TOHOシネマズ上野、スクリーン7入口脇に掲示された『大室家 dear friends』チラシ。
原作:なもり / 監督&コンテ:龍輪直征 / シリーズ構成&脚本:橫谷昌宏 / 助監督:岩﨑安利 / キャラクターデザイン:植田和幸 / 総作画監督:植田和幸、郁山想 / 撮影監督:浅川茂輝 / 美術監督:緒続学 / 色彩設計:小松亜理沙 / 編集:瀧川三智 / 音響監督:ひらさわひさよし / 音響制作:ハヤブサフィルム / 音楽:白戸佑輔 / 声の出演:斎藤千和、加藤英美里、日高里菜、上坂すみれ、東山奈央、悠木碧、三森すずこ、倉知玲鳳、伊藤彩沙、古賀葵、豊口めぐみ / アニメーション制作:パッショーネ×スタジオリングス / 配給:Showgate
2024年日本作品 / 上映時間:44分
2024年6月21日日本公開
公式サイト : https://ohmuroke.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2024/6/22)
[粗筋]
大室家のクールな長女・撫子(斎藤千和)は近ごろ、夜になると部屋にこもって、誰かと電話をしている。どうやら、恋人が出来た、そんな雰囲気だった。
姉に比べ素行の色々と残念な櫻子(加藤英美里)と、その幼馴染の古谷向日葵(三森すずこ)はなんとなくその事情を察して、少なからず興味はあるのだが、撫子のガードは固く、なかなか踏み込んで聞き出せない。
しかし、それはそれとして、櫻子よりも聡明な三女・花子(日高里菜)も交えた大室家の日常は、相変わらず賑やかで、平和だった――
[感想]
……前作の感想で、“この項とおんなじ粗筋でも構わないんじゃなかろうか”なんて書きましたが、さすがに申し訳ないので、書き直しました。どのみち、長々とは書きにくいし。
しかし実際、流用してもさほど問題はなかったのも事実だ。基本的には、大室家の三姉妹の日常を中心に、それぞれのクラスメイトとのまったりとした日常を描いているだけである。
ただ、今回は前作に比べ、長女・撫子、とりわけ彼女の交友関係に焦点を当てている感がある。ポイントは、原作でも未だに明かされていない、撫子の恋人だ。
粗筋にも記したように、撫子に恋人がいることは、毎夜部屋にこもってかける電話の様子から窺える。だが相手はまったく解らない。この作品は、『コミック百合姫』の系列で発表された『ゆるゆり』という漫画のスピンオフであり、タイトル通り緩い“百合”、女の子同士の恋愛関係を描いている。緩いので、なんとなく気があるような描写、他の女の子との関係にちょこっと嫉妬するような感情の動きを可愛くコミカルに扱っているだけだから、撫子の相手も女の子だろう、と推測される。なおかつ、それが彼女が高校で行動を共にする仲のいい3人の中にいるらしい。
実はこの『大室家』という作品のいちばんの発明であり、特筆すべき点はこの撫子の恋愛問題だ、と思う。何故ならこの作品は、この謎を利用して、次女・櫻子やその幼馴染・向日葵を翻弄してコミカルな見せ場にするばかりか、観客までも思わせぶりな描写で振り回すのだ。
途中、撫子と恋人との通話のなかで、ヒントらしき要素が提示される。当然、観客はその手懸かりが3人の友達の誰と繋がるのか、確認したくなる。だが、いざ肝心の場面になると、そこが明確にならないような仕掛けをしてくるのだ。ヤキモキさせられるが、ちょっと大胆なくらいのはぐらかしようがちゃんとユーモアになっているので、苛立ちではなく、牽引力として最後まで機能する。
基本的に本篇は原作通りに描かれており、エピソードの並び替え、再構成を施しつつ細部を補っている程度だが、この再構成が絶妙だ。日常の断片に蓄積で成り立つ、日常系の漫画は、細切れに気晴らしになるが、全体を貫く出来事なりモチーフに欠くので、通しで読むにはあまり適さないことが多い――このシリーズや原点『ゆるゆり』に限っては、笑いの仕掛け方が巧いので、単行本1巻ぐらいならあっという間に読ませてしまう力があったが、映画として組み立てられた本篇では、撫子の恋人の謎、という要素ゆえに惹き込まれてしまう。あまつさえ、日常系ではあまりしないくらい、初見から細かな表情、所作にまで注目させられてしまう。そうして、丁寧な作画と所作の演出までが、観る者の印象に刻まれてしまう。
あくまでもライトな“百合”がテーマで、その関係性に深く踏み込むこともしない。全体を通して大きなドラマが展開するわけでなく、前述した通り、原作に従って本篇でも撫子の恋人は明示されない。その曖昧さに苛立つような人もいるだろうが、そもそもそういう人には要のない作品なのだ。それぞれに個性の立ったキャラクターの愛らしさと、ちょっとした関係性の違いから来る、些細で甘酸っぱい感情の揺れを愛で、そこを繊細にイジって生み出す笑いに浸るのがこのシリーズの楽しみだろう。そういう意味で、きちんと理想に高められた、いい映画化だと思う。
……まあ、それでも、前作と合わせてもやっと90分程度なのだから、まとめて1本にしても良かったんじゃ、という嫌味は拭えないが、別々にしているから、撫子の恋人、というフックがきちんと機能した、とも言える。このクオリティと心地好さを担保する短さと、割引なし、という価格設定の飲み込める人だけが、映画館で楽しめばいい。
関連作品:
『大室家 dear sisters』
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔新編〕 叛逆の物語』/『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』/『ARIA the BENEDIZIONE』/『トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』/『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』/『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』/『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』
『映画 けいおん!』/『のんのんびより ばけーしょん』/『映画 ゆるキャン△』/『きんいろモザイク Pretty Days』
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