ユナイテッド・シネマ豊洲の通路壁面に掲示された、ゆうきまさみ&高田明美のサイン入り『機動警察パトレイバー2 the Movie 4DX2D』ポスター。
企画&原作:ヘッドギア / 監督:押井守 / 脚本:伊藤和典 / 演出:西久保利彦 / キャラクターデザイン:高田明美、ゆうきまさみ / メカニックデザイン:出渕裕、河森正治、カトキハジメ、藤島康介、佐山善則、伊東守 / 作画監督:黄瀬和哉 / 撮影:髙橋明彦 / 美術監督:小倉宏昌 / 色彩設計:遊佐久美子 / 編集:掛須秀一 / コンピューターグラフィックス:オムニバス・ジャパン / 音響演出:斯波重治 / 音楽:川井憲次 / 声の出演:榊原良子、大林隆介、古川登志夫、冨永みーな、池水通洋、二又一成、郷里大輔、千葉繁、阪脩、西村知道、仲木隆司、立木文彦、安達忍、小島敏彦、大森章督、竹中直人、根津甚八 / アニメーション制作:IG TATSUNOKO / 初公開時配給:松竹 / 4DX2D版配給:バンダイナムコアーツ
1993年日本作品 / 上映時間:1時間53分
1993年8月7日オリジナル版日本公開
2021年2月11日4DX2D版日本公開
2009年10月27日オリジナル版映像ソフト最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
『機動警察パトレイバー』シリーズ公式サイト : https://patlabor.tokyo/
Twitter公式アカウント : https://twitter.com/patlabor0810
オリジナル版初見時期不明(……観てないかも知れない)
ユナイテッド・シネマ豊洲にてADX2D版初見(2021/02/13)
[粗筋]
《方舟》での死闘から3年後の2002年。
日本の警察初のレイバー事件担当部署である警視庁特車二課は改組を前に、第一小隊隊長・南雲しのぶ(榊原良子)が課長代理を務める体制になっていた。はぐれ者の集まりだった第二小隊は後藤喜一隊長(大林隆介)と山崎ひろみ(郷里大輔)だけが残り、泉野明(冨永みーな)と篠原遊馬(古川登志夫)は篠原重工開発部に出向しレイバー新システムの開発に協力、太田功(池水通洋)は教官として警察学校で新たなレイバー操縦者の育成に従事、それぞれに新しい道に進んでいる。
その日、南雲は各県警でのレイバー小隊設置に向けた会議に出席していた。用件を済ませ特車二課の拠点がある埋立地へ移動しているさなか、先日開通したばかりのベイブリッジが爆撃される現場に遭遇する。
このときから日本は混乱に陥った。偶然に撮影されていた映像から、ベイブリッジを破壊したのが、自衛隊にも配備されている戦闘機から放たれたミサイルという推測が報じられるが、政府は原因を究明している、とはぐらかす。
そんななか、特車二課のプレハブを、ひとりの男が訪ねてきた。差し出した名刺には、陸幕調査部別室・荒川茂樹(竹中直人)と記されていた。荒川は南雲と後藤に、報道で流布されている映像が編集される前の素材を示す。そこに映っていた戦闘機のシルエットは、報道されているものとは明らかに異なっていた。
何かが背後で動いている――荒川はそう示唆し、警察組織の中で独立愚連隊のような立ち位置にある特車二課の人脈を使って調査して欲しい、と要請する。
後藤はさっそく、以前から協力関係にある捜査課の刑事・松井(西村知道)に情報を流し探りを入れるが、他方、南雲は心穏やかではなかった。事件に背後にいる、と仄めかされたのが、彼女と因縁浅からぬ人物だったからだ――
[感想]
1980年代末から90年代初頭にかけ人気を博し、“メディアミックス”の先駆けにもなったと言われるシリーズの劇場版第2作を、後年音響を5.1chに合わせリニューアルしたヴァージョンを土台に、4DX効果を加えたものである。2020年に劇場版第1作を同様のコンセプトで公開したところ好評を博したため、本篇も4DX版として装いも新たにお披露目となったわけだ。
往年のファンなら勘違いはしないはずだが、もしも本篇を“人気のロボット・アニメの劇場版”ぐらいのごくおおまかな理解で鑑賞してしまうと、たぶん困惑するし、満足感も得られない。なにせ、劇中でロボット――本篇の世界では《レイバー》と呼ばれる――が活躍するシーンはほんの僅かしかない。序盤の爆撃や、中盤で暗躍する一団が行う攻撃でも、ほとんどレイバーは使われないのだ。
