マダムだもの

マダムだもの 『マダムだもの』

小林聡美

判型:文庫判

レーベル:幻冬舎文庫

版元:幻冬舎

発行:平成17年6月10日

isbn:4344406583

本体価格:457円

商品ページ:[bk1amazon]

 女優にして人気脚本家の妻でもある著者が、日常の出来事を有名人なんだか一般人なんだか常識人だか非常識人だか曖昧な視点で綴るエッセイ集。2002年発売のものを文庫化。

 くだんの夫君・三谷幸喜氏がいみじくも「自分よりも巧い」と賞賛する著者のエッセイ集である。もとが脚本家であるだけに文章も簡潔でドライになりがちな三谷氏に対し、こちらはひとつのものごとに対してときに著名人らしく、しかしほとんどの局面では庶民的な眼差しで感じたことを手を尽くして表現し、より率直で感情豊かな内容になっている。特に本書に収録された愛犬とびとの出逢いから子育て(?)の四苦八苦ぶりは、同時期に三谷氏も朝日新聞連載のエッセイで言及している(『三谷幸喜のありふれた生活』収録)だけに、余計にその筆致の違いが際立つ。とはいえ、多分に似たもの夫婦のきらいがあるだけに、感じていることにそうそう大きな差が見られないのも微笑ましい。

 一般人的な眼差しを備えているとは言い条、それでも標準より変わり者でどこかぐうたらな側面もある著者らしく、世間の常識・感覚との自分の認識との格差に妙に身悶えしているような内容が多いのが本書の特徴である。特殊な仕事ゆえスケジュールが意のままにならないところをやりくりして意地で結婚記念日を祝おうとする様子とか、化粧品について女優らしからぬ物持ちの良さを発揮する自分に悩むところとか、客観的にそれがこの著者らしい、と思えるところで妙に悩んでいる(ふうに記している)のが楽しい。

 ときおりかなり綺麗なオチの用意されているエピソードもある一方で、たいていは見るからに気の赴くまま手の動くまま記しているお話ばかりなので、言動に共感したりその微妙なズレっぷりを楽しむ以上の興味はないのだが、それだけに気楽に、けれど時として思わぬ発見のある読み物になっている。

 単独で読んでも楽しいが、旦那の『ありふれた生活』シリーズなどと併せて読むとまた興趣の膨らむと思う。……というか、本書を読んでいると、この方は猫二匹犬一匹と一緒に旦那も飼っているように見えるんだが。

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