『リボルバー』

『リボルバー』

原題:“Revolver” / 監督・脚本:ガイ・リッチー / 製作・脚色:リュック・ベッソン / 製作:ヴィルジニー・シラ / 製作総指揮:スティーヴ・クリスチャン / 撮影監督:ティム・モーリス=ジョーンズ / プロダクション・デザイナー:イヴ・スチュワート / 編集:ジェームズ・ハーバート、イアン・ディファー、ローメッシュ・アリュイヘア / 衣装:ヴェリティ・ホークス / 音楽:ナサニエル・メカリー / 出演:ジェイソン・ステイサムレイ・リオッタ、ヴィンセント・パストーレアンドレ・ベンジャミン、テレンス・メイナード、アンドリュー・ハワード、マーク・ストロングフランチェスカ・アニス、トム・ウー / ヨーロッパ・コープ&リボルバー・ピクチャーズ製作 / 配給:Astaire+Asmik Ace

2005年イギリス・フランス合作 / 上映時間:1時間55分 / 日本語字幕:松浦美奈

2008年06月07日日本公開

公式サイト : http://www.astaire.co.jp/revolver/

シネマライズにて初見(2008/06/21)



[粗筋]

 7年間の刑務所暮らしを終え、ようやく娑婆に出たジェイク・グリーン(ジェイソン・ステイサム)は、刑務所で身に付けたペテンとゲームの技術を元手に、それから2年のあいだに財を成した。

 準備を整えた彼は、自分を陥れ、兄嫁を死に至らしめた張本人であるドロシー・マカ(レイ・リオッタ)の経営するカジノを訪れ、マカをギャンブルで存分に翻弄したあとその場をあとにする。だが、出しなに傍らに佇んでいた男から一枚のカードを手渡され、階段で出て行こうとしたとき、突如として昏倒する――外傷はなかったが、血液の異常の可能性があるとされ、数時間を費やす精密検査が行われることとなった。待つ気のないグリーンは仲間たちと共に帰還する。

 自宅に着くと、ドアの下にまたしてもカードが落ちている。そこに記されていたのは「これを拾え」という人を食ったメッセージ。しかし、グリーンが屈みこんだ直後――室内からドア越しに無数の銃弾が放たれ、グリーンの仲間たちを襲った。瞬く間にグリーンを除く全員が倒されるが、グリーン自身は間もなく到着した男によって救われる。その男は、マカのカジノの出入口でグリーンにカードを手渡した当人であった。

 男――ザック(ヴィンセント・パストーレ)はグリーンをとあるバーに連れて行き、アヴィ(アンドレ・ベンジャミン)という男に引き合わせる。アヴィがグリーンに提示したのは、何と先刻の病院での検査結果だった。その結果は、未知の血液の病によって3日後には死ぬ、というもの。更にアヴィたちは、グリーンに信じがたい提案をしてきた。手持ちの全財産をすべてこちらに寄越せば、お前を守ってやる――

 とうてい許容できる話ではない。椅子を蹴って立ち去ったグリーンだったが、検査を受けた病院で検査結果が偽者でないことを知り、別の病院で更にそれを保障されて、逃げ場を失う。グリーンは貸金庫に蓄えてあった金を携え、アヴィたちを再訪する。

 一方のマカも、ある種の恐慌状態に陥っていた。グリーンのもとに送りこんだソーター(マーク・ストロング)とスリムは彼の部下の中でも失敗したことがない腕利きの殺し屋であったはずなのに、尻尾を巻いて逃げてきたとは。その上、予想外の出来事がマカを襲う――暗黒街の謎の大物サム・ゴールドとの取引に準備していた“粉”が、何者かによって強奪されたのである。取引を失敗させないためには、ライヴァルであるロード・ジョン(トム・ウー)から代わりを購入しなければならない……

 このときのマカはまだ知るよしもなかった――彼の用意した“粉”を大胆極まりない手段で奪ったのが、彼が侮っていたギャンブラーのグリーンを匿う二人の男であることを……

[感想]

 映画道楽に嵌るようになったきっかけは、『スナッチ』という作品だった。もともとブラッド・ピットという俳優が好きで楽しみにしていたのだが、そんな彼をパーツとして組み込み、無数の魅力的な登場人物が右往左往し、そこここで発生する様々な事件が絡みあって、意外な結末に辿り着く様子を、個性的かつテンポのいい演出で描き出したこの作品は、未だにお気に入りの1本である。

 それだけに新作を期待していたのだが、続いて発表した『スウェプト・アウェイ』は落胆するような代物だった。『流されて…』という名画をリメイクしたものだが、監督の持つ演出のテンポが作品の主題や雰囲気と致命的にそぐわず、ヒロインに妻であるマドンナを起用したもののミスキャストとして批難を浴び、ゴールデン・ラズベリー賞で7部門ノミネート5部門受賞という不名誉な記録を打ち立ててしまった。

