『DRAGONBALL EVOLUTION』

『DRAGONBALL EVOLUTION』

原題:“Dragonball Evolution” / 原作:鳥山明(集英社・刊) / 監督:ジェームズ・ウォン / 脚本:ベン・ラムジー / 製作:チャウ・シンチー / 製作総指揮:ティム・ヴァン・レリム、鳥山明 / 撮影監督:ロバート・マクラクラン,ASC,CSC / プロダクション・デザイナー:バートン・ジョーンズ / 編集:マシュー・フリードマン、クリス・ウィリンガム,A.C.E. / 特殊メイクアップ:アレック・ギリス、トム・ウッドラフ,Jr. / 音楽:ブライアン・タイラー / 出演:ジャスティン・チャットウィンエミー・ロッサム、ジェームズ・マースターズ、ジェイミー・チャン田村英里子、パク・ジュンヒョン、チョウ・ユンファ、ランダル・ダク・キム、アーニー・ハドソン / スター・オーヴァーシーズ製作 / 配給:20世紀フォックス

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間27分 / 日本語字幕:松崎広

2009年3月13日日本公開

公式サイト : http://www.dragonball-movie.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2009/03/11) ※舞台挨拶つき先行レイトショー



[粗筋]

 間もなく18歳になる高校生の孫悟空(ジャスティン・チャットウィン)は、育ての親・悟飯(ランダル・ダク・キム)の指導によって若くして武術の達人になっていたが、悟飯の命により喧嘩は認められず、学校では弱虫の変人扱いされている。

 しかし誕生日の晩、ひょんなことから同級生の少女チチ(ジェイミー・チャン)に“気”の力を使っているところを見つかると、パーティに誘われた。誕生日は例年、悟飯に祝ってもらっていた悟空だが、その夜だけは思い切って出かけていく。

 拳を使わずにチンピラ達を翻弄して溜飲を下げ、チチともいい雰囲気になって特別な夜を楽しむ悟空だったが、不意に悟飯の身に何かが起きたのを直感し、我が家に戻る。着いてみると、住み慣れた家は倒壊し、悟飯は瀕死の状態で下敷きになっていた。

 悟飯は視力を振り絞り、かつて地球を襲ったピッコロ大魔王(ジェームズ・マースターズ)が封印を振り解いて復活、7つ揃えばどんな願いでも叶えてくれるというドラゴンボールを捜していることを告げる。うちのひとつは、予め悟空に託されていた。ピッコロが復活したいま、2週間後に発生する皆既日食を契機に、更に恐ろしいことが起きる。その前に、ドラゴンボールを集めろ。まず、パオズという街にいる亀仙人(チョウ・ユンファ)に会え……そう言って、悟飯は息絶えた。

 翌朝、悟飯を埋葬した悟空のもとに、ブルマ(エミー・ロッサム)という少女が現れる。カプセル・コーポレーション社長の娘である彼女は、会社の金庫から盗まれた家宝を捜し、その反応を追って悟空のもとへ辿り着いたのだ。家宝=ドラゴンボールを研究し、それが放つ特異なエネルギーを検知するレーダーを開発したブルマと協力して、ドラゴンボールを集める旅に赴く。まずは、亀仙人のいるパオズへ……

[感想]

ドラゴンボール』という作品に名を知らない人は日本にはそうそういないだろう。『週刊少年ジャンプ』に長期連載され、テレビアニメ共々驚異的な大ヒットを成し遂げている。海外でも紹介され、好成績を挙げたこの作品に、ハリウッドが目をつけるのは当然だった。

 ――が、そもそも鳥山明の特徴的な絵の魅力が重要であり、『西遊記』を筆頭に東洋的なモチーフが多数盛り込まれた本篇を、ハリウッドでちゃんと映像化できると信じていた人もまずいないだろう。制作開始の報が伝えられ、じわじわと断片的に齎された情報を耳にするほどに正気を疑い、完成さえ危ぶんでいた人もいるはずだ。

 そうした経緯の末、ようやく公開された本篇だが、全くの予想通りと言おうか、鳥山明による漫画版とも、アニメーション版ともまるで違ったものになっている。前述のような条件がある以上、違っているという理由で失望するような人は、とりあえず劇場に近寄らない方が無難だ。

 だが、原作との隔たりを差し引いても、本篇の出来には不満が多い。人物関係や背景がだいぶ別物になっているとはいえ、きちんと原作に登場するモチーフを引用して出来る限り『ドラゴンボール』の名に背かない作品にしようとしているが、その個性的なガジェットがあまり有効に用いられていないのだ。

 たとえば、『ドラゴンボール』といえばすぐに思いつく要素のひとつとして、バイクや小さな家をカプセル状に折り畳む“ホイポイカプセル”が挙げられるが、これをきちんと描写しているのは2箇所しかなく、しかもモノはたった1種類だ。初めて実写で描かれた瞬間は、連載開始当時から知っている人間にしてみるとちょっとした感動モノだったが、さすがにこれはちょっと寂しい。

 特に惜しいと思われるのが亀仙人だ。演じているのは『男たちの挽歌』シリーズで知られるチョウ・ユンファ、あのキャラクターと較べるとあまりに若々しく容貌も美しすぎるのだが、俗っぽさとスケベな本性を隠さない人柄は、登場から数分間できっちり確立している。だが、あまりに尺を詰めすぎたせいか、この折角の愛すべきキャラクターが、中盤以降は抑えこまれてしまっているのが、なまじ完成されているだけに勿体ない。ぱふぱふは無理でももうちょっと太腿触らせてあげましょう。

 原作の存在を脇に置いても納得のいかない部分も多々ある。悟飯が何故悟空を育てたのか、もうひとつ動機がはっきりしなかったり、原作と違っているが故に盛り上がるべき展開があからさますぎて、ラストで驚きに繋がっていないとか、原作をなぞったロマンスが性急すぎて味わいに乏しいとか。いちばん大きいのは、どうしてピッコロ大魔王が蘇ったのか、皆既日食と世界滅亡に繋がる成り行きとの関係性がまったく追求されていないことである。この辺がまったく等閑にされているために、原作を知っているいないに拘わらず、観客を置き去りにしている感が強い。

 と、色々腐してきたが、しかし私は観て退屈はしなかった。意地悪な言い方をすれば、上記のような欠点を拾っていくのが愉しい、というのが大きいのだが、尺を短めにして描写をぎっちりと詰め込んだお陰で、異様な勢いが備わっており、1時間半を一気に引っ張られてしまう感覚がある。

 VFXを用いたアクションの表現も、さすがにハリウッドの技術を傾けただけあって迫力は充分だ。原作通り、終盤は超人同士の戦いになって非現実性が増していくが、中盤あたりまでの人間同士の格闘の描写は細かなアイディアを鏤めてあって見応えがある。

 改編した設定についても、無理はあってもある程度はちゃんと理由付けをしている点にも、個人的には好感を抱いた。そもそも悟空役が白人というのはどーなのよ、と私でさえ思ったものだが、この点にもいちおうは説明をつけている。

 やっぱりある程度寛容な気持ちがないと辛い、と言わざるを得ないものの、ツッコミどころも含めて、1時間半けっこうきっちりと楽しませてくれる作品に仕上がっている。……少なくとも、ハリウッドで『ドラゴンボール』を実写化する場合の、いちばん理想的な形にはなっている、と認めてあげてもいいと思う。どだい実写化自体が無謀な代物なのだし、大作故に縛られる大手スタジオの論理の中にあって、ギリギリの線で原作に敬意を表してくれたのは間違いないのだから。

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