TOHOシネマズ新宿、5階ロビー壁面に掲示された『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』ポスター。
原題:“Fast X” / 監督:ルイ・レテリエ / 脚本:ジャスティン・リン、ダン・マゾー / キャラクター原案:ゲイリー・スコット・トンプソン / 製作:ニール・H・モリッツ、ジャスティン・リン、ジェフ・キルシェンバウム、サマンサ・ヴィンセント、ヴィン・ディーゼル / 製作総指揮:マーク・ボンバック、デヴィッド・ケイン、ジョセフ・M・カラッキオロ・Jr.、アマンダ・ルイス、クリス・モーガン / 撮影監督:スティーヴン・F・ウィンドン / プロダクション・デザイナー:ヤン・ロールフス / 編集:ディラン・ハイスミス、ケリー・マツモト / 衣装:サーニャ・ミルコヴィッチ・ヘイズ / 第2班監督&撮影監督:アレクサンダー・ウィット / キャスティング:スージー・フィギス、クリスティ・キニアー / 音楽:ブライアン・タイラー / 出演:ヴィン・ディーゼル、ジェイソン・モモア、ミシェル・ロドリゲス、シャーリーズ・セロン、タイリース・ギブソン、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ナタリー・エマニュエル、ジョーダナ・ブリュースター、サン・カン、ジョン・シナ、ジェイソン・ステイサム、ブリー・ラーソン、アラン・リッチソン、スコット・イーストウッド、ダニエラ・メルキオール、ヘレン・ミレン、リオ・アベロ・ペリー、リタ・モレノ / ワン・レース・フィルムズ/オリジナル・フィルム/パーフェクト・ストーム・エンタテインメント製作 / 配給:東宝東和
2023年アメリカ作品 / 上映時間:2時間21分 / 日本語字幕:岡田壯平
2023年5月19日日本公開
公式サイト : https://wildspeed-official.jp/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2023/5/19)
[粗筋]
かつてはストリート・レースの帝王、一時期は国家から追われる逃亡者となり、やがては秘密組織のために働いて世界をも救ったドミニク・“ドム”・トレット(ヴィン・ディーゼル)は、かつての恋人とのあいだに授かった息子リトルB(リオ・アベロ・ペリー)や現在のパートナー、レティ(ミシェル・ロドリゲス)との家庭、そして様々な戦いのあいだに生まれた絆で繋がれたファミリーの平穏を守るために心を配っている。
しかし、その平穏はふたたび破られた。深夜、かつてドムを陥れたこともある天才ハッカーのサイファー(シャーリーズ・セロン)が深傷を負った姿で訪ねてきたのだ。警戒するドム達にサイファーは、「自分以上の悪魔が現れた」と警告する。
サイファーを襲撃したのは、ダンテ・レイエス(ジェイソン・モモア)。ダンテは徒手空拳でサイファーのアジトに出没し、周到な計画によってサイファーの側近を速やかに寝返らせ、彼女を窮地に追い込んだ。命からがら逃げ出したサイファーはドムを頼るほかはなかった――何故なら、ダンテの真の狙いはドムなのだ。
ダンテの父(ホアキン・デ・アルメイダ)はリオ・デ・ジャネイロでかつて麻薬王として君臨した男だった。しかし、ドムと相棒のブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)によって財産の大半を奪われたのち、殺害された。当時、後継者として父に随行し、辛くも生き延びたがすべてを失ったダンテは、ドムへの復讐に取り憑かれ地下へ潜伏した。強い憎悪を抱くダンテは、ドムの死のみを望まなかった。死よりも辛い苦しみを与えるべく復讐の鬼が狙いを定めたのは、ドムが築きあげた“ファミリー”。
ドムは、極秘の任務を遂行するべくローマへと赴いていたローマン(タイリース・ギブソン)たちに連絡を取る必要を感じるが、サイファーの身柄を引き取るべくやって来た秘密組織の使者リトル・ノーバディ(スコット・イーストウッド)は、組織がローマン達に任務を与えた事実がない、と言う。罠と悟ったドムは、リトルBを妹ミア(ジョーダナ・ブリュースター)に託し、レティと共にローマへ向かう――
[感想]
2002年から始まったこのシリーズだが、4作目から主演と製作を兼ねるようになったヴィン・ディーゼルは、本篇及び続く第11作『Fast X : Part2(原題・仮)』を以て現行のシリーズを完結とする意向を示した――本篇試写の段階で、スタジオ側から要望があったとかで、もう1本伸ばす可能性も示唆しているが、仮にそうであっても、本篇からひとつづきで最終章とする構想は恐らく貫くと思われる。従って本篇は、現行シリーズにとってひとまずの最終章第1幕、という位置づけとなるだろう。
だから、先に行ってしまうと、物語としてはきっちり完結していない。肝心の部分に決着はもちろんしていないし、無数に提示された複数がほとんどそのまんまほったらかしなので、仮に予備知識も何もなく、1本のアクション映画と思いこんで観てしまうと、尻切れトンボ印象を受けるはずだ。続篇が織り込み済みであることも一目瞭然なので、違和感を持ちはしないものの、映画が1本の作品であることを重視する立場だと、そこでもう失格である。
ただ、その点を割り引いても、引っかかることはある。シリーズ最終章の幕開けであり、クライマックスのために多くのキャラクターが登場するが、本当にシリーズ旧作を観ていないと、誰が誰だか解らない。再登場なのか初登場なのか、またかつての登場人物と関わりがあるパターンもあるが、20年以上にも及ぶシリーズの登場人物をしっかり覚えている人はなかなかいるまい。ファンサービスとも言えるが、あまりに仕掛けが多すぎて、活きているとは言い難い。むしろ、アクション映画だからこそのスピード感を、記憶にない要素、キャラクターの登場によって体感的に減速してしまう嫌味もある。