 そんなガイ・リッチーがデビュー作と『スナッチ』2作で起用し、早くも国際的なスターに登りつめつつあったジェイソン・ステイサムを主演に犯罪ドラマに回帰、捲土重来を期して発表したのが本篇であったが、悲しいかな、これも批評家筋に酷評され、興収面でも前作の失敗を補うことが出来なかったという。それでも、『スナッチ』で彼の才能に魅せられた私は、仮に駄目な作品であったとしてもそれを確かめたいと、日本での公開を心待ちにしていたのだが――製作から公開まで、結局3年を費やすこととなった。

 前置きが長引いたが、そんなわけで私にとっては悲願の鑑賞であった。そして観た上での結論は……世評通り、駄目な作品としか言いようがなかった。どうして日本公開までこんなに時間を必要としたのかも、何となく納得がいく。

 初期二作と同じ犯罪の世界を舞台としているが、しかしその趣も語り口も大幅に異なる。以前は小気味いい会話が作品のテンポをも作りあげていたが、本篇は全体に会話はシンプルになり、モノローグも内省的になっている。そういう差違は構わないのだが、いけないのはそれらが致命的に退屈なのである。テンポも悪ければ、登場人物の目的、最終的な到達点も明示されず、それぞれの出来事の中でサスペンスを構築する努力を怠っているので、観ていて一向に乗れない。

 謎めいた要素やエピグラフを導入して知的に見せており、随所に神話的なモチーフを盛り込んでいるようだが、それらが巧く絡みあわず、その場限りの興味を惹くことも出来ずに空回りしている。思わせぶりにしようとしても、あからさまに非現実的なモチーフにろくすっぽ説明をつけないどころか、解釈する努力を登場人物がしていないのだから、観客だって理解のしようがない。終始この調子であるために、とにかく退屈する。体調が思わしくなかったことを割り引いても、観ながらあんなに何度も欠伸をするのはやはり尋常ではない。

 挙句、示される結末にしても、“難解”とか“多角的”と評する向きもあるようだが、単純に整合性を無視して、提示した要素を無理矢理な解釈で接続した先にあるものだから、カタルシスに結びつかず戸惑いを色濃く招く。そのあとに実験的な趣向がもうひとつ用意されているが、そもそも本篇に実験的な描写が少ないのに、あそこだけ唐突に極端な実験を施しても困惑するだけだ。だいたいあの締め括りでは、主人公が誰なのか曖昧になってしまう。様々な視点から描いているにしても、本来の中心人物はグリーンではなかったのか? そう考えていくとむしろ、製作者が目標を定めずに作っていることを証明しただけのように映る。似たような方法で成功した作品も幾つか前例が挙げられるのだが、それは連続ドラマや連載のような形だからこそ可能なのであって、2時間程度の尺で決着させる映画という枠には不向きだ。デヴィッド・リンチのように、それを作風として確立しているような作り手でなければ観客もなかなか受け止められないし、そもそもリンチほど細かな表現が完成されているわけではないのだから無謀にもほどがある。

 それでも従来の作品のようにテンポのある演出や会話・モチーフのユーモアが効いていればギリギリ娯楽映画として成立しようものが、今回はそれを意識的に排除しているきらいがあり、結果的にますます作品をつまらないものにしてしまっている。プログラムなどを参照するとエンタテインメントにする気はあったようだが、ならば尚更本篇は失敗していると言うほかないのだ。

 ジェイソン・ステイサムは次第に身に付けてきた貫禄、存在感を駆使して、底の知れない主人公を好演、レイ・リオッタも強面だがどこか不安定なキャラクターを見事に演じきり、他の登場人物も個性という点では『スナッチ』に劣るが存在感を醸している。とりわけ殺し屋ソーターの情緒不安定な人物造型は秀逸だったし、クライマックスの銃撃戦など『スナッチ』の切れ味を彷彿とさせる演出も幾つかある。そのあたりは評価したいが、しかしそのあたりだけが突出して出来がいい、というバランス感覚の悪さは尚更否定材料となる。

 世評が悪くても、実際に観ると評価できる点も多々見いだせるものなので待ち焦がれていた作品だったが、残念ながら世評が正しかった、と言わざるを得ない。細かなところにはやはりセンスを感じるだけに、余計に勿体ない代物だった。

 ちなみに『スウェプト・アウェイ』発表前には、「ギャング映画以外のものも撮れる」と豪語したが結果が上記のようなこととなり、『スナッチ』のような犯罪ドラマと見せかけて趣向を凝らした本篇でも失敗したためなのか、どうやら続く最新作『Rocknrolla』はいっそう『スナッチ』のようなスタイルに回帰するという話である。Warner Bros.配給で、日本では2009年に公開が予定されているが……正直、本編を観たあとだと不安のほうが募る。今度は『マトリックス』『ソードフィッシュ』のジョエル・シルヴァーが製作に就くというので、もう少し娯楽性は恢復しているのでは、と期待したいところなのだが……

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