『ドラゴンへの道』


原題:“猛龍過江” / 英題:“The Way of the Dragon” / 監督&脚本:ブルース・リー / 製作:レイモンド・チョウ、ブルース・リー / 撮影:西本正 / 照明:チェン・ホイラン / 美術:チェン・シン / 編集:チョン・イウチョン / 衣装:チュー・センヘイ / メイク:チェー・チャックメン / 武術指導:ブルース・リー、ユニコーン・チャン / 音楽:ジョセフ・クー / 日本版主題歌:マイク・レメディオス『The Way of the Dragon』 / 出演:ブルース・リー、ノラ・ミャオ、ユニコーン・チャン、トニー・リュウ、チャック・ノリス、ボブ・ウォール、ウォン・インシック、ウェイ・ビンアオ、ウォン・チュンスン、ジョン・ベン、マリサ・ロンゴ / 制作:コンコルド・プロダクション / 配給:東映 / 映像ソフト発売元:TWIN
1972年香港作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:?
1975年1月25日日本公開
2018年3月20日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|傑作カンフー映画 ブルーレイコレクション版:amazon]
新宿ピカデリーにて初見(2016/7/5) ※新宿ピカデリー8周年記念ブルース・リー特集上映


[粗筋]
 香港の田舎町で武芸の修行に明け暮れていたタン・ロン(ブルース・リー)は、伯父の命でローマへと渡航した。伯父が弟に任せているチャイニーズレストランがマフィアに狙われ、連日嫌がらせを受けており、タン・ロンは用心棒として送り込まれたのだ。
 店の従業員は暇に飽かせて空手を学び、自分たちの手でマフィアから店を守ろうとしていたが、まったく歯が立たない。しかし、伯父の娘チェン(ノラ・ミャオ)の不安をよそに、タン・ロンはその実力を示した。大勢で踏み込んできたマフィアたちを、見事に蹴散らしたのである。
 従業員たちもこの一件でタン・ロンに心酔、全幅の信頼を寄せるようになるが、マフィアたちは一向に諦める様子がなかった。
 目障りなタン・ロンが消えれば万事は解決、とばかりに拳銃を携え大挙し、タン・ロンに金を持たせて香港に帰るよう促したが、気を許した隙にタン・ロンは反撃、返り討ちにしてしまう。
 面子を潰された格好のマフィアは、更なる強硬手段に訴えてきた。なりふり構わず、タン・ロンの命を狙ってきたのである――


新宿ピカデリー、スクリーン2入口脇のデジタルサイネージに表示されたキーヴィジュアル。
新宿ピカデリー、スクリーン2入口脇のデジタルサイネージに表示されたキーヴィジュアル。