そして、恐らくは最強の敵となるダンテの、度を超した有能さが気になる。ドムたちを憎むあまりファミリーのみならず彼に助力した者たちも詳細に調べ上げ追いつめていく、という執着心はまさに最終章の悪役に相応しいが、しかしそれにしても、行き過ぎて知恵が回りすぎる。最初の戦いの舞台となるローマでの駆け引きは、そもそもがローマンたちをおびき寄せてからの罠なので、ある程度予測が出来ても頷けはする。しかしそれ以降の展開については、本来予測しようのないルートまで先読みしていて、予知能力でも備わっているように映る。旧作でもそのレベルで先読みしている敵はいるにはいるが、そこには潤沢な資金と高度な技術が介在しており、ダンテの当初の設定からすると、対応力が不自然すぎるのだ。作を追うごとに、リアリティよりもインパクトを重視したアクションに傾倒していったシリーズだが、いささか過剰なのだ。ジェイソン・モモアの怪演ぶりは間違いなく本篇の目玉なのだが、そこに魅せられず冷めた目で見てしまうと、設定的に乗っかりづらいのが厳しいところだ。
しかしそのぶん、アクションの趣向、インパクトは相変わらず強烈だ。ローマ市街の、映画でも散々採り上げられた光景を転がり蹂躙する爆弾と、それを軸とした複数の思惑が絡むカーチェイス。因縁のある土地でふたたび繰り広げられる死闘に、大胆な改造を採り入れたマッスルカーの活躍から、クライマックスの壮絶なひと幕まで、CGの力を借りつつも本物の迫力を活かした見所が幾つも詰めこまれている。
シリーズ1作から出演してきたポール・ウォーカーの早すぎる死以降、このシリーズは監督がなかなか一定せず、本篇も当初はシリーズ中興の立役者とも言うべきジャスティン・リンが演出する予定だったが、撮影が始まるか、というくらいのタイミングで急遽離脱している――その事情まではさすがに知るよしもないが、代わりに抜擢されたのがルイ・レテリエ監督であったのは僥倖と言ってもいいのではなかろうか。ルイ・レテリエ監督は本シリーズから少し遅れて『トランスポーター』によりデビュー、スタイリッシュで斬れ味のある演出と、ジェイソン・ステイサムという新たなアクション・スターを開拓したことにより一躍その名を知らしめた。その後もアクション、エンタテインメントで腕を震ったこの監督は、同時に《ワイルド・スピード》のファンでもあったという。もともとアクションの演出に長け、カースタントの経験値も豊富で、なおかつシリーズについて勉強する手間がほぼ必要なかった監督がいたことは、突然の再編によるタイムロスを極めて短く抑えただけでなく、シリーズらしさを損なわず次へとバトンを繋ぐことを可能にした。私が“僥倖”と表現したくなる所以である。
単品で観れば少なからぬ不満を残す作品だが、しかし本当のクライマックスへの導入としては見事なのである。対決、という意味では消化不良な印象を残しても、それは焦燥感を観る者にもたらし、旧作の登場人物が複数復帰することもあって、続篇への飢餓感、期待を煽る。理想は単独でも優れた作品だが、布石としての役割を果たしている本篇には、作り手のクライマックスに賭けた思いを感じる――なので、とりあえずは続編の登場を待ちたい。モヤモヤを吹き飛ばしてくれる、極上のフィナーレを用意している、と信じて。
なお、前述の通り、このシリーズはこのあと1本、もしかしたらあと2本で完結する予定になっている。
だが、それでこの世界観、フランチャイズが幕を下ろすわけではないようだ。だいぶ前から、スピンオフ作品のリリースは仄めかされていたが、本篇の公開後まもなく、前々から様々な話題を提供したアノ人が主導するスピンオフの製作が発表されている。キャストの一部から「このシリーズは売れるんだから続けないはずがないだろ」という身もフタもない発言が出ているくらいで、複数の関連作品が用意されているのは間違いなさそうだ。
何にせよ、相棒を喪ったあともシリーズの礎となってきたドム=ヴィン・ディーゼルがどのようなクライマックスを用意しているのか、楽しみに待ちたい。出来ることなら、あと1作だろうが2作になろうが、メインシリーズのゴタゴタは抜きに、この布陣で完走してほしいものだ――そこでヤキモキさせられるのはもう勘弁して欲しい。
関連作品:
『ワイルド・スピードMAX』/『ワイルド・スピード MEGA MAX』/『ワイルド・スピード EURO MISSION』/『ワイルド・スピード SKY MISSION』/『ワイルド・スピード ICE BREAK』/『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』/『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』
『トランスポーター』/『トランスポーター2』/『ダニー・ザ・ドッグ』/『インクレディブル・ハルク』/『タイタンの戦い』/『タイタンの逆襲』/『グランド・イリュージョン』
『トリプルX:再起動』/『アクアマン』/『マチェーテ・キルズ』/『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』/『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』/『GAMER』/『テキサス・チェーンソー ビギニング』/『ニンジャ・アサシン』/『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』/『キャッシュトラック』/『アベンジャーズ/エンドゲーム』/『ミュータント・タートルズ(2014)』/『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』/『ウエスト・サイド・ストーリー(2021)』
『ローマの休日』/『ブリット』/『フレンチ・コネクション』/『逃走車』/『ゲッタウェイ スーパースネーク』/『ワイルド・ストーム』
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