『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』

TOHOシネマズ錦糸町 楽天地、スクリーン11入口手前に掲示された『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』のポスターヴィジュアル。たぶん公式サイトからのプリントアウト。
TOHOシネマズ錦糸町 楽天地、スクリーン11入口手前に掲示された『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』のポスターヴィジュアル。たぶん公式サイトからのプリントアウト。

原作&監督:山田洋次 / 脚本:山田洋次、朝間義隆 / 製作:名島徹 / 企画:高島幸夫、小林俊一 / 撮影:高羽哲夫 / 照明:青木好文 / 美術:出川三男 / 装飾:町田武 / 装置:小野里良 / 編集:石井巌 / 録音:中村寛 / 調音:松本隆司 / 音楽:山本直純 / 出演:渥美清、倍賞千恵子、太地喜和子、下條正巳、三崎千恵子、前田吟、太宰久雄、佐藤蛾次郎、桜井センリ、久米明、東郷晴子、中村はやと、西川ひかる、岡本茉利、榊原るみ、佐山俊二、谷よしの、寺尾聰、佐野浅夫、大滝秀治、笠智衆、岡田嘉子、宇野重吉 / 配給&映像ソフト発売元:松竹
1976年日本作品 / 上映時間:1時間49分
1976年7月24日日本公開
2019年12月25日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazonAmazon Prime Video]
公式サイト : https://www.tora-san.jp/
TOHOシネマズ錦糸町 楽天地にて初見(2020/06/18) ※《男は》特集上映


[粗筋]
 風来坊の車寅次郎(渥美清)が半年ぶりに柴又に帰ってきた。甥の三男(中村はやと)がちょうど小学校に入学する頃合いだったことを思い出し、たまには伯父らしくお祝いしてやろう、という寅次郎には珍しい配慮だったが、入学式から帰宅した妹の諏訪さくら(倍賞千恵子)から、三男が寅次郎の甥と知られてクラスで笑われた、という話を聞かされて激高、叔父の竜造(下條正巳)や隣家のタコ社長(太宰久雄)ともみ合いになり、けっきょく家を飛び出してしまう。
 出先から電話をかけてさくらたちと和解したが、気晴らしに居酒屋で酒を飲んでいた寅次郎は、金を払わずに出て行こうとした老人(宇野重吉)の支払いを肩代わりし、そのまま老人を柴又の実家まで連れ帰ってしまった。
 早朝から商売のために出て行った寅次郎の代わりに、竜造の妻つね(三崎千恵子)らが老人の面倒を見ることになったが、この老人、非常に厚かましい。食事に注文をつけるわ、朝から風呂を沸かせと命じるわ、挙句にふらりと出かけると、外での食事を“とらや”に支払わせる始末。まるで人を人とも思わない振る舞いに、竜造たちは大いに憤った。
 さすがにこれはいけない、と寅次郎が老人を諭すと、どうやら老人は、そこが寅次郎の実家と知らず、民宿のつもりで振る舞っていたことが判明する。自身の不躾さを反省した老人は、寅次郎に請うて筆と画用紙を運ばせると、すらすらと簡単な絵を描いた。これを神田のある店に持ち込めば、幾ばくかの金に換えられる、と寅次郎に託すのだった。
 神田明神での商いがあったので、ついでにくだんの店へと立ち寄った寅次郎は、半信半疑で絵を差し出す。しばし絵を鑑定したあとで、店の主(大滝秀治)が提示した額は、7万円だった。
 実はあの老人は、絵に知識のない者でもその名を知るほどの日本画の大家・池ノ内青観だった。寅次郎は、青観が“とらや”を気に入って滞在を続けてくれれば、絵を振るだけで楽に暮らせる、と歓喜するが、彼が帰ったときには既に青観は立ち去ったあとだった。
 三男のお守りを頼まれた青観が戯れに描いた絵が見つかると、目の色を変えた一同で取り合いとなり、絵を駄目にしてしまう。自分が帰宅するたびにもめ事が発生するのにほとほと失望した寅次郎は、またぞろ家を飛び出してしまうのだった。
 それからしばらくして、寅次郎の姿は兵庫県の龍野にあった。奇しくも同じ頃、青観もまた役所に招かれ、接待を受けているところだった――


