人工透析をしている人は、一定期間おきに採血を実施します。透析開始前と、終了後に血液を採取、検査して、透析が順調に行われているか、身体の状態に問題は生じていないか、を確認します。
在宅で行っていても、当然、採血は実施しなければいけない。
最初はなかなかまごつきました。透析の手順はだいぶ早いうちに身につきましたが、採血は月にいちど。なかなか慣れません。しかも、血液を抜く作業ですから、その過程でちょっと手違いがあると、けっこう出血してしまう可能性がある。
それでももう5年近くやっていると、すっかり慣れてきた。あまりに慣れすぎて近頃は、採血のあと、遠心分離機にかけた血液が、見た目にも綺麗に分離できるタイミングを探り始めてます。採血のあと、ちょっと早めに回すだけでも、見た目が綺麗に分離しないのです……いままで、特になにも言われてませんから、見た目はともかく分離は出来てるんだと思いますけど。
が、今月の採血を実施した昨日、初体験のトラブルが起きました。
在宅透析の採血は、特に事情がなければ、透析を休んだ次の日に実施することになっている。前日、透析をやっていないため、体重がだいぶ増えているので、普段通りの3時間の除水ではドライウェイトまで持っていくことが出来ないのが普通です。これくらい増えていると、普通なら、透析中に激しい血圧低下は起きない。
しかし昨晩は、2時間ほど実施したあたりで、かなり血圧が下がってきた。血圧が下がりすぎると、最悪、意識を失うこともあるので、基本的には適度なところで透析を終わらせて上がるのです、普段なら。
ただ、採血を実施するときに、ここまで血圧が低下するパターンは初体験でした。ドライウェイトすれすれまで、速い速度で除水を行ったときには血圧の急低下を招くことはままありますが、透析を休んだ翌日、体重に余裕があるのに血圧が下がりすぎたことはない。
……念のために書いておくと、必ずしも、身体に問題が生じているわけではないはずです。血圧の変動はその日の体調や食事などにも左右されますし、最近はそもそも、基本の血圧が安定していることもあって、透析の効率によっては、想定より血圧が下がることそれ自体はときどき起こるのです。
が、困るのは、昨日が採血の日だったことです。
普段なら、血圧が下がりすぎそう、と感じたところで、透析を終わらせて、血液回路に残った血液を身体にすべて戻す“返血”という作業に入ります。しかし、透析終了後の採血は通常、設定した時間が終了したあとに、透析装置のポンプを動かし循環を続けさせたまま、血液回路にあるアクセスポートにカートリッジを差し込み、そこから抜き取る。このとき、“返血”に入っていては、ちゃんとした血液が採れません。
こういう場合の対処、聞いた覚えがない。
ただまあ、それでもこの透析装置と5年付き合ってますから、患者自らが触っていい部分の挙動はだいたい解っている。装置を管理するタッチパネルには、右側上から“運転”“中止”とボタンが並んでいる。“運転”ボタンは、何かのアラームが鳴った際、血液ポンプがいちど止まるので、対処したあとに押すところで、普段から年中触っている。
今回のポイントは、その下の“中止”です。
ポンプの開始・停止、身体に血液を戻す“返血”は別にある。この“中止”というボタンは、ポンプで血液を循環させたまま、透析を中止する、というボタンです。
だからこういうとき、“中止”で透析を止めつつポンプを回し続けることで、予定の時間、透析を済ませたときと同じ状態に出来る、はず。間違っていたらあとで確認しよう、と思いつつ、そろそろ血圧がだいぶ厳しいので、取り急ぎ採血をするため、血液回路のアクセスポートに、採血用のホルダーを取り付ける。
アラームが鳴ってしまった。
原因は解っている。アクセスポートは穿刺部から、透析装置の気泡センサーのあいだに設けられている。恐らく、カートリッジを差し込んだ際、少しまごついたせいで、気泡が僅かに入り込んだのでしょう。
このセンサー、肉眼では見えないレベルの気泡も検知してしまうため、アラームが鳴っても、どこから対処すればいいのか解らなくなるのがけっこう悩みです。とりあえず、センサーの下あたりの回路を鉗子で押さえて気泡が身体に入らないようにしたあと、回路を指で叩いたりして、気泡を問題のないところまで移動させる真似をしてから、鉗子を外し、ポンプを再開させる。これで再度アラームが鳴らなければ良し、また鳴るようならもういちど同じ対処を繰り返す……ということを、たまーにやらされます。
実際問題、途中に“エアトラップチャンバー”という箇所があって、ここに気泡は吸収されますし、仮に身体に少し気泡が入ったとしても、即、命に関わることはあまりない、というのは、現実の殺人事件の記録で証明されてたりする。が、アラームが鳴る限り、その都度ポンプが止まってしまうので、対処せざるを得ない。
ただこれは、だいたい透析を始めたタイミングで起きるトラブルで、採血のタイミングで発生したのは初めてです。もう採血用ホルダー挿しちゃったし、さっさと採血を終わらせないと、透析終了の手順にも進めない。
焦った結果、私は“運転”のボタンだけ押して、ポンプを再開させてしまった。
つまり、まだ透析・除水を実施した状態で、採血をしてしまったわけです。
とりあえず採血は済んだし、透析も終了できた。が、果たして採血として正しい状態なのか、不安が残る。それに、こういう場合の透析機器の操作は、確認しておくべきかも知れない。
一夜明けて今日は、採取した血液をクリニックに提出する日です。ついでに、技師の方に話を聞いてみることにした。
採血については、この状態でも問題はないそうな。では、装置はどう動かしておけば良かったのか。
除水速度をゼロにすればいいんだそうな。
身体から水分を抜く速度は、透析開始の際に、透析時間と除水量を入力することで、装置が計算してくれます。数値は“リットル/1時間”という単位で表示される。この速度は、血圧の低下が激しいときは遅くしたり、逆に早く除水を済ませたい場合は速くしたり、とその都度調整が可能です。この数字を、ゼロまで下げれば、血圧低下に繋がる除水を一切行わず、ポンプだけ回し続けられる。
非常に納得しました。これで次回、おなじトラブルが起きたとしても、対処できそうです。
……5年近くやってて初めて起きたケースなのに、次いったいいつ発生するの?
たぶん、次に発生したところで、対応の仕方は忘れている。いちおう備忘録のつもりで書いているこの項も、すっきり忘れて、参照することすらないのではなかろーか。
まあ、それならそれでいいのです。何事もないのがいちばんだ。


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