『スーサイド・スクワッド(字幕・3D・IMAX)』

TOHOシネマズ新宿、スクリーン10入口に掲示されたチラシ。 スーサイド・スクワッド [Blu-ray]

原題:“Suicide Squad” / 監督&脚本:デヴィッド・エアー / 製作:チャールズ・ローヴェン、リチャード・サックル / 製作総指揮:ジェフ・ジョンズ、スティーヴン・ニューチン、デボラ・スナイダー、ザック・スナイダーコリン・ウィルソン / 撮影監督:ロマン・ヴァシアノフ / プロダクション・デザイナー:オリヴァー・スコール / 編集:ジョン・ギルロイ / 衣装:ケイト・ホウリー / キャスティング:リンゼイ・グラハム、メアリー・ヴェルニュー / 音楽:スティーヴン・プライス / 出演:ウィル・スミス、ジャレッド・レトマーゴット・ロビージョエル・キナマンヴィオラ・デイヴィスジェイ・コートニー、ジェイ・ヘルナンデス、アドウェール・アキノエ=アグバエ、カーラ・デルヴィーニュ、福原かれん、アダム・ビーチ、ベン・アフレックエズラ・ミラー、アイク・バリンホルツ、スコット・イーストウッド、シェイリン・ピエール=ディクソン、コリーナカルデロン、ジム・パラック、コモン、アラン・シャノワーヌ、ジェイソン・モモア、ケヴィン・ヴァンス / アトラス・エンタテインメント製作 / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.

2016年アメリカ作品 / 上映時間:2時間3分 / 日本語字幕:アンゼたかし / PG12

2016年9月10日日本公開

2018年1月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon|エクステンデッド・エディション ブルーレイセット:amazon|エクステンデッド・エディション 2D&3Dブルーレイセット:amazon]

公式サイト : http://wwws.warnerbros.co.jp/suicidesquad/

TOHOシネマズ新宿にて初見(2016/9/12)



[粗筋]

 スーパーマン亡きいま、もしもスーパーマンのようなテロリストが出現したなら。

 社会はその深刻な課題を突きつけられ、準備の必要を迫られていた。だがアマンダ・ウォラー(ヴィオラ・デイヴィス)は、この状況だからこそ、かねてから準備していた腹案を実行に移す決意をする。バットマン(ベン・アフレック)や謎の男らの活躍により確保した、特殊能力を持つ“超人類”の悪党たちを、スーパーマン級の“脅威”に対する使い捨ての部隊として動員するのである。

 1人目のメンバーは、デッドショット(ウィル・スミス)。4km離れた場所からも狙撃が可能な天才的な殺し屋である。交渉によって報酬を釣り上げ悠々と立ち回っていたが、唯一の弱みである娘との面会中をバットマンに襲撃され、囚われの身となった。

 2人目は、ハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)。かつて精神科医だったが、刑務所に収容されていた最凶の男、ジョーカー(ジャレッド・レト)と恋に落ち、彼の手によって狂気のクイーンに作り替えられた。ジョーカーと共にヴィランのキングとクイーンの如く振る舞っていたが、バットマンの追跡を逃れるうちに海に転落、泳げなかったためにあえなく御用となった。

 3人目はキャプテン・ブーメラン(ジェイ・コートニー)。オーストラリアを荒らしつくし、アメリカまで進出してきた強盗犯。その名の通りブーメランを駆り、仲間でさえも容赦なく殺す残虐ぶりだったが、謎の“超人類”によって捕らえられた。

 エル・ディアブロ(ジェイ・ヘルナンデス)はかつてLAのギャングを牛耳る王者だったが、妃を失った失意により自ら首を差し出した。しかしその残虐性は健在で、刑務所での暴動の際には周囲の囚人をまとめて灰にした。

 キラー・クロック(アドウェール・アキノエ=アグバエ)は魁偉な外観のためにバケモノとして扱われ、バケモノになった男。人間離れした力を備えていたが、これもバットマンによって追いつめられた。

 最後のひとりは“魔女”エンチャントレス。その封印を解いてしまった女性考古学者ジューン・ムーン博士(カーラ・デルヴィーニュ)に取り憑いている。最も危険な存在だが、ウォラーによって心臓を押さえられている限り抵抗は出来ない。

 そして部隊を指揮するのはリック・フラッグ大佐(ジョエル・キナマン)。ウォラーの計略によりムーン博士と恋仲となっており、ジューンの自由のために手綱を握られている状態にある。

 だが、エンチャントレスはウォラーの思惑を超えた行動に出た。“魔女”はウォラーの手許の像に封印されていた“インキュバス”を解き放ったのだ。地下鉄の駅を破壊し暴れ回る“インキュバス”を制し、ある重要人物を保護するため、フラッグ大佐率いる“決死部隊(スーサイド・スクワッド)”が動員された――

[感想]

 正直に言って、全篇に“こんなはずじゃなかったのに”感が漂う作品である。

 DCコミックに登場するヴィラン(悪役)を結集させ、“自滅しても構わない特殊部隊”として登用する――という発想だけ聞くと面白そうだが、そもそもこの作品、DCの実写映画化シリーズを統合する“DCエクステンデッド・ユニヴァース”のなかでは第3作なのである。そして、ヴィランを集結させる、とは言い条、これより先行する2作品に登場したヴィランはひとりもいない――きちんと確認したわけではないので断言はしにくいのだが、多少なりとも活躍した面々にも名前を連ねていないのは確かだ。DCコミックの原作シリーズにまったく通じていない者なら――かく言う私自身も該当するが――たぶん理解できるキャラクターは『ダークナイト』にも登場したジョーカーぐらいのものだろう。そういう段階でいきなり“悪役大集合”と言われても、本国アメリカ以外ではピンと来ないひとがほとんどではなかろうか。