[感想]
 私がきちんと鑑賞する“寅さん”シリーズはこれが3本目、しかも最初が寅さん不在の第50作、次に観たのがシリーズ化も念頭になかった第1作であるから、シリーズとしての醍醐味がきちんと盛り込まれた時期の作品はこれが初めて、と言えそうだ。
 実際、先に鑑賞した第1作と比べると、シリーズ未体験でも知識として持っていた、“寅さん”ならではの要素がふんだんに詰め込まれている。オープニングの夢のひと幕、テーマ曲をバックに河川敷で繰り広げられる騒動、帰宅した寅さんと“とらや”、及び印刷会社のタコ社長を交えたひと悶着。毎回登場する名の通った女優が演じるマドンナに、毎回のように恋に落ちる寅さん、云々。第1作から10年も経っていないが、もう定形は完成しているのが窺える。
 ただ、思っていたのと違ったのは、マドンナとの恋愛以上に、偶然知己を得る日本画家との関係に重きを置いて描いていた点だ。
 当初、柴又のひとびとは、寅さんが突然連れてきた老人が、著名な日本画家・池ノ内青観であることは知らない。酒代も払えない気の毒な老人、という寅さんの説明を鵜呑みにして、親切にするが、老人の横柄な振る舞いに次第に腹を立てる。
 だが、老人の正体が判明すると、鮮やかなほどに大きく掌を返す。粗相がなかったか心配し、彼が三男のお守りで戯れに絵を残していったことを知ると目の色を変える。ちょっとみっともないくらいの変貌ぶりが見ていて愉しい。
 しかし、そんななかでも寅さんの態度は、実に彼らしい。そもそも青観は、場末の飲み屋で金を持たずツケ払いを望んだから揉めていたのだが(そのことは劇中でも明示されている)、寅さんは勝手にその哀れな境遇を想像して同情し、家まで連れて行く。
 老人がただ者でないことを知ってからも態度は変わらない――と言いたいところだが、もちろん見方は変わっている。青観がそのまんま“とらや”を気に入って居ついてくれれば楽に暮らせる、などと言い出すし、そのあとにもかなり厚かましく利用しようと試みる。
 ただ、その物云いに、媚びやへつらいの様子はまるでない。旅先で再会したあとも寅さんは初対面のときと同じような態度で接し、青観の胸中を勝手に忖度して親身に振る舞っている。旅先での下に置かぬ厚遇ぶりに辟易する青観は、寅さんに応対を押しつけているわけだが、それにちゃっかりと便乗して贅沢三昧をするさまは妙にバランスが取れている。
 自分でしばしば嘆くとおり、寅さんはかなり愚かだが、態度は率直で明快だ。誰しも肚に何かしら含むものがあり、青観のような地位の人間ともなるとそうした裏表を散々見せられてきただろう。だからこそ、寅さんの率直さが快い。決してへりくだりはせず、卑屈にもならず、他人に接する寅さんだからこそ、この奇妙な友情は成立している。
 このシリーズと言えば、毎回異なるマドンナが登場し、寅さんが恋に落ちる、というのがお馴染みだが、本篇の場合、それはこの寅さんと青観との一風変わった友情をより際立たせる添え物に使われた感さえある――それゆえになのか、本篇のマドンナである、太地喜和子演じる芸者ぼたんは、ちょっとドキドキするくらいに寅さんと親密になる。初登場からほとんど間もなく“所帯を持とう”と口説かれ、まんざらでもない顔をしているのにも驚くが、柴又に戻った寅さんを訪ねてきてからの振る舞いは、本気で寅さんに人生を預けようとしているように映る。陽気でパワフルな彼女なら、気まぐれで風まかせの生き方をする寅さんもうまく操れるように思えるのだ。本篇に続く第18作『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』のキャストに彼女の名前がないのが奇異に感じさえする。しかし、それほどに相性のいいマドンナを用意しなければ、恐らく寅さんと青観の奇妙で、しかし固い絆と釣り合わなかったのだろう。
 本篇は柴又とともに、もうひとつの舞台として、城下町の佇まいを残す兵庫県龍野が登場する。ここが童謡『赤とんぼ』を作詞した三木露風の出身地であることに因んでタイトルがつけられたそうだが、間際まで田園風景が広がり、そこから急に入り組んだ町家が風情ある佇まいを見せており、まるで日本の原風景を凝縮したような趣がある。そこで芸者として生計を立てるぼたんと、各地を流浪して暮らす寅さん、それに青観と、彼とゆかりの深い人物が交流するさまが非常に絵になる。
 私はまだ“寅さん”シリーズを観始めたばかりだが、この1本だけでも、長年にわたって支持されるのが頷けるような気がしている。こんな世界に浸っていたい、と思わせる、快い佳篇である。


関連作品:
男はつらいよ
幸福の黄色いハンカチ』/『たそがれ清兵衛』/『隠し剣 鬼の爪』/『武士の一分』/『家族はつらいよ』/『家族はつらいよ2』/『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』/『砂の器
散歩する霊柩車』/『駅 STATION』/『獄門島』/『八甲田山<4Kデジタルリマスター版>』/『野良犬』/『ニッポン無責任時代』/『黒い十人の女』/『天国と地獄』/『』/『秋刀魚の味
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