『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』

『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』

原題:“Clank : High Voltage” / 監督・脚本:ネヴェルダイン&テイラー / 製作:トム・ローゼンバーグ、ゲイリー・ルチェッシ、スキップ・ウィリアムソン、リチャード・ライト / 製作総指揮:マーク・ネヴェルダインブライアン・テイラー、エリック・リード、デヴィッド・スコット・ルービン、マイケル・パセオネック、ピーター・ブロック、マイケル・デイヴィス / 撮影監督:ブランドン・トゥロスト / プロダクション・デザイナー:ジェリー・フレミング / 編集:フェルナンド・ヴィレナ / 衣装:デイナ・ピンク / 音楽:マイク・パットン / 出演:ジェイソン・ステイサムエイミー・スマート、クリフトン・コリンズJr.、エフレン・ラミレッツ、バイ・リンデヴィッド・キャラダイン、ドワイト・ヨーカム / レイクショア・エンタテインメント/ライオンズゲート製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:風間綾平 / R-18+

2009年9月26日日本公開

公式サイト : http://www.charge-me.jp/

楽天地シネマズ錦糸町にて初見(2009/09/26)



[粗筋]

 アドレナリンを分泌し続けなければ死んでしまう特殊な毒に冒され、毒を盛った相手に復讐するべくロサンゼルスに阿鼻叫喚の騒動をもたらした男シェブ・チェリオス(ジェイソン・ステイサム)。死んだかに思われた彼は、だが驚くべきことに生き長らえていた――但し、心臓を抜き取られて。

 あの毒に耐えて生き抜いたチェリオスの驚異的な肉体に目をつけた悪党が、弱った自らの心臓の代わりに彼を選んだらしい。いずれ他の臓器も頂戴するつもりで、保管庫として生かしておくために充電式の人工心臓を埋め込んでおいたが、誰もが予想しないタイミングで、チェリオスは突然覚醒した。

 夢うつつのうちに事情を盗み聞きしていたチェリオスが、黙って身体を差し出すわけがない。悪党どもの手を逃れた彼は、さっそく懇意の闇医師ドク・マイルズ(ドワイト・ヨーカム)に連絡を取り、助言を請う。

 状況は劣悪だった。体外に取り付けられたバッテリーが切れれば、以後は体内に埋め込まれたバッテリーが心臓を動かす。皮膚に弱い電流を帯びることで充電が可能だが、1時間程度の間隔でこまめに補充しなければならない。

 ――あの騒動から3ヶ月。ロサンゼルスにふたたび、シェブ・チェリオスの猛威が吹き荒れる――!

[感想]

 ヒットした映画の続篇が作られることは珍しくない。だが、『アドレナリン』という作品は、偏愛している人間の目から見ても、続篇を作る、と言われたら一瞬耳を疑う代物だ。恐ろしく魅力的な主人公だが、普通に考えれば続篇には登場させられないし、別のキャラクターで似たようなことをやって面白くなるかどうか。キャラクターの魅力、異様なテンションの高さ、繰り返される「如何にして体内にアドレナリンを分泌させ続けるか」というシチュエーションの面白さを引き継ぐのは非常に困難が予想される。下手に1作目の世界観だけ、表現手法だけなぞってみても、単に観客の期待を裏切るだけの作品になるのは確実だ。

 しかし、本篇の情報を耳にしたとき、前作を観た人間なら良くも悪くも期待を募らせただろう。ようやく日本のファンの前に提示された本篇は、その期待を裏切るどころか、その斜め上まで跳躍するような仕上がりだ。

 前作自体が、“アドレナリンを分泌させ続けないと死んでしまう”という設定に、存在感充分のジェイソン・ステイサムという俳優を起用した時点で面白いことは請け合い、と感じたほどだが、本篇はアドレナリンの部分を“充電し続けないと死んでしまう”に変えている。そのぶっ飛んだ発想が生まれた時点でやはり成功、しかも主演・監督が同じなのだから、もう間違いなく面白い――少なくとも前作に痺れた者なら、今回も痺れないはずがない。

