『サンシャイン・クリーニング』

『サンシャイン・クリーニング』

原題:“Sunshine Cleaning” / 監督:クリスティン・ジェフズ / 脚本:ミーガン・ホリー / 製作:グレン・ウィリアムソン、マーク・タートルトーブ、ピーター・サラフ、ジェブ・ブロディ / 撮影監督:ジョン・トゥーン / 美術:ジョー・ギャリティ / アート・ディレクター:ガイ・バーンズ / 編集:ヘザー・パーソンズ / 衣装:アリックス・フリードバーグ / 音楽:マイケル・ペン / 出演:エイミー・アダムスエミリー・ブラント、ジェイソン・スペヴァック、アラン・アーキンメアリー・リン・ライスカブ、クリフトン・コリンズ・Jr.、スティーヴ・ザーン / ビック・ビーチ・フィルムズ&バック・ロット・ピクチャーズ製作 / 配給:PHANTOM FILM

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間32分 / 日本語字幕:? / PG-12

2009年7月11日日本公開

公式サイト : http://www.sunshine-cleaning.jp/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2009/07/21)



[粗筋]

 ローズ・ローコウスキ(エイミー・アダムス)は清掃の仕事をしているシングル・マザー。高校時代はチアリーディング部の花形で、アメフト部の人気者であったマック(スティーヴ・ザーン)と交際していたが、色々あってマックは別の女性と家庭を築き、ローズは空想ゆえに学校から問題児扱いされている息子オスカー(ジェイソン・スペヴァック)を抱え、悩みの尽きない日々を送っていた。

 そんな彼女に転機を齎したのは、かつての恋人で、いまもずるずると不倫の関係を続けているマックのひと言だった。刑事であるマックは、鑑識が終了したあとに事件現場を清掃する業者が得ている収入の多さを知り、やってみるつもりがあれば斡旋する、とローズに提案したのだ。

 荒れ果て血まみれになった現場に立ち入る、ということへの恐怖に、ローズは躊躇する。しかしそんなとき、オスカーがふたたび問題を起こしてしまった。学校側から薬物治療を提案され憤ったローズは、公立ではなく私立に通わせることを決意するが、そのためには今よりも多くの収入が要る。

 ローズは妹のノラ(エミリー・ブラント)を相棒に、見切り発車で事件現場清掃の仕事を始めた。予想を上回って血まみれになった現場に最初こそたじろいだものの、始めてしまえば要領は慣れた仕事と変わりない。調子に乗ったローズは本格的にこの“事業”に着手しようと決めるが……

[感想]

 宣伝で銘打っている通り、本篇は2007年にアカデミー賞脚本賞助演男優賞に輝いたコメディの名作『リトル・ミス・サンシャイン』の製作者が手懸けている。助演男優賞を獲得したアラン・アーキンが再登場し、重要なアイテムのひとつがオンボロのワゴンである、ということも共通している。

 これだけ繋がりがあり、広告でもそのあたりを強調していると来れば、内容的にも雰囲気の近いものを想像してしまうが、実際には決して似通った話ではない。いちおうユーモアが主体だしコメディと呼べなくもないが、本篇と『リトル・ミス・サンシャイン』では笑いの質も、土台となる世界観もかなり差がある。

リトル・ミス・サンシャイン』はどこかにいそうな、けれど奇妙な価値観や人間性を備えた人々ばかりで形成された家族が、ミスコンテストに出場するための道中をかなり珍妙に、しかし不思議と共感できるトーンで描いた作品だった。それに対して本篇の主要登場人物はいずれも、あまり際立った特徴はない。シングルマザーである姉ローズも、フリーターの妹ノラも、決して裕福でないのは『リトル〜』に通じているが、その原因はアメリカのみならず日本においても決して珍しくないものだ。どちらもエキセントリック、という領域には踏み込んでいない。

 老いてなお商魂逞しいふたりの父親ジョー(アラン・アーキン)や、想像力が豊かすぎて学校では浮いているローズの息子オスカー、それに事件現場の清掃業に臨むローズたちに協力する清掃用品店の店主ウィンストン(クリフトン・コリンズ・Jr.)は左腕がないという特徴があったり、それぞれに個性的ではあるが、どちらかというと身近に存在しそうな雰囲気を醸しだしている。踏み外すことで突き抜け、オフビートな笑いへと繋げている『リトル〜』とは姿勢から違っているのだ。そこを誤解してしまうと、期待外れの印象を受けてしまう恐れがある。

 本篇は題材こそ少々特異だが、焦点はあくまで、人生の袋小路に嵌ってしまった感のある姉妹が、その一風変わった仕事を経験して、己の人生を見直す姿を描くことにある。だから2人は親近感を持てる人物像でこそあれ、決して突飛な個性を付与していない。お国柄の違いを感じることもあるが、彼女らの自然な言動に共感を覚える人は多いはずだ。

 その分、物足りなく感じられたのは、犯罪の現場を清掃する、という仕事についての描写が思いの外少ないことだ。ローズがまだ必要な講習をきちんと修了せず、見切り発車で現場に赴いてしまう、というシチュエーションは描かれていても、現場で予想を超えた惨状に動揺したり、事件現場の権利者に難癖をつけられたり、といった展開はあまり盛り込まれていない。こと、ローズは終盤において、事件現場を清潔な状態に戻すことで遺族や関係者の心を癒すことが出来る、と語っているが、それを裏打ちするようなシーンが僅かしかなく、逆に否定するような描写もないので、浮ついて聞こえてしまったことが気に懸かった。

 しかしその点も含めて、決して先見性があるわけではなく、努力してもなかなか報われない女性達の懸命な姿を悲哀たっぷりに、しかし惨めにならない程度に巧みにユーモアを交えて綴る手管は絶妙だ。新しい仕事に対する姉ローズの意地と妹ノラの戸惑い、それぞれのスタンスでようやく馴染んでいった矢先に、ある意味自然な成り行きでぶち当たる壁。躓きの原因となる出来事もその解決の仕方も、決してドラマティックではないが、見ていて納得も理解も出来る。最終的にふたりが選んだ道について、若干の違和感は残るものの、それでも冒頭より自信に満ち活気に溢れた表情はとても清々しい余韻を残す。

 全般に地味でドラマティックとは異なる、その分だけ人によってはやたら身につまされる話でもあるため、人によっては少し不快になるかも知れない。だがそれこそ、印象を齎すほどに実感的で、作り物っぽく感じさせない優秀なドラマに仕上がっている証拠だろう。個人的にはもう少し“犯罪現場の清掃”という着想を膨らませて欲しかった、という嫌味は禁じ得ないが、その点を割り引いても良作であると思う。

関連作品:

リトル・ミス・サンシャイン

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー

ダウト 〜あるカトリック学校で〜

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