ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場、スクリーン10入口脇の座席表下に掲示された『シークレット・マツシタ 怨霊屋敷』チラシ。
原題:“Secreto Matusita” / 監督:ドリアン・フェルナンデス・モリス / 脚本:パコ・バルダレス、ドリアン・フェルナンデス・モリス、ウルスラ・ビルカ / 製作:ネヴェンカ・ヤノヴィチ / 製作総指揮:ドリアン・フェルナンデス / 撮影監督:ガブリエル…ディ…マルティノ / 美術監督:エリカ・フェッツァール / 編集:ロジェール・ヴェルガラ・アドリアンセン、レンツォ・ガレッシオ / 出演:ブルーノ・エスペホ、ルピタ・モーラ、エドゥアルド・ラモス、ウィリー・グティエス / 配給:TOCANA
2014年ペルー作品 / 上映時間:1時間17分 / 日本語字幕:?
2022年1月21日日本公開
公式サイト : https://secret-matsushita.com/
ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場にて初見(2022/1/27)
[粗筋]
ペルーの首都リマには、当地で有名な都市伝説の舞台が存在する。《マツシタ邸》と呼ばれるその屋敷のあった土地には最初、ペルシャ系のパルバネ・デルバスパという女性が居を構えていた。祈祷師のような仕事をしていた彼女はいつしかその素性を疑われ、当時のスペイン領でも最後の魔女裁判によって火炙りの刑に処された。死の直前、デルバスパは「私の死後、あの屋敷に足を踏み入れた者はすべて呪われる」という呪詛を残した。
建物は建て替えられたが、しかしそれ以来、忌まわしい出来事は繰り返された。残酷な主人に使用人たちが復讐を試みた結果、食堂で主人と客たちが互いに身体を刻み合う謎の惨劇が起きる。それから1世紀を経た頃、最後の所有者となった日系の移民・マツシタ一家もまた、主人が妻と密通した男、そして我が子までも手にかけたあとで切腹する、という悲劇で全滅する。
その後、呪われた屋敷として知れ渡ったこの屋敷に暮らす者はなかったが、一夜を明かした著名人が発狂して精神病院送りになるなど、奇怪な出来事は続いている。《マツシタ邸》はペルーでは知らぬ者ののない“心霊スポット”となっていた。
2013年9月、この《マツシタ邸》に秘められた謎を探るべく、ファビアン(ブルーノ・エスペホ)、ヒメネ(ルピタ・モーラ)、ルイス(エドゥアルド・ラモス)という3人の大学生が侵入した。掻き集めた複数のカメラに温度計、超音波測定器など複数の機材を各部屋に設置し、怪奇現象を記録、ドキュメンタリーとしてまとめることが彼らの狙いだった。
ヴィデンテ(ウィリー・グティエス)という霊媒師も加えた4人は、買収した警備員が怖じ気づいたために、当初の予定が大幅に遅れ、日も暮れた時間にようやく《マツシタ邸》へと潜入した。準備を整えたあとでヴィデンテが儀式を催し霊を刺激する手筈だったが、怪異は機材を設置している合間にも頻繁に記録されるようになる。
しかし、この4人が屋敷を出ることはなかった。“失踪”から半年後にようやく発見された映像の数々は、彼らを襲った壮絶な恐怖を確かに記録していた――
[感想]
現代の日本人にはそこまで意識されていない気がするが、かつて日本とペルーの縁は深かった。一時期、様々な夢や希望を胸に多くの日本人が海外に移住しており、ペルーもその目的地としてよく名前が挙がっていた。1990年代には日系2世のアルベルト・フジモリが大統領に就任していた、という事実が、どれほどかの地に日系人が根付いているか、のいい証左だろう――その後の混乱、軋轢はさておくとして。
それだけ縁が深ければ、現地の都市伝説に日系人が影響を与えていても、確かに不思議はない。事実、本篇の舞台となるマツシタ邸は、リマに本当に存在し、都市伝説の舞台となっているらしい。日本や韓国でも、いわゆる“心霊スポット”として有名な場所や、広く知れ渡った怪奇事件をモチーフにしたホラー映画はしばしば撮影されているが、やはりそういう恐怖に踏み込んだ身近なモチーフは、どこでも題材にされる可能性がある、ということだろう。
