『POV 〜呪われたフィルム〜』

『POV 〜呪われたフィルム〜』

監督&脚本:鶴田法男 / 製作:日下部雅謹、新坂純一、鶴田浩司 / 企画:牧野正、古澤佳寛 / プロデューサー:古郡真也 / 撮影:佐々木雅史、児玉貴志 / 照明:石川真也、小山秀徳 / 録音:田中靖志 / 美術プロデューサー:津留啓亮 / 編集:須永弘志 / VFX:鴫原譲 / 音響効果:壁谷貴弘 / 音楽:白石めぐみ / 出演:志田未来川口春奈、平野靖幸、児玉貴志、三浦まゆ、嶋崎亜美、真下有紀、小須田康人 / 配給:東宝映像事業部

2012年日本作品 / 上映時間:1時間32分

2012年2月18日日本公開

公式サイト : http://pov-film.com/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2012/03/09)



[粗筋]

 若き人気女優・志田未来をナビゲーターに、毎回彼女が関心のあることを題材にしていく携帯電話向け番組『志田未来 それだけは見らいで!』。その日の収録は、同じ学校に通う後輩の女優・川口春奈がゲストということで、春奈が好きな“真霊映像”の特集が行われることとなった。ディレクターの橘直紀(児玉貴志)らが予め集めておいた怪奇映像を鑑賞する、という内容である。基本的に怖いものが嫌いな未来はあまり乗り気ではなかったが、そんな彼女の反応も込みの企画――の、はずだった。

 最初の映像から、異変は起きた。映っているのはどこかのトイレ、春奈はそれが彼女の通っていた中学のトイレに似ている、といい、橘はADの北川朱美(嶋崎亜美)を「集めておいた映像じゃない」と小声で責め立てる。念のためにもういちど再生すると、先ほどの映像と微妙に状況が異なっていた。未来は強く怯えはじめたが、構わず次の映像に移ると、今度はどこかのシャワー室――しかも、またしても春奈の母校らしい、という。とうとうスタッフは収録を中止しようとしたが、映像は止まらず、最後には屋上らしき光景が映り、そしてようやく、消えた。

 スタッフの悪質なイタズラと思いこんだ出演者ふたりは怯え激昂するが、自分たちが工作などしていない、ということを証明するために橘が回し続けたカメラは、リアルタイムで異常な映像を捉えていた――

[感想]

 初っぱなからこんなことを言うのは何だが、私は鶴田法男監督をあまり高く評価出来ずにいた。本邦のホラー映画史をおさらいすると、間違いなく原点に近い場所にいた人、というのは解るのだが、私の観た限りでは、その表現手法をきちんと活かせていない、意味を充分に理解せずに用いて効果を損なっている、という印象が強いのだ。私が初めてきちんと鑑賞した鶴田監督作品はつのだじろうの漫画を原作とする『予言』だったが、表現のジメジメとした薄気味悪さは悪くなかったものの、プロットでそれを活かせずに、個人的には同時上映の『感染』のほうが上、と判断せざるを得なかった。近年もテレビ用に新作が生まれている『ほんとにあった怖い話』シリーズでも未だに演出として携わっているが、率直に言えば、スタイルを踏襲した後進のほうが達者だ、と感じることが多い。私自身の趣味や嗜好が影響していることを考慮に容れても、清水崇ら後発の監督のほうがよほどこの手法をきっちり使いこなしていた、と思える。

 だから、鶴田監督が最近浸透してきた主観視点撮影による映画を作った、と聞いて、正直なところ「大丈夫だろうか」という想いのほうが強かった。しかし、個人的にこの手法で撮られた作品に愛着があるし、やはり観ずに判断することは出来ない、と考えて、劇場に足を運んだのである。

 結論から言えば、これまでに鑑賞した鶴田監督の作品のなかでは、間違いなくいちばん高く評価出来る仕上がりだった。しっかりと満足感も覚えている。

 ストーリーをよくよく検証すると、説明がついてもいい箇所に説明がついていない、無遠慮に影響が拡散しすぎていて収束がつかなくなっている、といった問題点は確かにある。だが、そういう嫌味以上に、観るものを手玉に取り、終盤まで翻弄するアイディアの数々が快い。

 あまり先入観なく観たほうがいいはずなので詳細に触れられないのが歯痒いが、ホラー好きならある程度意図の読み取れるような仕掛けをあからさまに操る一方で、それを早々と回収すると、新たなネタで覆してくる。そのうえラストではもうひとひねり施すなど、重層的な趣向が、観るものを最後まで牽引し続ける。

 怪異の見せ方は決して奇を衒っていないし、中盤では登場人物たちの怯え方が著しくて観るほうはやや辟易してしまうほどだが、しかしそこから怖さが立ちのぼってくる工夫は施してあり、確実に効いている。冒頭、カメラがその場で撮影した異変を確かめるくだりは、その後も反復されることで効果が増しているし、前述した“あからさまな仕掛け”がもたらす違和感が響かせるおぞましさは、大々的に扱っていないからこそボディブローのようにじわじわと怖さを浸透させる。

 特にクライマックスのアイディアは、映画そのものの成立背景と怪異が絡んでいる、と思わせてくれるだけに印象深く、素直なひとには本当に、帰り道に背後が気になったり、ひとりで風呂に浸かるのを躊躇わせるぐらいのインパクトが生まれている。――すれっからしの捉え方だと、いささか過剰すぎて滑稽さも際立ってしまっているし、終盤の撮影者についてのアイディアも、実は非常に古い作品で既にやっているひとがいるうえ、最後にリアリティを弱めてしまっている一因ともなっているので手放しで褒めることは出来ないのだが、あれが許容される空気はしっかりと醸成しているし、その力強さは締め括りに相応しいとも言える。

 序盤、自然な表情、振る舞いが必要なところでわざとらしさが目立つことや、現象ひとつひとつの必然性があまり考慮されていないことなど、随所に粗さが散見されるが、しかしそういう点を踏まえても“怖さ”、或いは娯楽映画としての牽引力をきちんと表現しきった、意欲のある佳作である、と思う。少なくとも、私のなかで鶴田法男監督の印象がかなり改善したことは確かだ――いや、売り方とか表現のこだわりとか、未だに不満はあるんですけど、他の作品を観ることに二の足を踏むことは減りそうです。

関連作品:

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SHOT/ショット

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