『ワンダーウーマン1984(字幕・Dolby Cinema)』

丸の内ピカデリー、もぎりカウンター横に展示された『ワンダーウーマン1984』ポスター。
丸の内ピカデリー、もぎりカウンター横に展示された『ワンダーウーマン1984』ポスター。

原題:“Wonder Woman 1984” / ウィリアム・モールトン・マーストンによるキャラクターに基づく / 監督:パティ・ジェンキンス / 脚本:パティ・ジェンキンス、ジェフ・ジョンズ、デヴィッド・キャラハム / 原案:パティ・ジェンキンス、ジェフ・ジョンズ/ 製作:ガル・ガドット、パティ・ジェンキンス、スティーブン・ジョーンズ、デボラ・スナイダー、ザック・スナイダー / 製作総指揮:ウェズリー・クーラー、ウォルター・ハマダ、マリアンヌ・ジェンキンス、ジェフ・ジョンズ、ジム・リー、レベッカ・スティール・ローヴェン、リチャード・サックル / 撮影監督:マシュー・ジェンセン / プロダクション・デザイナー:アリーヌ・ボネット / 編集:リチャード・ピアソン / 衣装:リンディ・ヘミング / 第2班監督:ダン・ブラッドリー / キャスティング:クリスティ・カールソン、パット・モラン、ルシンダ・サイソン / 音楽:ハンス・ジマー / 出演:ガル・ガドット、クリス・パイン、クリステン・ウィグ、ペドロ・パスカル、ロビン・ライト、コニー・ニールセン、リリー・アスペル、リンダ・カーター / アトラス・エンタテインメント/ストーン・クオリー製作 / 配給:Warner Bros.
2020年アメリカ作品 / 上映時間:2時間31分 / 日本語字幕:アンゼたかし
2020年12月18日日本公開
公式サイト : http://wonderwoman.jp/
丸の内ピカデリーにて初見(2020/12/19)


[粗筋]
 神々の血を引く女性たちだけの島で育った姫君ダイアナ・プリンス(ガル・ガドット)は、第一次世界大戦の頃に島を出て以来、普通の人間たちに混ざって生活をしていた。東西冷戦のただ中にあった1984年の、彼女は考古学者としてスミソニアン博物館に勤務し、自分のルーツにも関わる人類の歴史を調査しながら、その特殊能力を駆使して密かに人助けをしていた。
 ある日、ダイアナが密かに撃退した強盗たちが宝石店から盗み出した物品が、FBIによってスミソニアン博物館に持ち込まれてきた。宝石店はどうやら闇で貴重な歴史的遺物を捌いており、強盗たちはそれを承知で狙いを定めていたらしい。そのため、出所を探るべく、鑑定を依頼されたのである。
 宝石類の専門家であるバーバラ・ミネルヴァ(クリステン・ウィグ)が鑑定を行っているとき、スミソニアンにまたしても意外な訪問客が現れた。投資会社を営み、テレビCMで顔を売り込んでいるマックス・ロード(ペドロ・パスカル)が突如、博物館に多額の寄付とともに見学を申し出てきたのである。
 何故か鑑定に出された盗品に執心しているらしいマックスは、バーバラに積極的にアプローチを試みていた。盗品の出所に不審を抱いていたダイアナも、マックスの行動に疑問を抱き、当初は出席を拒んでいたパーティに赴き、マックスの動向を窺おうとする。
 だがそこでダイアナは、思わぬ人物から声をかけられた。最初は気づかなかったが、その男から手渡された時計と、ある言葉に、ダイアナは衝撃を受ける。それは、遡ること66年前、彼女がこれまでただいちどだけ愛し、失った恋人スティーヴ・トレヴァー(クリス・パイン)である、という証拠に他ならなかった――


丸の内ピカデリー Dolby Cinemaスクリーン入口通路に表示された『ワンダーウーマン1984』ヴィジュアル。
丸の内ピカデリー Dolby Cinemaスクリーン入口通路に表示された『ワンダーウーマン1984』ヴィジュアル。


[感想]
 2020年は3月頃から急速に拡大したCOVID-19の影響により、ハリウッドの大作映画の公開が軒並み見送られる事態に陥ってしまった。年末に至っても終息には程遠く、ディズニーが一部作品を配信限定に切り替える決断を下すなか、Warner Bros.は未だ感染拡大の勢いが収まらない北米では劇場と配信で同時に封切る一方、映画館が稼働している国では北米より優先して劇場公開するスタイルを採用した。その先陣を切るかたちで日本公開に至ったのが本篇だった。
 そうした事情もあって、こちらは正直、こうした予算と時間を費やした、規模の大きいエンタテインメントにかなり飢えていた――それこそ本篇の公開前、春から秋頃にかけてかかった大作は『テネット』くらいしかなかったのだから。頭を酷使し、歯応えも強い『テネット』もいいが、観ているあいだの興奮と、観終わってからの爽快感が味わえる、真っ当なエンタテインメント作品が欲しかったところだった。

