『アンフレンデッド』

アンフレンデッド [Blu-ray]

原題:“Unfriended” / 監督:レヴァン・ガブリアーゼ / 脚本:ネルソン・グリーヴス / 製作:ネルソン・グリーヴス、ティムール・ベクマンベトフ / 製作総指揮:ジェイソン・ブラム / 撮影監督:アダム・シッドマン / プロダクション・デザイナー:ヘイディ・コレト / 編集:アンドリュー・ウェズマン、パーカー・ララミー / 衣装:ヴェロニカ・ベレニキナ / キャスティング:ジョン・マクアラリー / 出演:シェリー・ヘニッヒ、モーゼス・ジェイコブ・ストーム、レニー・オルステッド、ウィル・ペルツ、ジェイコブ・ワイソッキ、コートニー・ハルヴァーソン、ヘザー・ソッサマン、ミッキー・リヴァー、キャル・バーンズ、マシュー・ポーラー、コンスタンチン・ハベンスキー / バザレフス・カンパニー/ブラムハウス製作 / 配給:MIDSHIP / 映像ソフト発売元:TCエンタテインメント

2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間23分 / 日本語字幕:?

2016年7月30日日本公開

2016年12月21日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://unfriended.jp/

DVD Videoにて初見(2019/3/14)



[粗筋]

 ブレア(シェリー・ヘニッヒ)とミッチ(モーゼス・ジェイコブ・ストーム)がパソコンのビデオ通話で愛を囁き合っていると、突然グループチャットの呼びかけが入った。慌てるブレアとミッチを、回線越しに仲間たちが囃したてるが、奇妙なことに、誰がグループチャットを呼びかけたのかが解らない。

 やがてブレア達は、参加者リストのなかに見知らぬ人物が参加していることに気づく。いったんチャットを止めて再度繋ぐことにしたが、まだ謎の人物のアイコンが表示されている。そのあいだ、ブレアがテキストでミッチとメッセージをやり取りしていると、ミッチがローラ(ヘザー・ソッサマン)からメールが届いた、と言い出し、その直後、SNSのローラのアカウントから、ブレア宛にメッセージが届いた。

 もういちどビデオチャットを始めるが、やはり謎のアイコンが参加したままだった。そのときミッチがメッセージで、ちょうどこの日がローラの命日であることを指摘する。

 ローラはブレアの親友だった。だが、ちょうど1年前、友人たちの前で拳銃自殺を遂げている。ブレアはローラのアカウントが乗っ取られた、と判断し、SNSの運営に通報を試みるが、何故かあり得ない現象が繰り返され、通報出来ない。

 果たしてこのアカウントを利用しているのは何者なのか、グループチャットに混ざっている謎のアイコンの正体は何なのか――?

[感想]

 2018年末にスマッシュヒットとなった『search/サーチ』は、全篇PC画面のみで構成する、という手法で注目を集めたが、実は本篇のほうが先取りしている。恐らくは本篇で可能性を感じた製作のティムール・ベクマンベトフが、本篇での経験と反省を異なるジャンルで試した結果なのだろう。

“反省”といきなり書いてしまったが、率直に言えば本篇は、アイディアこそ斬新だが、それ故に恐らく気づきにくかった重大な欠陥があった。

 画面や音声において展開される情報があまりに多すぎて、観客が処理しきれなかったり、観逃してしのう可能性が高いのだ。

 自身でパソコンを使っている状況なら、その時々に自分が何を求めているのか理解しているから、多少ウインドウが重なっても混乱はしない。しかし、自分以外の人間が扱っているパソコン画面を、キーボードやポインタを操作する手許を見届けずに理解するのは、言うほど楽ではない。PCに慣れている人間でもそうなのだから、PCの経験が乏しいひとにとって、本篇はかなり取っつきにくいのではなかろうか。

 恐らくはそういう反省を踏まえ、『search/サーチ』では要所要所で画面の一部をクローズアップし、観客の注意をそこに集中させる工夫をしている。本篇と比較すると、この工夫一つで圧倒的に理解しやすくなっているのだ。翻って、そういう工夫にまで至っていない本篇は、やもすると観客が置いてけぼりに鳴る危険を孕んでしまっている。実は、情報の理解、という意味では、必要な情報を字幕という形で表現してくれるぶん、英語圏に属さないひとのほうが本篇は理解しやすいかも知れない。

 しかし、趣向としては非常に興味深いことは確かだ。グループでビデオチャットを楽しむ傍ら、その中のひとりにテキストメッセージを用いて、他の面子に知られないよう会話を交わす。同時にネット上の情報を参照したり、適宜動画やソフトウェアを共有することで、同じ画面の中でまた異なるシチュエーションが展開していく。そうして、PCにおいて許される様々な方法で新たな情報を提示し、物語を進めていく。劇中にある特定のカメラの目線を用いた“主観視点撮影”はすっかり映画のいち手法として定着した感があるが、本篇はそれを更に押し進めた意欲作であることは間違いない。

 と。試みとしては素晴らしいのだが、残念ながらそもそものホラー映画としての完成度がいまひとつなのが惜しまれる。

 いけないのは、背景と起きている現象とを、観客の意識上でうまく結びつけられていない点だ。どうやらローラという少女の死が背後にあることは解るのだが、何故このタイミングで、こんな現象が起きるのか、がいまいちピンと来ない。劇中で伝わるのは、物語がちょうどローラの一周忌の出来事ということぐらいで、その後、ビデオ通話しているメンバーが次々と悲劇に見舞われる原因や理由、その意味は解らない。背景を謎にすることで恐怖を演出するのもホラーのやり方のひとつだが、ここまで関連性が見出しにくいと、登場人物が訳の解らないことで騒いで、いつの間にか消えていってる、という印象を与えてしまう。表現手段が特殊なので、どうしても画面上に入れられる情報が制限されてしまうとはいえ、本篇はホラーとしての語り方を誤った物語、という気がしてならない。

 ただ、クライマックスにおいて、謎の人物が仕掛ける“ゲーム”から、本当の人間関係や各々の本性が露わになるくだりは、異常に見応えがある。アカウント“ローラ”の向こうにいる人物の謎よりも、ここで明かされる事実の方がはるかに怖い、と感じるほどだ。その狂騒的な展開に、ブラックな笑いさえ湧いてくる。複数の人物が異なる場所で同時に経験している出来事、味わう感情がひとつの画面上で展開する本篇ならではであり、この趣向を最も活かしているシーンと言えるだろう。

 また、現象の関連付けなどでの演出に失敗している一方で、『search/サーチ』でも用いられている、テキスト入力の際に生まれる躊躇の間や、いちど書いたテキストを消して書き直す、というアクションなどで、視点人物や回線の向こうにいる人物の感情や本音をちらつかせる表現は既に完成されている。ロードや相手の書き込みを待つあいだの沈黙が、否応なしに恐怖や緊張を盛り上げており、初めての試みながら、その利点をある程度理解していることは評価できる。

 趣向の先進性と意欲が先走り、トータルでは失敗に終わった印象だが、その表現の可能性を確実に見せつけた作品と言える。本篇にあまり納得のいかなかったひとは、とりあえず『search/サーチ』で、本篇の秘めていた可能性を確認していただきたい。そして個人的には、ふたたびティムール・ベクマンベトフがこの手法でのホラーに臨んだ『アンフレンデッド/ダーク・ウェブ』や、自らが監督として手懸けた『Profile』に期待してみたい。

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