本篇は作りも、一時期持てはやされ、もはやひとつの手法として確立された感のある“ファインディング・フッテージ”の様式で撮影されており、製作国こそ映画の分野では馴染みの薄いペルーだが、ホラー映画好きには馴染み深さを感じる仕上がりだ。
しかし、題材や見せ方は親しみがあっても、その描写から垣間見えるペルーの社会がなかなかに興味深い。日本でもアメリカでも、怪奇現象が頻繁に確認された、とされるスポットはだいたい人里離れたところや、開発の遅れた街になりがちだ。しかし本篇に登場するマツシタ邸は、ペルーの首都にある。しかも、本篇序盤の描写から推測すると、かなり栄えた一画にある。日本でも、都会の真ん中にそうしたスポットもないわけではないが、人通りが多いぶん、無断で立ち入ることは難しく、まして撮影の許可は下りにくい。マツシタ邸のような立地条件で残っていることも、撮影に活用出来ることも、こちらの感覚では特異なことだ。それが許されるような緩さがペルーの社会にあることが窺える。
そして、舞台が日系人の所有していた邸宅であるだけに、日本の文化がちりばめられているのも興味深い。舞台そのものの来歴からすれば当然とも言えるが、こういう描き方が成立し、現地ペルーでヒット作となったあたりにも、かの国に日本からの移民と彼らがもたらした文化が根を下ろしていることの証左だろう。ホラーとしての見せ方も、肝を潰すような趣向がある一方で、固定カメラに見切れる姿や、ちらつく影でその存在をじりじりと近づけていく、湿り気のある演出に日本産ホラーの影響感じられる、というのも面白いところだ。
とは言うものの、やはり日本人の目で見ると、こちらの文化に密接に触れてきたひとが構想したギミックではないな、と感じるものが大半だ。解りやすいがあからさますぎる《死》という文字の多様、拵えに違和感の拭えない日本刀、かつての邸宅の主が移住した時期を考えると不自然すぎるレコード。細かに見ればまだまだありそうだが、このあたりは特に目につく。クライマックスのある出来事など、日本人ならある程度は知っている“作法”が窺えない。それゆえに、日本由来の“呪い”と示唆されても、いささか腑に落ちない。
ただし、これはやや口うるさい見方だろう。ホラー映画が、その世界に没入し、カメラの前で繰り広げられる怪異に恐れおののく感覚を楽しむものだ、と考えれば、細かな辻褄よりも、題材の近しさと、ひとつひとつの怪奇現象が観客の恐怖を誘うか否か、のほうが重要だ。それが成功していれば、成績にも結びつく。現地ペルーでヒットした、という事実が、本篇の成功の確かな証だろう。
ここで私がこんなことを書いているのは、日本での公開が実現してしまったからだ。恐らく製作者はそこまで考えず、ペルーの観客を想定して本篇を撮っているはずだ。日本文化の扱いの面から批判するのは、いささか気の毒だろう。
まあ、そうした日本文化の不自然さを差し引いたところで、怪奇現象ひとつひとつが恣意的で因果関係が感じられず、ほとんどの出来事が唐突に映る、というのは気になる。しかし、劇中に存在するカメラで捉えるスタイルの作品ならではの没入感で恐怖を感じられるよう組み立てられているのだから、ホラーとしては悪くない。そして、日本人的にも、日本文化のモチーフの歪さも含め、移民として溶け込んできた日本文化がこういうかたちで現れてきたことが興味深い。
あまり堅苦しく考えず、ツッコミどころも含めて、ホラーとしての創作性を楽しむべきだろう。、個人的に、カメラが記録を終える直前の映像と、後日談がなかなか好きだ。
関連作品:
『パラノーマル・アクティビティ』/『グレイヴ・エンカウンターズ』/『死霊高校』/『事故物件 恐い間取り』/『樹海村』/『戦場のメリークリスマス』
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