[感想]
 ブルース・リー初めての、そして恐らくは唯一、すべてをコントロールした監督作である。
 のちのジャッキー・チェンがそうだったように、ブルース・リーもまた他の人間のもとでは本当に理想とする映画が撮れなかった、ということなのだろう。本篇には、彼の出世作『ドラゴン 怒りの鉄拳』『燃えよドラゴン』にはなかったテイストが確実に盛り込まれている。
 如実なのは序盤の明るさ、ユーモラスな雰囲気作りだ。物語最初のあたりは、ブルース・リー演じるタン・ロンが何をしているのかほとんど理解できない。ロビーで迎えを待つ間、隣にいる老婦人の態度をやけに気にしていたり、アイスを食べている子供に突然いたずらを仕掛けたり。イタリア語を解さないがゆえの失敗、なんてのも盛り込まれていて、雰囲気はほぼコメディと言っていい。
 一通り鑑賞していただければ解るはずだが、本篇でのブルース・リー演じる主人公は、戦いこそするが進んで深刻なダメージを与えようとはしていない。圧倒的な強さで敵を手玉に取るものの、決して一撃で意識を失うほどの強烈な攻撃は繰り出さない。ちょっとコミカルな駆け引きに、ブルース・リー演じるタン・ロンの珍しい茶目っ気のあるキャラクターがハマっている。それこそ、ブルース・リーがこの作品で観客に与えるイメージを考慮して人物や物語の構成を考えていた証拠だろう。
 ただ、やはり思考の中心にアクションがあるが故か、或いはこの時代の香港映画のサガなのか、設定の乱暴さや構成の甘さは否めない。いくら地上げが狙いとはいえここまで好き放題して警察や周辺の商店の反応が乏しいのは不自然で、いかにギャングといえども手段が荒々しすぎる。また、性懲りもなく嫌がらせを仕掛けては毎回のようにタン・ロンにこっぴどくやり返される、という繰り返しで、テンポが単調になってしまっている。途中でちょっとだけ襲撃の仕方を変えるくだりもあるが、変化はもっと大きく、またアクション・シーンごとの着地点を変えるなど工夫がまだ必要だったのではなかろうか。
 しかし、そうした欠点にも拘わらず楽しめてしまう。構成的には単調でも、アクション・シーンそれぞれでブルース・リーが披露する技や駆け引きが多彩なのだ。真っ向から拳でいなしたかと思えば、いつの間にか携えていたヌンチャクで変幻自在の攻めを繰り出す。飛び道具には手製の投げ矢で立ち向かい、そして大一番では行き詰まる熱戦を堪能させてくれる。対戦の前にそれぞれウォーミングアップを行ったり、近くを悠然とうろつく子猫のカットを交えるなどユーモアも効いていて、アクション映画としての楽しみに満ちたこのクライマックスだけでも本篇は一見の価値がある。
 実のところ、映画の出来、という意味では後進のジャッキー・チェンやサモ・ハン・キンポー、近年でもドニー・イェンが中心となって撮った作品にいくつもレベルの高いものがある。だが、ただ映画のクオリティという次元に収まらない、ブルース・リーという不世出の才能が籠めた意思や信念が本篇には漲っている。きっと生きていたら、もっと凄い映画をたくさん撮っていたに違いない。ジャッキー・チェンの登場はもっと違った形になっていただろうし、彼に憧れて彼の演じたヒーローを蘇らせたドニー・イェンとは手を携えて、いま私たちが観られる以上の高みを示してくれたかも知れない。そう感じさせる、そしてそれ故に切なくも愛おしい1本なのだ。

 ところでこの映画にヒロイン格で出演しているノラ・ミャオ、彼女は『ドラゴン 怒りの鉄拳』やジャッキー・チェンの『蛇鶴八拳』にも菅を見せており、カンフー映画愛好家には見慣れた女優である。
 ただ、私が鑑賞した出演作で観るところ、いまいち魅力的に映らない。時代が古く、あまりにもステレオタイプのヒロインとして描かれているが故に、多彩な魅力を備えたヒロインたちに慣れてしまった目に物足りなく感じられる、というのもあるのだろうが、この作品を観て思ったことがある。
 たぶん、ロー・ウェイのところにいたのがいけなかった。
 ブルース・リーやジャッキー・チェンを発掘した功績があり、間違いなく多大な影響を与えた存在だけにあんまし悪し様に言いたくはないのだが、正直なところ、作品を撮る、という意味でのセンスはなかった。当時の主流の作り方を踏襲していた、とはいえ、たまらずに離脱したジャッキーが同胞とともに撮った作品と、同時期に無理矢理でっち上げた作品を並べてみても明白だ。
 率直に言って、ノラ・ミャオがいまいちに見えたのも、この監督の演出が魅力を活かし切れなかったのではなかろうか。本篇でのノラ・ミャオもほかの作品同様にアクションでの活躍はなく、立ち位置はお飾りの感が強いが、しかしイタリアに合わせたファッションと役作りをしただけで、明らかに華が増している。監督や役柄が違うだけでここまで印象が変わるのだから、よほど相性がよくないか、ロー・ウェイ監督が彼女の魅力をしっかりと考慮していなかった、ということなのだろう。
 ……いや、結局のところ、どーやっても私にはロー・ウェイ監督のセンスが受け入れづらい、というだけかも知れないが。


関連作品:
ドラゴン危機一発』/『ドラゴン 怒りの鉄拳』/『燃えよドラゴン
少林寺木人拳』/『特攻野郎Aチーム THE MOVIE ドッジボール』/『エクスペンダブルズ2』/『ヤング・マスター/師弟出馬
スパルタンX』/『カンフーハッスル』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』/『タクシードライバー

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