『ガンズ・アキンボ』

『ガンズ・アキンボ』公式サイトで配布しているgifより。
『ガンズ・アキンボ』公式サイトで配布しているgifより。

原題:“Guns Akimbo” / 監督&脚本:ジェイソン・レイ・ハウデン / 製作:ジョー・ニューロター、フェリペ・マリーノ、トム・ハーン / 撮影監督:ステファン・シューテック / プロダクション・デザイナー:ニック・バセット / 編集:ザーズ・モンタナ、ルーク・ハイ / メイク&ヘアデザイン:ジェーン・オケイン / 衣装:サラ・ハウデン / VFXスーパーヴァイザー:トニー・ウィリス / 音楽:エニス・ホトロフ / 出演:ダニエル・ラドクリフ、サマラ・ウィーヴィング、ネッド・デネヒー、ナターシャ・リュー・ボルディッゾ、グラント・バウラー、エドウィン・ライト、リス・ダービー / オキュパント・エンタテインメント製作 / 配給:Pony Canyon
2019年イギリス、ドイツ、ニュージーランド合作 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:アンゼたかし / R15+
2021年2月26日日本公開
公式サイト : https://guns-akimbo.jp/
TOHOシネマズ日比谷にて初見(2021/3/4)


[粗筋]
 マイルズ(ダニエル・ラドクリフ)はゲームプログラマーだが、仕事に対してまったくやる気がない。日がな一日スマホやPCを睨んでやってるのは、SNSで見ず知らずの他人の言動を揶揄し煽る、いわゆる“クソリプ”に明け暮れていた。
 そんな彼がある日、《スキズム》に目をつけた。ギャングや殺人鬼に殺し合いをさせ、その様子を生で配信する闇サイトだった。柄にもない正義感を振りかざし、威勢よくクソリプを飛ばしたマイルズだったが、主催者らしき人物のレスで自宅のIPアドレスを突きつけられ、愕然とする。
 よもやまさか、と思っていたら、本当に《スキズム》を運営する組織の一団がマイルズの自宅へと乗り込んできた。直接罵倒され、殴られ、気絶させられ、ようやく目を醒ましたとき、マイルズの両手には、拳銃がボルトで固定されていた。
 やがて組織からマイルズのスマホにメッセージが届く。マイルズを《スキズム》の参加者とし、24時間以内に相手を殺さなければマイルズを殺す、というものだった。相手は《スキズム》でも最凶を誇る殺人者ニック(サマラ・ウィーヴィング)。
 さっそく襲撃してきたニックから命からがら逃げてきたものの、両手に拳銃を持った男が警察に助けを求めても耳を貸してくれるはずもない。途方に暮れつつ、マイルズは前夜に何とか約束を取り付けた元カノのノヴァ(ナターシャ・リュー・ボルディッゾ)に会いに行くが、彼女にも逃げられてしまった。
 なにせ両手に拳銃を握らされていて、日常生活に支障を来す有様なのに、頼れる者もいない。このあまりにも無理ゲーに過ぎる状態で、果たしてマイルズは生き延びることが出来るのか……?


TOHOシネマズ日比谷のロビー窓際にて撮影した『ガンズ・アキンボ』パンフレット。
TOHOシネマズ日比谷のロビー窓際にて撮影した『ガンズ・アキンボ』パンフレット。


[感想]
“アキンボ”は“二挺拳銃”を意味するという。両手を腰に当てる態勢そのものを表す言葉が、両方にホルスターを提げるガンマンが拳銃を抜くときに見えることから、転じて二挺拳銃使いも意味するようになったそうだ。
 実践で用いるには不自然なスタイルらしいが、しかしその見映えの好さ故に、『男たちの挽歌』や『マトリックス』、『リベリオン』など、フィクションの世界ではしばしば登場する。しかし、ここに挙げた作品をご存知の方ならお解りになるだろうが、どこか非現実的な世界観であればこそ許される趣向でもある。
 その点、本篇における“二挺拳銃”の扱いはユニークだが的を射ている。まず、主人公がそれを望んだわけではなく、彼が行った煽りに対する報復、という意味合いが籠められているのだ。本質的に実際の戦闘に向かないスタイルであることは、銃器を扱うものなら理解している。それを敢えてやらせることが滑稽で、報復に相応しい。しかもボルトで固定してしまえば、日常生活で普通に出来ることもいちいち面倒が生じる。劇中ではそれをコミカルに描き出すが、それもまた、劇中でゲームの生配信を運営する組織の意向に適っているわけだ。
 一般的なフィクションでの“アキンボ”たちと比較して、本篇のマイルズはあまりにも情けないのだが、それでも次第に覚醒していくさまには興奮と爽快感がある。プログラマーらしい発想で組織に対抗し、気づけばガンマンとしてそれなりの貫禄を身につけていく。随所にリアリティを付加しつつも、急速に膨らみ爆発する勢いが、観る者に馬鹿馬鹿しい、無茶苦茶だ、と思わせながら惹きつけてしまう。
 ストーリーを分析すると、取っかかりのアイディアは独創的だが、構造的には実に典型的でもある。マイルズの急成長っぷりや、それを促す恋人や親しいひとびとの危機、そして終盤にかけての変化をもたらす背景。よほど純真な観客であればともかく、ある程度目端の利くひとであれば、中盤以降の展開はその布石からだいたい見抜けてしまうはずだ。
 だがそれが退屈にならないのは、圧倒的な勢いと、緩急をもたらすユーモア、そして中心で動くマイルズ、彼に仕向けられた殺人者ニックと、組織のトップ・リクター(ネッド・デネヒー)のキャラクターがくっきりと際立っているからだろう。
 とりわけ印象が強いのはニックだ。ギャングだろうがサイコパスだろうが堂々と渡り合い倒してしまう強さ。容赦のない人殺しでありながら、その手際が快く見えてしまうユーモア。中盤以降は意外な側面も見せるが、それでも折れない芯の逞しさが忘れがたい。スタイルは美しいのに、こうしたタフなキャラクターにしっかりと説得力をもたらしたサマラ・ウィーヴィングの好演が光っている――ちなみに彼女は『マトリックス』でエージェント・スミスを演じたヒューゴ・ウィーヴィングの姪にあたるそうだ。深い闇をクールさと独特のユーモアで包む人物像が相通じているように思うのは、さすがに穿ちすぎだろうか。
 個人的に、暴力描写は過激で展開もクレイジーだがその描き方かスタイリッシュであり、かつどこかに芯の通った作品をけっこう偏愛している。ジェイソン・ステイサムの『アドレナリン』シリーズや、クライヴ・オーウェンが怪演する『シューテム・アップ』などがいい例だが、本篇もまたこうしたラインの延長上にある、と感じる。本篇もまた、一部の観客に偏愛される類の1本だろう。


関連作品:
プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』/『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』/『ブリッツ』/『グレイテスト・ショーマン』/『キラー・エリート』/『MEG ザ・モンスター』/『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア
ロッキー』/『シザーハンズ』/『ダークナイト』/『パシフィック・リム
男たちの挽歌』/『マトリックス』/『リベリオン』/『アンダーワールド(2003)』/『アドレナリン』/『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』/『シューテム・アップ

コメント

タイトルとURLをコピーしました