 そういう情勢を意識して作った――なんてことはないはずなのだが、しかし本篇は、まさにそんな憂さを晴らさんとするかのように、冒頭から空想的で、興奮を誘うヴィジュアルやアクションを用意してくる。ダイアナ幼少時代、一族の同胞と繰り広げた競技のユニークなヴィジョンで惹きつけると、劇中における“現代”である1984年に移ると、すぐさま“ヒーロー”としてのダイアナの活躍を鮮やかに描き出す。アクロバティックで美しく、しかもクールなこの一連のくだりを観ているだけで幸せな気分になれる。
 物語が進行していくなかでも、本篇は趣向を凝らしたアクションで繰り返し魅せてくれる。走行するトラックのあいだを渡りながらの奮闘から縦にスイングする衝突、殺すわけにはいかない警備員たちをまるで新体操のように軽やかな所作と、常識を逸脱したテクニックでいなしていくくだりなど、実に多彩かつダイナミックで、そこだけを切り取っても充分すぎる見応え充分なシーンばかりだ。
 しかし前作において、スーパーヒーロー映画の文脈にさらっとジェンダーの問題や人類の罪業を織り込んだスタッフは、豪快なアクションを随所に挿入し、観客を喜ばせながら、物語に明確な芯を作っている。
 本篇に登場する悪役と、ダイアナが対峙すべき“災厄”には、考えさせられるものがある。本篇の悪役にも、終盤で混乱を引き起こすひとびとも、決して悪意はないのだ。極めて素直な欲望があり、それが実現する機会を与えられれば、こうなってしまうのは必然だろう。この世の中すべてのひとの希望を叶えようとすれば、どこかでバランスが崩壊する。それを本篇は実に解り易く、そして衝撃的に描き出す。終盤でダイアナと壮絶な戦闘を繰り広げる《チーター》にしても、こうした主題の象徴だ。
 このモチーフは同時に、ダイアナ自身の弱さにもつけ込み、“ヒーロー”であることへの覚悟をも問いかける。怖いもの知らずであったダイアナが、前作で描かれる冒険の中で知ってしまった感情が、ダイアナを翻弄し、そして彼女を新たな段階に押しあげる原動力ともなっていく。実のところ本篇のクライマックスはアクションではないのだが、にも拘らず感動的なのは、こうしたダイアナ=ワンダーウーマンの“ヒーロー”としての姿を確立する過程としてあまりに鮮やかだからだろう。
 率直に言えば、だいぶ大味な面もある。途中、舞台がカイロに移るが、その経緯はだいぶ荒っぽすぎて、別の事件を引き起こしかねない。本篇の黒幕であるマックスの引き起こした事態は深刻だが、いくらなんでも影響が急速に波及しすぎているきらいがある。個人的にはこれら以上に、ダイアナが戦闘時のコスチュームに着替える場面がほとんどないのが奇妙に思えて仕方なかった――なにせカイロで繰り広げられるトラック相手のアクション・シーンでは、一瞬目を離した隙に服装が変わっていたのだから。
 だが恐らく、その程度の粗さは作り手も折り込み済みだろう。変に細部まで描いて綺麗にまとめるよりは、展開のダイナミックさや感動を重視し、興奮と爽快感を味わえるものを目指した。
 本篇の公開された2020年は全世界がコロナ禍の影響に見舞われ、如何ともし難い閉塞感に覆われていた。そんな中だからこそ、主題を踏まえながらも、鮮やかで爽快感に満ち満ちた本篇のような作品が必要だった。これこそ求められていた“ヒーロー映画”そのものなのだと思う。


関連作品:
マン・オブ・スティール』/『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』/『スーサイド・スクワッド』/『ワンダーウーマン』/『ジャスティス・リーグ』/『アクアマン』/『シャザム!』/『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY
モンスター』/『GODZILLA ゴジラ(2014)
ワイルド・スピード SKY MISSION』/『アンストッパブル』/『オデッセイ』/『キングスマン:ゴールデン・サークル』/『ドラゴン・タトゥーの女』/『閉ざされた森
ゴーストバスターズ(1984)』/『ストリート・オブ・ファイヤー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『バック・トゥ・ザ・フューチャー

コメント

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