『ディセント』

THE DESCENT [DVD]

原題:“The Descent” / 監督・脚本:ニール・マーシャル / 製作:クリスチャン・コルソン / 製作総指揮:ポール・スミス / 撮影監督:サム・マッカーディ / プロダクション・デザイナー:サイモン・ボウルズ / 編集:ジョン・ハリス / 衣装:ナンシー・トンプソン / 音楽:デヴィッド・ジュリアン / 出演:シャウナ・マクドナルド、ナタリー・メンドーサ、アレックス・リード、サスキア・マルダー、マイアンナ・バリング、ノラ=ジェーン・ヌーン、オリヴァー・ミルバーン、モリー・ケイル、レスリー・シンプソン、クレイグ・コンウェイ / セラドール・フィルム製作 / 配給:avex arts×TORNADO FILM / 映像ソフト発売:avex entertainment

2005年イギリス作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:? / R-15

2006年7月5日日本公開

2006年11月26日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://www.descent.jp/ ※閉鎖

DVDにて初見(2009/05/31)



[粗筋]

 ケーヴィングなど、過激なアウトドア・スポーツを愛好するサラ(シャウナ・マクドナルド)を、突如として悲劇が襲った。出かけた帰りに交通事故を起こし、夫ポール(オリヴァー・ミルバーン)と娘のジェシカ(モリー・ケイル)とをいちどに失う。

 それから1年。未だ心の傷の癒えないサラを慰めるべく、友人のジュノ(ナタリー・メンドーサ)たちはケーヴィングを企画した。向かったのはアメリカ、アパラチア山脈の奥深くにある地下洞窟。いささかはしゃぎ気味のホリー(ノラ=ジェーン・ヌーン)を筆頭に微かな火種を抱えながらも、サラは友人たちの心遣いに感謝し、この“冒険”を楽しむつもりでいた。

 だが、垂直に開いた穴へ降下した直後から漂っていた不穏な気配は、まもなく正体を現す。異様に狭い通路、かつてここの情報を本で読んだ友人が抱いた違和感、その原因をジュノが打ち明けたのは、突如として崩落が発生したあとだった。ここは地図が作られた洞窟などではなく、未だ何処にも情報の登録されていない、未踏の地だったのである。

 サラのために企画した、と繰り返すジュノに他の面々は不審を募らせるが、もはや先に進む以外に手はない。次第に軋む人間関係にも苛まれながら赴いた洞窟の奥で、サラたちが目撃したものは……

[感想]

 本篇が日本で劇場公開された2006年は奇しくも、これと相前後して似たようなシチュエーションによるホラー映画『地獄の変異』も登場した。制作年はいずれも2005年、恐らくどちらかがどちらかを意識して作ったというのではなく、偶然の結果であろうと思われる。

 しかしこの2本、並べてみると実に手触りが違う。同じように地底探険――あちらはいちおう真面目な調査という名目、こちらはケーヴィングというアウトドア・スポーツではあるが――を扱ってはいるが、先方はまるで日本における伝説的なテレビ番組『川口浩探検隊』を思わせるようないかがわしさ、胡散臭さに満ちているのに対し、本篇は奇異なほどのリアリティが漲っている。

 粗筋のあと、中盤以降から本格的に姿を現してくる“化物”たちのデザイン、その特徴などのアイディアは有り体で、独創的とはとうてい言い難い。だが本篇の場合、想像の範疇からはみ出ていないこと自体が、この“化物”のおぞましさを観客にストレートに実感させる。なまじ独創的な“化物”ではその怖さの性質を観客に理解させるのに手間取り、こんな生々しいおぞましさを齎すのに時間がかかってしまう。

 特徴の解りやすさもさることながら、物語のなかで彼らの正体について登場人物がほとんど推測しない、その一方で正体に繋がりそうな描写を鏤めているのが巧妙だ。どうしてこんな“化物”が地下に存在していたのか、数々の要素から推測は可能だが、その推測自体が怖く、またそれが真実なのか空想に過ぎないのか保証されないのもまた怖い。漠然と仄めかすだけという、そのバランス感覚が絶妙なのだ。

 ホラー映画では、まるで登場人物が誘い込まれるかのように、わざわざ危険な場所に足を踏み入れていく様がしばしば滑稽に映る。しかし本篇の場合は、舞台となる洞窟に入り込んでいく理由がかなり明確に築かれているのもポイントだ。そのうえ、この理由自体が登場人物たちのあいだで生じる食い違い、軋轢とも関わり合い、物語全体の緊迫感をいっそう高めている。サラの不幸な出来事に、友人たちのそれぞれに異なる気遣い方、それぞれの性格の差違が、予想外の事態に生じた諍いを悪化させ、更に彼女たちに襲いかかってきた“化物”の存在も絡んで取り返しのつかない状況へと発展していく。あまりに丁寧であるため、大枠だけ眺めると意外性に乏しいとも言えるのだが、そうして予測できるからこそ恐怖が膨らむのは、“化物”の特徴付けと同様だ。

 光も射さない暗闇で繰り広げられる葛藤や逃走のさまを描くのに、ライトや発光筒、ハンディカメラの暗視モードなど様々なアイテムを用いて撮影、登場人物たちの視覚に近い映像を作りあげ、“化物”の特徴的な声や洞窟ならではの反響をきちんと活かした立体的な音作りも合わせて、圧倒的な臨場感を構築している点も出色だ。

 内からも外からも襲いかかる恐怖の果てに辿り着く結末は、ハリウッド産ホラーにあるお約束とは異なり、言いようのない虚しさを漂わせて味わい深い。終わってもじりじりとした恐怖に心胆が冷える想いをするが、随所に鏤められた伏線や、説明のされていない描写の謎解きをするために、恐る恐るもういちど観たくなる組み立ても見事だ。たとえば途中で登場する矢印の向きなど、考えてみると尚更に薄気味悪い。

 純粋にその場限りの恐怖を味わうのもいいが、振り返ってみて深読みすることも可能な、丹念に仕上げられた作品である。本当に恐がりの人なら、観たあとで記憶から消し去ってしまいかねないが、ホラー映画愛好家なら決して忘れない1本になるだろう。

関連作品:

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コメント

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