 本篇はこのぶっ飛んだ設定を前作同様に、様々なアイディアで活かしている。移動中、遭遇した車のバッテリーを借りてチャージするのは文字通り序の口で、普通なら絶対に触らないような高電圧の場所に興奮の面持ちで近づいていく姿や、警察が動きを封じるために突きつけたスタンガンで逆に元気になり、警官を全員のしたあと、奪ったパトカーのなかで自らの身体に嬉々として電極を押しつけ続ける様など、観たことのないクレイジーぶりにこちらのほうが文字通り痺れてしまう。

 人物像や展開のハチャメチャさも、いい形で引き継いでいる。前作で「何をしても死にそうにない」男ぶりを存分に披露したチェリオス=ジェイソン・ステイサムは、更に派手な活躍ぶりを見せているし、物語に絡んでくる登場人物も、色んな意味で酷い奴揃いだ。前作から引き続きチェリオスに協力するドク・マイルズは、いちおうチェリオスに対しては好漢ぶりを示すが電話に出る場所やその都度やっていることはけっこう無茶苦茶だし、成り行きで最初にチェリオスが追い始める中国人系ギャングの男も、チェリオスを追うもうひとつの勢力も、人目を憚るということを知らないクレイジーぶりを示す。

 一方で、前作の登場人物や関係者が意外なタイミングで、意外な形で関わってくるのも本篇の見所のひとつだ。早い段階で登場するチェリオスの協力者は前作の犠牲者と縁故でありながら極端に違う顔を見せて度胆を抜いてくるし、とある一団はがらっと違った形で容喙してくる。だが何と言っても驚きなのは、一般人だったはずの婚約者イヴの激変ぶりと、とある人物の登場の仕方である。イヴについては、前回あれだけ酷い目に遭わされていればある意味自然な変化とも言えるが、もうひとりの登場を予測できる人はいないだろう。あんまりな成り行きに、開いた口が塞がらなくなること必至である。

 基本的に、方々で充電するために無茶苦茶なことをする男を楽しむ話なので、前作を知らなくともかなり堪能できるが、こうした再登場組の意外性や変化を楽しむためには、いちど観ておいた方が無難だろう。アイディアが如何に秀逸とはいえ、必然的に危険極まりない行動が頻出し、また表現の多くがかなり下品なので、面白いとか以前に肌に合わない人もいるはずだ。

 決してアイディア一本勝負の作品ではなく、映像的な面でも本篇はふんだんにアイディアが盛り込まれており、映画好きならば一見の価値はあるだろう。鑑賞前にプログラムに目を通したのだが、「弓状をした機材に9台のカメラを取り付け、『マトリックス』の映像を更に発展させたようなシーンを作っている」といった表現があり、何のことかと思って鑑賞していると、なるほど、ロケ中心の撮影では考えられなかった映像を実現している。ただ思いついた撮影手法を安易に利用しているのではなく、それが随所で幻覚めいた雰囲気を醸し出すと共に、作品の異様なスピード感、ハイテンションぶりに貢献させているのが見事だ。前作でもわざと過剰に字幕を織りこんで個性的な画面作りをしていたが、それを発展させて、さながら怪獣映画のようなシークエンスや、唐突に謎のテレビショーに物語をリンクさせるなど、ユニークな演出があるのも面白い。

 どう見てもお行儀の良い映画ではないし、あまりにハチャメチャすぎて許容できない、という人も多いだろうが、破天荒なアイディアをフィクションならではの奔放さで徹底的に描ききり、嵌ってしまった人には極上のカタルシスをもたらしてくれる、正しい意味でのエンタテインメントに仕上がっているのは間違いない。趣向に対する掘り下げの深さ、表現の先進性において超A級の完成度なのだが、精神はとことんC級であるのが余計に頼もしい1本だ。

 R-18+という高い年齢制限が設定されているが、どー考えてもお子様に見せてはいけない、というかチェリオスとイヴのラヴシーンがどれほど酷いジョークなのか解らないくらいのお子様に観て欲しくはないので、致し方のないところだと思う。

関連作品:

アドレナリン

デス・レース

バンク・ジョブ

トランスポーター3 アンリミテッド

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