新編 百物語

新編 百物語 『新編 百物語』

志村有弘(くにひろ)[編訳]

判型:文庫判

レーベル:河出文庫

版元:河出書房新社

発行:2005年7月20日

isbn:430940751X

本体価格:680円

商品ページ:[bk1amazon]

 いつの世にも“怪異”は存在した――古くは平安期から最近でも江戸期までに著された書籍から怪異譚を厳選した百話を現代語訳のうえ収録した、新しい古典怪談集。日本各地に出没する鬼のエピソードを集めた「鬼篇」、死者が様々な形で現世に関わった物語を集めた「幽鬼篇」、分類不能の奇怪な出来事をまとめた「怪談・奇談篇」など、八つの種類に分けている。

 割と存在しそうでいて、私は初めてお目にかかった、古典文献から怪談・奇談を集めて構成した百物語である。まずは『今昔物語集』から『耳嚢』に至る多くの書物を渉猟し、この分量を集めて現代語訳までを行ったその労力に敬意を表したい。

 ただ、序盤はいいのだが、中盤から後半ぐらいにかけて次第に訳文が雑になっており、内容が充分に消化しきれていない感があるのが気になる。本来の文では約束に基づく含意があったり、研究によって判明した意図などがあるはずだと思うのだが、後半に進むに従って筆を急いだのか、原文をそのまま現代文に砕いただけ、といった印象の箇所が多く、序盤に比べて読むのに手間取った。

 集められている内容そのものは粒揃いである。古典から引いてきているので、神道や仏教への信仰を説いた話や、“果たしてその話はどの関係者から伝えられたものなのか?”と首を傾げるようなもの、また日本人のDNAに浸透しているようなパターンに則ったエピソードも少なくないが、そんな中にも異質な展開があったり、予想外に長い話に発展していく話があったりで、なかなかバラエティに富んでいる。たとえば、死んだ妻が災いを齎すという有り体なパターンにあっても、その後の展開は実に多岐に亘る。数年後に夫が新たに娶った妻に災いを齎す恒例のパターンにも、祈祷で翻意する亡霊もあれば、遂に夫を狂い死にさせてしまう場合もある。かと思えば子に対する執着で現れるもの、更には第三者の目撃によって判明する“怨み”もあったりする。その綴り方は思った以上に多様で、既に現代に至る作法の原型が様々な形で提示されていたことがよく解る。

 最も興味深いのは、末尾に置かれた、分類不能のエピソードを纏めた「怪談・奇談篇」である。このあたりのテイストは見事に現代の怪談集『新耳袋』を先取りしたような、合理的な思考があるからこそ説明の困難な“怪異”が多く綴られている。厠に行ったきり行方を眩まし、二十年後に厠からふたたび舞い戻った主人の話など、観測期間が長いだけに異様さが際立っているし、昔から奇談というものが鬼・妖怪・幽鬼に留まらなかったことの証左だろう。

 時代背景も関わってくるエピソードが多いだけに、読みながら実感としての恐怖を味わうことは難しいので、“怖さ”を求めると物足りなさを感じるだろうが、奇談集としての出来映えはいい。現代怪談に恐怖よりも“奇妙さ”に味わいを覚え、かつ古典に触れたことがないという方にお薦めしたい。

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