼たちの午後』/『かいじゅうたちのいるところ』/『ピンク・キャデラック』/『ブルース・ブラザース』/『ドリームガールズ』/『キング・コング(2005)』
『オズの魔法使』/『博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を・愛する・ようになったか』/『レッド・ブロンクス』/『シッコ』/『コララインとボタンの魔女 3D』/『ナイト・トーキョー・デイ』/『シュガー・ラッシュ:オンライン』/『キャプテン・マーベル』
『オテサーネク』/『パラノーマン ブライス・ホローの謎』/『犬ヶ島』
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