原題:“机器之血 Bleeding Steal” / 監督:レオ・チャン / 脚本:レオ・チャン、エリカ・シアホウ、チュイ・シアウェイ / 製作総指揮:ジャッキー・チェン / 撮影監督:トニー・チャン、ジャック・ジアン / 美術:メイチン・フアン / 編集:コン・チーリョン、レオ・チャン / 衣装:シュー・リーウェン / カースタンド&特殊効果:ブルース・ロウ / 音楽:ポン・フェイ / 出演:ジャッキー・チェン、ショウ・ルオ、オーヤン・ナナ、エリカ・シアホウ、カラン・マルヴェイ、テス・ハウブリック / 配給協力:松竹 / 配給:TWIN
2017年中国作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:岡田壯平
2018年11月23日日本公開
公式サイト : http://policestory-reborn.com/
TOHOシネマズ日比谷にて初見(2018/11/24)
[粗筋]
その日、リン警部(ジャッキー・チェン)は職務と家庭的事情、双方から追い込まれていた。命を狙われた遺伝学者ジェームズ博士に、自らの手で実験を施し人造人間となった兵士のアンドレ(カラン・マルヴェイ)が迫っている、という情報がもたらされる一方、病院からは、白血病で入院するひとり娘シーシーが危篤状態に陥った、という連絡が入る。公人として、職務を無視するコトバできず、リン警部は現場へと赴いた。
ジェームズ博士を確保した直後、アンドレに襲撃されたリン警部は、部下のスー(エリカ・シアホウ)らと共に激しく応戦する。しかし、博士の実験により高い身体能力を身に付けたアンドレとその部隊はあまりに強く、警察の特殊部隊はほぼ壊滅、リン警部も重傷を負う。アンドレも、気づいたときには現場から姿を消していた。
それから13年後のオーストラリア、シドニーで、『ブリーディング・スティール』と題された小説が発表された。人工心臓や人工血液を採り入れた不死身の兵士を製造する、という発想が話題となり、ハリウッドでの映画化が決定するほどの評判となったが、その直後、著者が何者かによって殺害される。
著者が殺害された当時、そこには数人の人間が侵入していた。最初は、娼婦のふりをして潜入したハッカーのリ・スン(ショウ・ルオ)。続いて現れたのが、全身をプロテクターに包む兵士たちを引きつれた黒衣の女(テス・ハウブリック)。そして最後に突入したのが、覆面を被った謎の男。
後日、リ・スンの姿は大学にあった。彼は、やけに血気盛んな女子大生ナンシー(オーヤン・ナナ)の動向を粗菓に探りはじめる。
そして、その大学には、あのリン警部の姿もあった――
[感想]
個人的にひとつだけ、まずなにをおいても指摘しておきたいことがある。
これは、“ポリス・ストーリー”作品ではない。
厳密な定義が為されているわけではないが、少なくともこれまで“ポリス・ストーリー”と冠した作品は、コミカルな描写、極端なシチュエーションはふんだんに盛り込みつつも、土台となる世界観、設定は現実の警察組織やその装備、活動内容に添っている。本篇のように、レーザー銃が実戦投入されてるとか、移植して何の問題も起こさない人工心臓が開発されてたり、あまつさえクライマックスにおいてあんな“変化”をもたらすような技術は実現もなされていない。確かに警察組織にいる人物が主人公となっているし、警察も物語に関わってはくるが、こうしたギミックの数々のほうが印象に強いことを考慮すると、本篇は“SFアクション”と捉えるべきだろう。明らかに従来の“ポリス・ストーリー”と一線を画しているため、たとえ製作者サイドが「これは“ポリス・ストーリー”の1篇だ」と強弁したとしても、多くのひとが「いや、なんか違う」と感じるのは避けられないように思う。
確かに“ポリス・ストーリー”を意識している箇所はあちこち窺える。近年のジャッキー作品らしく、主人公が家庭を持つようになっているが、そのキャラクター性は“ポリス・ストーリー”を踏襲した、使命感のある警官になっている。また冒頭の戦闘が繰り広げられる現場は、第1作を彷彿とさせる山中の村に設定されている点も挙げられるだろう。その後、幾度か繰り広げられる追跡劇に盛り込まれるアイディアの数々も、“ポリス・ストーリー”を彷彿とさせる趣向が少なくない。
しかしそれでも本篇が“ポリス・ストーリー”として受け入れづらいのは、警察のドラマである以上に、親子の物語である、という点が大きいように思う。いちおう、隠れている黒幕を追う、といった筋書きは用意されているが、本篇の主人公のモチベーションはほぼ「我が子を守る」という目的に集約されている。それ自体は、原題でも“警察故事”が冠された正統的なシリーズ作品『ポリス・ストーリー/レジェンド』とも共通しているが、娘を救う、という目的のために、職務をだいぶ頻繁に忘れてしまっているように映るので、なおさら“ポリス・ストーリー”とは捉えにくい。
なまじ放題で冠してしまっているので、“ポリス・ストーリー”らしくないところが目についてしまうが、ジャッキー映画としては、老境に至った彼らしい変化を見せつつも、基本を押さえた作りとなっている。『ライジング・ドラゴン』で身体を張ったアクションは卒業する、と宣言したとおり、観るひとが観ればだいぶ省エネになり、細かなごまかしをしているのもわかるのだが、それでも普通のアクション映画と比べればずっと趣向を凝らしたアクションシーンがふんだんだ。オペラハウスの屋根から一気に下へと移動するくだりや、乱闘となるクライマックスあたりは、作り方がややライトになっているものの、往年のジャッキー映画を彷彿とさせる。
