1月31日に、2021年7月リリースの『ベスト・オブ・心霊~パンデミック~ Vol.6』を鑑賞。興味本位で心霊スポットを訪問したカップルが思いがけないかたちで恐怖を味わう《とりにもどる》、メンヘラ系女子の異様なひとり語りの映像が記録した怪異《ねらわれる》、失踪した男性が残した奇妙なVHSテープを巡る前後篇《怪魚》など、全9篇を収録。
率直に申し上げて、あんまし出来がいいとは言えないこのシリーズ、ベストと銘打っていれば多少はましな仕上がりになってる……と思いきや、それはそれで、シリーズとしての悪いところが余計剥き出しになってしまってる。
いちばんいけないのは、肝心の怪奇映像で、現象を捉えるまでの描写が不自然なものが多い、という点。《コインロッカー》は異様な出来事に遭遇する前の女子高生の会話があまりにも空々しくて、別の意図を勘ぐってしまうほどでした。もっと酷いのは、本来目玉となるべき前後篇の《怪魚》です。前篇終盤で、スタッフが相談者の同棲中の彼氏をホームの向こうに発見して……というドラマティックなくだりがあるのですが、そもそもこのスタッフ、この相談者の彼氏と面識はなく、写真で見ただけにすぎない。そんな人物が向かいのホームに立っていたとして、果たして「あの人だ」と確信を持って突撃できますか? 私なら出来ない。そもそもこの場面、なんでスタッフがカメラを回していたのかも明示されてないし、その映像に映り込んだ人物も、細部が不鮮明で失踪した人物だ、と確信が持てるレベルではない。なんでみんな、これで納得して動けるのだ。あと、その厚底の靴で魚の鱗を踏んで即「痛い!」と言うのが最高に不自然すぎる。この辺、最初に発表されたときも私、ここでツッコんでるんですが、よくこれをベストに収録したものだと思います。
ドキュメンタリー部分できっちり盛り上げてくれていれば、肝心の映像が不出来でもさほど気にしない、というのが私のスタンスなんですが、その意味でも本篇はしばしば難がある。《みられている》のいちばん衝撃的な瞬間は、カメラ目線では衝撃的だけど、怪異が完全にカメラ目線なので、撮影者がどうしてああいう反応になるのか、が意味不明になってる。少なくともそこはツッコまねばならないはず。《うけつぐ》に至っては、8ミリビデオで撮影されているのに、序盤の“変わった映像”と呼ぶ部分での異変が、解像度が高すぎるのです――もし8ミリカメラのレンズで記録されたものなら、写り込むものの画質も、他の被写体と一致するはずでしょ?
ただ、こうしたディテールで大いに問題を孕みつつも、実は個々の映像の発想、展開自体は決して悪くないのです。《とりにもどる》は王道のシチュエーションにひねりを効かせて、それなりに興味深い内容になってますし、《うけつぐ》や《怪魚》など、その構成だけに注目すればけっこう面白いし、怖さもある。徳丸というスタッフの造形にも露わな、作り込みの甘さがこのシリーズの弱点である、というのが、ベストであればこそ明白になっている感じ。
ベスト、というだけあって、確かにシリーズ全体で見れば、わりと見応えのある作品が揃ってる。しかしそれゆえに、シリーズの問題点やクセの強さも浮き彫りになっているので、ある意味、入門篇としては正しい……のだろうか。
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