『オーシャンズ』

『オーシャンズ』

原題:“Oceans” / 監督:ジャック・ペラン、ジャック・クルーゾー / 脚本:ジャック・クルーゾー、ローレン・デバ、ステファン・デュランド、ローレン・ゴード、ジャック・ペラン、フランソワ・サラノ / 製作:ニコラス・マーヴメイ、ジャック・ペラン / 編集:キャスリーン・マーチャン、ヴァンサン・シュミット / 音楽:ブリュノ・クレ / 日本語吹替版ナレーター:宮沢りえ / 配給:GAGA

2009年フランス作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:寺尾次郎

2009年10月17日東京国際映画祭オープニング上映

2010年1月22日日本公開

公式サイト : http://oceans.gaga.ne.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2009/10/17)



[概要]

“海”とは何なんだろう? 誰しもが一度は抱くささやかな疑問。その謎を解き明かすために、カメラは海へと向かう。そして私たちは目撃する――母なる海に今も生きるものたちの、その雄大な営みと、私たちが奪おうとしているものの真の姿を。

[感想]

 アカデミー賞ドキュメンタリー部門の候補にも挙げられた、渡り鳥たちの生態を追った映画『WATARIDORI』の記憶は未だに鮮烈だ。警戒心の強い鳥達に逃げられぬよう時間をかけて撮影機材に慣れさせ、編隊飛行をする群れの傍らで小型の飛行機を駆って撮影した映像は、未曾有の体験と言ってもいいほどの衝撃をもたらした。

 本篇はその『WATARIDORI』を手懸けたジャック・ペランとジャック・クルーゾーが撮影機材の開発から携わり、70億円という、ドキュメンタリー映画としては驚異の製作費を費やして製作、完成させた最新作である。

 前作の記憶が未だ鮮烈であるが故に、あちらを観たものとしては否応なく期待を募らせてしまう作品であったが、率直に言えば、いささか期待外れだった。

 決して不出来な作品ではない。被写体に極限まで接近して撮られた映像群のインパクトはやはり強烈であるし、初めて目にするようなシチュエーションも無数にある。泳ぐタコの意外なほど美しい姿形、群れて泳ぐイルカたちが海中から錐揉み状に跳ね上がる様子、海底を埋め尽くすほどに蝟集したカニが一斉に交尾する姿、大型魚に常に寄り添うように泳ぐ小型魚、そして様々な生き物の補食する模様、といった映像はやはり観ていて感動を覚える。

 ただ、そこにあまり“未知の衝撃”といったものを感じないのは、採り上げられている状況がほとんど、先行する自然ドキュメンタリー映画の傑作でも扱っているものばかりだからだ。回遊魚が無数に群れ、さながらラインダンスの如く舞う様子、シャチが狩った獲物をまるで弄ぶように海中から投げ上げる姿、海鳥が餌を獲るために海面を貫き魚のように泳ぐ光景、いずれも『ディープ・ブルー』を筆頭に、多くの自然ドキュメンタリーのなかで目にした覚えがある、と感じるだろう。被写体との距離、という意味では画期的だが、好きでこうしたドキュメンタリーを観ている人ほど驚きを得られない。

 近年製作される自然ドキュメンタリーの常として、本篇もまた自然破壊に警鐘を鳴らす、という意図を籠めている。それは構わないのだが、メッセージを示すために組み込んだ描写がいささか軽率なのが引っ掛かる。本篇は終盤に差しかかったところで、群れる魚とともに網にかかった大型魚が傷つき、ヒレだけを切り落とされて海に捨てられる姿が描かれるが、これでは漁をしている者がことごとく種類を問わず乱獲し、必要なものだけ捨てているように捉えられ、漁をすること自体が罪悪であるように見えてしまう。問題は、生態系を破壊するほどに乱獲すること、必要としない部分を安易に廃棄すること自体にあるはずで、節度を保って漁をする業者がいることを無視したような表現は誤解を招く。製作者が漁そのものを罪悪と感じているなら仕方ないが、終盤のナレーションで必要なのが“共生”だと訴えている以上、そこまで極端な考え方はしていないと察せられるから、尚更に首をひねってしまう。具体的な提案は難しいと理解し、あくまで観る者の危機意識、問題意識を喚起しようとしている点は認めたいのだが、そこで半端に、しかも誤解されるととんでもない結論を招きかねない表現を入れるのはまずいだろう。

 大きなテーマに沿って映像を蓄えてまとめた長篇ドキュメンタリー、というのは、物語が構築しにくいぶん観る側が退屈しやすい、というジレンマがある。『WATARIDORI』では様々な鳥達の姿を追いつつも、移動経路を基準に巧みに構成し、随所に緊迫した見せ場を設けたりすることでこの欠点をかなり補っていたが、本篇はシチュエーションごとに映像を分類している程度で、前作よりも飽きが来るのが早い。こうしたタイプのドキュメンタリーに慣れている人ほど似たような感想を抱く危険が高く、その点はやはり好ましいとは言い難い。

 ほとんどが驚異的な至近距離で撮影されており、その技術や実際に採り上げられた映像の価値は高いと思うし、一見の価値はあると認めるが、しかし巨額の予算や技術を謳うわりには、先行作品のインパクトを超えていないことが惜しまれる。努力や意思を評価するからこそ、もうひとつ乗り越えて欲しかった。

関連作品:

WATARIDORI

ディープ・ブルー

ホワイト・プラネット

アース

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