『夢幻巡礼』
判型:新書判 レーベル:講談社ノベルス 版元:講談社 発行:1999年9月5日 isbn:406182077X 本体価格:1100円 |
|
超能力者問題秘密対策委員会略してチョーモンイン出張相談員但し見習い、着物に袴に三つ編みの時代錯誤な装いがトレードマークの愛くるしい少女(?)神麻嗣子(長い)を筆頭に、老け顔のミステリ作家保科匡緒、才気走る女警部能解匡緒、それに保科の前妻遅塚聡子の四名が活躍する、超能力事件簿シリーズ待望の第四弾――だけど番外編。 丁度前作との間に野間美由紀・柴田よしき両氏管理による公式ファンページの開設、メーリングリストの発足などがあって、本書に関する情報は大分前から様々な形で深川も聞き及んでいた。為に神麻嗣子シリーズと銘打ちながらも彼女は全く登場せず(出るには出るんだが殆ど一瞬である)、レギュラー陣で出番があるのは能解警部のみ、本編とはうって変わった沈鬱なストーリー展開であり、よってシリーズの魅力の一つである水玉螢之丞のイラストも付かず、そして何より本書がシリーズ最終作に繋ぐための伏線となるべき一作だということも、予め知識として持っていた。つまりノンシリーズと一緒なんやな、とそういう覚悟で読んだ訳である。それで良かったらしい。あまりにシリーズ本編とのギャップが激しいのだ。 主人公・奈蔵渉は刑事でありながら日常的に人を殺せる男である。ある日、奈蔵は一本の電話で目を醒ます。それは十年前に姿を消した友人・沓水流からのものであった。流が姿を消す契機となった十年前の惨劇、その舞台となった「聯雲荘」まで来てくれ、と請われ、能解警部と共に当地を訪れる。だがそこに待ち受けていた流は何者かの攻撃によって既に虫の息となっていた。荒れ果てながらも惨劇の痕跡を届ける山荘、新たな流血。そして流の謎めいた呟き。そこから物語は遡行し、奈蔵の過去、殺人鬼に変容した訳、そして十年前に聯雲荘で起きた惨劇の意味を問い始める―― 怖ろしく複雑なプロットである。奈蔵と母との歪で狂的な関係性、そこから生じる破壊の一形態である殺人への渇望、さやかという幼なじみとの綱渡りにも似た交渉――などなど、エディプスコンプレックスをキーにして実に多くのエピソードが入り乱れ、どれが肝心の謎なのかさえ混沌としてくる有様である。一応全ての不可解は一切が伏線となって最終章に結実するのだが、頁を閉じた後も何やら泥のような鬱屈を胸裡に残す。かなり残酷で悽愴な物語なのだが後味がまるっきり悪い訳でないのは、奈蔵の理性的な狂気や諦念にも似た悟りの境地が理解できてしまったからかも知れない。換言すれば、これが理解できない(受容できない)人にとってこの結末は極めて不快だろう。 あまりに謎が入り乱れた所為か、ミステリとしては解決編が駆け足であり、論理的検証がお座なりにされている感がある。解決のくだりで何故本書がノンシリーズではなく神麻シリーズの一環として描かれたのかも明示されるが、周到に伏線が張られているにも関わらずその周辺に纏わる描写が甘かったためにやや唐突に見えた。また、冒頭と末尾に提示された意味深なセンテンスは、解決編から洩れたあるおぞましい可能性を示唆しているものの、些か取って付けたように見える。こちらについて伏線なり予兆なりが記されていなかったために、物語としての鬱屈した後味とはまた別の意味で据わりの悪さを残しているように感じた。単品としての完成度は特に高いという訳ではないと思う。 とはいえ流石に西澤保彦、穿ちに穿った人間観察、そして複雑怪奇を極める謎と論理展開は既に至芸である。その沈鬱さと濁った後味を堪えてでも、神麻嗣子シリーズを愛読する者として読み洩らしてはならない一編には違いない。 他の判型 |
コメント
面白そうです、