それどころか、こうしたスペクタクルも数は多くなく、物語のほとんどは後藤や松井の暗躍、荒川や警察上層部との駆け引きで展開する。極めて剣呑な情勢を背景にしながら、重厚なドラマが繰り広げられるので、《ロボット・アニメ》という感覚で鑑賞すれば間違いなく“期待外れ”という評価を下さざるを得ないはずだ。
だがしかし、製作時からすれば近未来にあたる2002年の東京で、“戦争”が起きるとすれば、どんなものになるのか――というシミュレーションとしては極めて興味深い内容に仕上がっている。たった1発のミサイルをきっかけに、政府や自衛隊、警察が右往左往し、マスメディアは疑惑を掻きたてる。本篇は特車二課の小隊長である南雲しのぶや後藤喜一、後藤の意向を受けた松井刑事らが動き、或いは探りを入れていく様子がメインで描かれるが、そこから日本社会、ひいては長く“平和”というものを享受する社会の脆さが浮かび上がってくるさまは知的スリルに満ちている。
言わば“戦争シミュレーション”にまつわる映画、という具合で、他になかなか類を見ない趣だ。恐らくこれが出来るのは、《機動警察パトレイバー》というシリーズがもともと治安維持に携わる組織の人間を描き、その過程にシミュレーション的な要素が含まれていたからだろう。
《機動警察パトレイバー》というシリーズには、その世界観や設定をある程度保持していれば、どんなタイプのエピソードでも受け入れる懐の深さがある。企画開始時点からビデオ版アニメと漫画版がほぼ同時で始まり、それぞれに異なる物語を構築していった、という背景も恐らくは寄与しているのだろう、高い人気を受けて始まったテレビシリーズは特にこの懐の深さが顕著で、レイバーはろくに稼働せず特車二課の面々のドタバタで終わる話もあれば、怪談めいたエピソードまで登場していた。
そういう懐の深さがあるからこそ、監督は前々から構想していた“戦争シミュレーション”にまつわる映画、という発想をこの《機動警察パトレイバー》の世界でかたちにしたのではなかろうか。恐らく、他の基礎の上ではこんな趣向を、多くの観客に受け入れやすく描くのは難しいし、評価を得るのも容易ではなかったはずだ。
この傑出した着想を実現したことで、本篇は唯一無二の存在感を放つ作品となったが、その一方、前述したように、《レイバー》というモチーフの魅力があまり盛り込めなかった点が惜しまれる。この《レイバー》という発想あってこその世界観が本篇の構想を実現しているのであり、たとえ具体的な見せ場がなくとも、その存在ははっきりと感じさせるのだが、それゆえにやはり、《レイバー》そのものが動く場面を引き立てて欲しかった、と思う。前作同様、クライマックスでようやく旧特車二課の面々が揃うと共に《パトレイバー》の勇姿が拝めるが、如何せんボリュームが物足りない。
今回、前作の4DX版が好評を博したことを受け、本篇も同様にヴァージョン・アップしての公開が実現したわけだが、だからこそこの《パトレイバー》の出番の少なさが勿体ない。前作もそういう意味では食い足りない嫌味を残したが、本篇はその比ではないのだ。重要な役割を果たす戦闘機や飛行船の動きが体感出来、象徴的に降ってくる雪もある程度まで再現しているのだが、あまり必要性を感じないのである。
とはいえ、作品の独創性、ドラマとしての質は素晴らしい。《レイバー》の出番は乏しいとは言い条、そこに臨場感を付与する4DXの演出は、この作品をあえてふたたび映画館で鑑賞する意味と面白さをもたらした、という意味では、無意味ではなかった。
扱っているのは“戦争”だが、そこにあると思っている日常や平穏の脆さ、危機管理のありようを描いた本篇は、コロナ禍に翻弄される社会の姿と重なるところも多い。いまだからこそ、よりリアルに“体感”出来る物語なのかも知れない。
関連作品:
『機動警察パトレイバー the Movie 4DX2D』
『イノセンス』
『風の谷のナウシカ』/『劇場版ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』/『AKIRA アキラ(1988)』/『ピューと吹く!ジャガー~いま、吹きにゆきます~』/『WALL・E/ウォーリー』/『邪願霊』/『ペンギン・ハイウェイ』/『この子の七つのお祝いに』
『日本のいちばん長い日<4Kデジタルリマスター版>(1967)』/『サバイバルファミリー』/『シン・ゴジラ』/『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』
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