天璋院篤姫[新装版](上)(下)

新装版 天璋院篤姫(上) (講談社文庫)

新装版 天璋院篤姫(下) (講談社文庫)

天璋院篤姫[新装版](上)(下)』

宮尾登美子

判型:文庫判

レーベル:新潮文庫

版元:新潮社

発行:2007年3月15日

isbn:(上)9784062756846

   (下)9784062756853

本体価格:各667円

商品ページ:

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 薩摩・島津家の分家に生まれ、優れた体格と知性に恵まれた敬子は宗家の島津斉彬に見込まれ、第十三代将軍徳川家定正室となるべく名前を篤子と改め斉彬・近衛家と養子縁組を繰り返し、やがてはるばる江戸へと渡り正式に大奥に迎えられる。斉彬のある意図を汲んでの入與は、だが幕末の動乱に翻弄されることとなる。そんな中で大奥三千人の女たちの崇敬を集め、徳川家の命脈を守るに至った篤姫の生涯を描く。

 2008年度大河ドラマの原作に選ばれた長篇である。幕末の物語というと新選組薩長の志士など男性目線から語られることが多いなかで、女性目線からその動乱を描いているだけでも特異ながら、決して安易に薩長と幕府の対決というだけでは括れない複雑な世相の流れを、情報流入の制限された大奥から眺めているのが出色である。

 当初は島津家の意を受けて一橋家の慶喜推挽を目指しながら、病弱な夫・家定の扱いに苦慮し女としての役割を果たし得ぬことに苦悩し、それでも嫁しては夫の家の繁栄を至上命題と捉えて、自らの目で判断して幼年の菊千代を第十四代将軍に薦め、皇女和宮の降嫁に際しても大政奉還から江戸城明け渡しに至るまでも、終始徳川家存続のために尽くした様を、その迷いまで明瞭に説得力充分に描き出しており、圧巻の趣がある。

 現在の目からすれば闇雲に攘夷を訴えたことが愚かに感じられるが、それはあくまで今の歴史観から眺めた場合である。当時としては横暴な要求を突きつけてくる諸外国は敵であっただろうし、家を守る、国を守るという封建時代の概念からすればそれは当然の判断だ。折々に知力を振り絞った篤姫の佇まいは実に凜としている。

 しかし彼女が主に戦ったのは、やはり周囲の女たちであり、その折々によって変化する諍いの内容こそ本書の読みどころであろう。平穏な田舎暮らしから連れ出されて、まず教育係の女中・幾島と価値観の違いで争い、大奥に入ってのちは滝山を筆頭とする南紀派・慶福を推す女中たちとの鍔迫り合いめいた争いに陥り、家定の死を経て十四代家茂を擁立すると、公武合体を唱えて迎え入れられた皇女和宮と彼女の暮らした京風を持ち込む女中たちとの対立が生じ……という具合に、実に色とりどりの諍いが繰り広げられる。深刻ながらも何処か滑稽なその様が、歴史の変転と重なって味わい深い。

 歴史に翻弄された挙句、女としての幸せを味わえなかった篤姫の不運を憐れむのも読み方であろうが、その宿命を全力で受け止め、果たせるだけの役割を果たして逝った彼女は、切なくもある意味幸福であったと思える。

 随所でダイジェストになりがちだったのが気に懸かったが、さすがの貫禄を感じさせる作品であった。

 年末の忙しい時期に取り急ぎ読み終えたのは、本編に基づく大河ドラマに、ここ数年私が執心している堀北真希が皇女和宮の役で出演するため、予習として年越しを前に片付けたかったからなのだが……これを読む限り、彼女の登場は、どう早く見繕っても半年はあとのことになりそうである。何だかちょっとした徒労感を覚える。

 とはいえ、やはりこの和宮という役柄は堀北真希という女優の雰囲気によく馴染みそうで、先にある登場が余計に待ち遠しくなった。あとは、脚色が巧ければいいのだけれど……

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