その一方で、近年のジャッキー作品らしく、決してジャッキーの独壇場とせず、若手に活躍の場を与えていることも特徴的だ。動機のいまいち窺い知れない謎めいたキャラクターのリ・スンは頻繁にジャッキーとの絡みが用意され、知的な部分を披露したかと思えば適度なポンコツさを晒して笑いを誘っているし、普通なお姫様ポジションのはずのナンシーも随所で心憎い活躍を見せる。悪役のほとんどは同じマスクとスーツに身を包んだ有象無象だが、顔を晒したアンドレと黒衣の女(エンドロールには実際、こういうふうに記されている)は戦い方にも個性があり、その強さもあっていい具合にアクションを引き立てている。圧倒的な強さを誇るアンドレに対し、3人で総力を尽くすクライマックスには『プロジェクトA』のような趣があり、当時のゴールデン・トリオに近い役割を若手に振る、という作り方自体が、彼らに見せ場を与え引き立てる、というジャッキーの姿勢を感じさせる――或いは、こうした趣向の数々が、スタッフによるジャッキーに対する敬意の表れなのかも知れないが、ジャッキーがそれを許容しているのだから、彼らに見せ場を与える意図は間違いなくあったはずだ。
曲芸的なスタントは少なく、現代的なカメラワークや特撮の補助を多数用いた本篇のアクションは、やはり全盛期のジャッキー作品と比べると大人しく、守りに入った印象を与える。しかし、ジャッキーの年齢を考えれば、それは仕方のないことだ。それでもきちんと随所でアイディアを凝らし、新しい見せ方を工夫する施政は天晴だし、新進の監督を起用し、若いキャストに活躍の場を与えて、次世代にジャッキー流のエンタテインメントの潮流を受け継いでいこうとする意識の高さは賞賛されて然るべきだ。
率直に言えば、本篇のSF的趣向はだいぶ半端だし、オープニングタイトルや各所のCGの作りがどうにもチープで、かかっている予算のわりにB級の印象が否めないのは残念だが、作品に対する姿勢は快い。タイトルに違和感は抱いても、昔からのジャッキー作品を追ってきた者は、改めてその志の高さを感じられる仕上がりだ。“ポリス・ストーリー”ではないかも知れないけれど、底を流れるジャッキーの意思は確かに一貫している。
ちなみに本篇、日本の宣伝では“ポリス・ストーリー・ユニヴァース第10作記念超大作”などと眼討たれている。鑑賞当日のブログには、「全10作の内訳が解らない」と記したが、Wikipediaを参照してみたところ、ようやく納得がいった。
ほぼ同じ世界観にあるといえるオリジナル・シリーズが4作品あり、2000年代に入ってリニューアルされた『香港国際警察 NEW POLICE STORY』、2013年の『ポリス・ストーリー/レジェンド』の2作品がある。ここまでは原題に“警察故事”が入っており、正統的なシリーズ作品と言っていいだろう。
更に、『ポリス・ストーリー3』に登場したミシェル・ヨーを主人公とするスピンオフ『プロジェクトS』、それに実際の事件をベースに、当時としてはリアル志向で描かれた『新ポリス・ストーリー』がある。この2作は原題に“警察故事”は含まれないが、傍流作品として納得できる。
これて本篇を含めて9本。それでは残り1本はなんなのか、というのが疑問だったのだが、どうやら『新・ポリス・ストーリー/Pom Pom』を数えてしまっていたらしい――何が納得いかないかって、これは“ポリス・ストーリー”と冠しながら、ジャッキーが主役でなく、しかもこの時期の“ポリス・ストーリー”作品とも繋がっていない。ジャッキーがカメオ出演はしているものの、内容的には『五福星』のスピンオフと言ったほうが近い代物らしい。
恐らく、この当時のジャッキー人気にあやかって、邦題をつけたのだろう。カメオとは言え出演はしているので、“ジャッキー映画”と謳えなくもない――とはいえ、やっぱり釈然としない。確かにジャッキーは警官役で出演していたようだが、これも“ポリス・ストーリー”ではなく、『五福星』と同じ位置づけのキャラクターらしい。だったら、『五福星』を“ポリス・ストーリー”に数えてもいい、ということになってしまって、本篇は累計11作目になってしまうような気がするのだが……。
……まあ、あくまで宣伝戦略にすぎないので、あんまりくどくど言っても仕方ないのも承知はしているのですが、それでもモヤモヤは拭えません。“ポリス・ストーリー・ユニヴァース第10作”なんて銘打たないほうがましだったんじゃなかろうか。
関連作品:
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』/『ポリス・ストーリー2/九龍の眼』/『ポリス・ストーリー3』/『ファイナル・プロジェクト』/『新ポリス・ストーリー』/『香港国際警察 NEW POLICE STORY』/『ポリス・ストーリー/レジェンド』
『メダリオン』
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