『ブリッジ』

ブリッジ [DVD]

原題:“The Bridge” / 監督・製作:エリック・スティール / 製作総指揮:アリソン・パーマー・バーク / 撮影監督:ピーター・マッキャンドレス / 編集:ザビーヌ・クラエンビュール / 音楽:アレックス・ヘッフェス / 配給:TORNADO FILM / 映像ソフト発売元:Amuse Soft Entertainment

2006年アメリカ作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:石田泰子 / R-15

2007年6月16日日本公開

2007年11月22日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/05/25)



[概要]

 ゴールデン・ゲート・ブリッジ。アメリカ、サンフランシスコに架かる優美な橋である。1937年に完成して以来、様々な歴史上の出来事に登場し、観光客が途切れることのない名所として知られるが、同時に自殺の名所でもある。

 本篇は橋のたもとにカメラを固定、自殺者の姿を撮影し、彼らが死を選ぶに至るまでの経緯と、彼らの関係者、偶然目撃した人々の証言によって構成されたドキュメンタリーである。

 人は何故、自ら命を断とうとするのか。その死は家族や友人、関係者にどんな影響を及ぼすのか。何故、この橋を選んだのか――証言は、死にまつわる普遍的な悲劇を抉り取っていく……

[感想]

 公表された当時、評価する声がある一方で、「人の死を弄んでいる」という批判も受けたという作品である。確かに、カメラを一点に据え、自殺しそうな振る舞いをしている人の様子を追い、その飛び込む瞬間を繋いで1本の映画にする――という風に、一部分だけ捉えると、面白半分であるとか覗き見趣味が過ぎるとか、否定的な見解を抱くのも頷ける。

 だが本篇は決してそんな安易な作りをしていない――そもそも、その素材自体はセンセーショナルだが、同じような光景を延々繋いでも、早いうちに見慣れてしまい、すぐに退屈を覚えるだろう。それが現実の、人の死を捉えた光景だと解っていても、人間は慣れてしまうものだ。

 本篇の見所はむしろ、そうして自殺する瞬間を捉えられた人々の家族や友人に対して行われたインタビューの数々である。死を選んだ人々は、いったいどんな人生を送っていたのか。絶望に彩られていたのか、破滅的な日々を過ごしていたのか、或いは傍目にそんな気配は見せなかったのか。

 取材の性質が特異であるせいか、全般に「死ぬ兆候が解らなかった」という人ではなく、前々から自殺を仄めかしていた、周囲に予感させていた人々の関係者ばかりが証言しているので、やや偏った印象を齎すが、結果として本人がもはや語り得ない死への憧憬を、より切実に描き出すことに成功している。

 だが、このドキュメンタリーを真に価値のあるものにしているのは、ある意味画一的になる自殺者たちの心情よりも、彼らの死によって受けた影響を、関係者たちに語らせていることだろう。

 ある人物の両親は、息子が死に赴いたことを悟りながら、もはや妨げることが出来ないと諦め、警察から連絡が来るのをその日待っていたという。実感した時には既に、彼は欄干から飛び降りたあとだった。またある人物は、自分への連絡先をビニール袋に入れ、ポケットに詰めておいて欲しい、と頼んでいたことを打ち明ける。彼が死んだ時、いの一番に自分に連絡が入るように、という想いからだった。またある人物は、かつて自分が処方されながら合わなかったため放っていた鬱病の薬を提供したことが、彼の病を悪化させ死に追いやった、と悔やむ。その一方で、彼を決して許さない、ともこぼした。彼の死が自分や周りの人々に残した傷の深さを思うと、どうしても許すことが出来ない。

 たったひとりではあるが、飛び降りた直後に生への執着が蘇り、幾つかの偶然も手伝ってギリギリで助かった青年の証言も拾っている。家族はまだ、彼がいつか死を選ぶのではないかと怖れている。彼自身もその疑いを拭い切れていない。だが彼は、その稀有な経験から得た恐怖心を胸に刻んでいる。

 本篇は決して興味本位で“死”を眺めているわけではない。何故人は死のうとするのか、その死がどんな影響をまわりに及ぼすのか、を真摯に手繰っていった、とても真っ当なドキュメンタリーである。

 観る人によって受け取るメッセージは違うだろうし、それをここで語りすぎても、実際に観るときの解釈の幅を狭めてしまうので、あとは実際に観ていただきたい。ただひとつだけ、印象に残った証言を最後に引いておきたい。

 自殺を目撃し、橋の末端にあるタワーに通報した人物が、係官に「こんなことって、珍しいんですか。それともしょっちょうなんですか?」と問いかけた。係員は苦笑いして応えたという――「しょうちゅうですよ」と。

 のちにある人物が別の形で裏打ちするこの証言こそ、いちばん噛みしめるべき部分だと、私は感じた。

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