 また本篇は、監督の構想とスタジオ側の構想がうまくすり合わせられなかったようで、最初の試写の反響が悪く、唯一好評だったという、ジョーカーの恋人ハーレイ・クインの露出を増やすかたちで追加撮影や編集が施され、公開時の体裁となったらしい。

 不安を誘うような情報だらけだが、少なくとも観ていて退屈はしない。原作コミックに親しんでいない観客にはほぼすべて初見の悪役ばかりだが、みな奇妙にキャラは立っていて、存在感はある。ブラッシュアップの段階で扱いが大きくなったというハーレイ・クインの、サイケデリックな装いと、キュートだが凶悪な振る舞いのインパクトが確かに強く、彼女の魅力に焦点を合わせつつ、きちんと各キャラクターが個性に合わせて活躍している。

 翻って惜しまれるのが、ジョーカーの扱いだ。恋人がフィーチャーされたぶんだけ割りを食った――という見方をしたくなるが、そもそも本篇のストーリーにおいて、ジョーカーは活躍しているとは言いがたい。たとえ誰かに強制されたとしても素直に徒党を組むはずがない、というキャラクターの性質上やむを得ないとこなのだが、それにしても本筋と関係のないところで奇矯な振る舞いをしすぎていて、どうにも浮いている。

 だがこの作品の大きな弱点は、わざわざ“死んでも構わない”悪役を投じる必要のある戦いなのか? という疑問が拭えないことだ。確かに人智を超えた敵ではあるのだが、DCコミックで言えばスーパーマンワンダーウーマンあたりが出張ってもおかしくないし、仮に人間だけで挑むにしても、こんなに身勝手な連中が思い思いに攻めるより、きちんと作戦を立てたほうがいいように見える。

 そして何より、せっかく悪役を結集した話なのに、結果として終盤は普通の“英雄譚”に着地してしまっている。悪人だろうと人間的な部分はある、という考えを否定はしないが、折角の“悪党”というこの作品ならではの個性が終盤に至って著しく損なわれていることがどうにも惜しまれる。もっと、当人の利益を第一に考え、感情に身を委ねるような人物たちの寄せ集めならではの見せ方が欲しかったところだ。

 斯様に弱点だらけの作品だが、見所はある。監督のデヴィッド・エアーはもともと脚本で注目されたが、監督としては銃火器を用いたアクションを評価されてきた人物だ。本篇でもしばしば登場する銃撃戦の描写は多彩でインパクトに富んでいる。私は本篇をIMAXスクリーンで鑑賞したが、映画館で観るに相応しいパワーは備えている。

 また、完成を前に扱いが良くなった、というだけあって、ハーレイ・クインの描写は実に魅力的だ。確かに悪党としか呼べない言動ばかりなのだが、むくつけき男共の中でチャーミングな存在感を放っている。スレンダーな体格で巨漢どもと渡り合いながら、恋人ジョーカーにゾッコンなあたりなど愛らしくさえある――相手が人類の危機にも組織の思惑にも無頓着な狂人なので、危なっかしさの方が際立ってしまっているが。

 恐らく製作サイドには、大きく後塵を拝しているマーヴェル作品でもその可能性を仄めかされるヴィランの共演作に先鞭をつけるべく発表を急ぎたかった、という事情もあるのだろう。しかし、悪役はおろか、肝心のヒーローさえも2作品、顔見せのみのものを省けば実質3名しか登場していない段階でのこの趣向は、やはり無理があったように思う。

 銃火器を多用したアクションの描写には監督の確かなセンスが窺えるし、キャラクターもある程度立っている。ヴィジュアルとしての完成度も高いレベルを保っており、ただただ“もったいない”という気分になる作品だった。

 恐らく製作サイドにとっても不本意な仕上がりになってしまった本篇だが、このあとの『ワンダーウーマン』の成功などもあってか、現時点で続篇の製作は確定しているらしい。

 しかし、噂が聞こえてきた段階で、既にデヴィッド・エアーは監督を外されている。例によって他の候補が浮上しては消え、を繰り返し、これを書いている現在、監督には『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガンが就くことになった。

 マーヴェルの諸作の中でも特にクセ者だらけ、いちおうはヒーロー扱いだが本質的に小悪党ばかりのキャラクターを巧みに束ねた監督であるだけに、本篇での後悔を払拭してくれるのでは、と期待したくなるが、現時点でデッドショットがウィル・スミスのスケジュールのために不参加が確定していて、まだまだ予断を許さない状況だ――個人的にはマーヴェルの少々行儀のいい作品群より、シリアスにもクレイジーにも振り切れるDCのほうでこそジェームズ・ガンの作風は活かせる、と感じているので、次こそそのポテンシャルを発揮してくれると嬉しいのだけど。

関連作品:

マン・オブ・スティール』/『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生

フェイク シティ ある男のルール』/『サボタージュ(2014)』/『フューリー

メン・イン・ブラック3』/『ダラス・バイヤーズクラブ』/『マネー・ショート 華麗なる大逆転』/『ロボコップ(2014)』/『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』/『ダイ・ハード/ラスト・デイ』/『レイクビュー・テラス 危険な隣人』/『ポンペイ』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『アンナ・カレーニナ』/『カウボーイ&エイリアン

ダークナイト』/『シン・シティ』/『プレデターズ』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『デッドプール2

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