小娘オーバードライブ1

小娘オーバードライブ1 『小娘オーバードライブ1』

笹本祐一むっちりむうにい[イラスト]

判型:新書判

レーベル:SONORAMA NOVELS

版元:朝日ソノラマ

発行:2005年10月30日

isbn:4257010762

本体価格:1000円

商品ページ:[bk1amazon]

 1994年から1998年にかけて角川スニーカー文庫から刊行されたシリーズが復活。発表済の第一話〜第四話(旧版の一環・二巻収録分に該当)に加筆訂正のうえ、書き下ろしの最新エピソードである『怪獣の種』を追加して再リリース。

 坂井美帆はさしたる取り柄もない平々凡々とした女子高生。だが、何気なーく覗きこんだ掲示板に貼られていた“正義の味方募集”という広告に興味を惹かれてしまったのが運の尽き。好奇心から選考を受けてみたら、あれよあれよという間に合格、晴れて時給500円、銀色のレオタード風特殊スーツに身を包む正義の味方に仕立て上げられてしまった。目的意識の判然としないマッド・サイエンティストの小石川のぼるをボスに、彼の幼馴染みで各国の軍部で雇われ仕事を変遷した挙句いまは小石川研究所に居候している今和野京志郎、そして選考会で美帆に敗れたものの何に未練があるのかちょっかいをかけた挙句いつの間にか場に馴染んでいた財閥令嬢・綾小路麗香という、お約束通りというか必要以上にキャラの立った面々と共に、戸惑いながらもお仕事に明け暮れる美帆なのであった……

 書き下ろしを除いて全篇再読だとばかり思っていたのですが、調べてみたら一巻目しか読んでませんでした。全巻確保はしていたのですけれど、目と鼻の先の段ボールの中に手つかずで眠っていた模様。

 ゆえにそういう認識もなかったのですが、こうして立て続けに読んでみると、“正義の味方”のアルバイトという話はせいぜい二話目ぐらいまでで、基本的には“秘境・小石川研究所探訪録”みたいな趣になってます。特に第三話と第四話なんか、まともに“正義の味方”らしいことなどしていません。寧ろ小石川一族こそ世界の敵という気がしてくる。後世の安寧のためにはまず研究所界隈を焼き払った方がいいんじゃあるまいか。

 しかしその脱線ぶりが妙に心地よいのも事実だったりする。まず、特にこれといった仮想敵を用意することもなく、個人的な理由から“正義の味方”を立ち上げ、法に違反しない範囲で常識を逸脱した兵器類を開発してしまう小石川のぼるの無茶苦茶さ。そんな彼に惚れ抜いてどんな形でも彼のために力を尽くそうとする、ある意味では健気すぎるくらい健気なのだけど絶対にその方向性を誤っている麗香。日本人としてはそうとう非常識な経歴を備えているはずなのだが、この二人に交わると常識人に見えてしまうことがままある京志郎。そしてそんな個性充分な面々に囲まれてしばしば埋没しながらも、ときどき律儀に“正義の味方”としての役割を全うしようとする、ほどよく真面目でほどよく適当な美帆。基本的にこの四人のやりとりだけで展開するストーリーは、パーツこそヒーローものなのだけど、絶対的な悪役はじめ肝要な部分を失念したままなので、もうどうしても王道には進まない。前述の通り第三話・第四話なんか完全に秘境探検ものか、SFのシチュエーションを活用した日常コントみたいな様相を呈しているし、いちおう美帆がパワード・プロテクターを装着して活躍する場面があるにはあるほかの話にしても、簡単に対象を倒すor破壊してめでたしめでたし、という方向には陥らない。あとがきによれば著者本来の志向に添っているだけのようだが、解りやすいヒーローものの設定が、その脱線ぶりを余計にツボに入りやすくしているようだ。

 如何せん戦う対象を特定していない“正義の味方”なので、今後のエピソードがいったいどういう方向に進んでいくのか、またどの辺を目的地に定めているのか皆目検討がつかないが、しかしそれだけにのんびりだらだらと、なるべく速いペースでエピソードを書き継いでいただきたいタイプの作品だと思う。実際、スニーカー文庫版の第一巻を購入したときもそんな感想を抱いたからこそ続刊を待ったのだが――悠長なペースのために記憶から薄れていってしまったようだ。折角リニューアルしたのだから、せめて第二巻ぐらいは書き下ろしを含めても半年以内には出してもらえないだろうか。

 そして願わくば、願わくば次巻以降は、もっと“戦うヒロイン”美帆により多くの見せ場を与えてやってください。これじゃほんとに頑張ってるのかも解らないぞー。

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