『インディゴの夜』
判型:四六判仮フランス装 レーベル:ミステリ・フロンティア 版元:東京創元社 発行:2005年2月28日 isbn:4488017126 本体価格:1500円 |
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第10回創元推理短編賞受賞作である表題作を皮切りに、渋谷にあるホストクラブ<club indigo>を中心として巻き起こる事件や騒動を描いたシリーズ作品四本を収めた連作短篇集。 ふとした思いつきをきっかけに、フリーライター・高原晶と出版社員・塩谷のふたりは一風変わったホストクラブを経営することになった。クラブのようなハコで、DJやダンサーのような男の子が接客する、一般的なホストクラブよりも手ごろな価格の店。狙いはふたりの予測を上回って当たり、実務に携わる素性不明の“正統派”ホスト・憂夜の経営手腕と優れた人望も手伝って、<club indigo>は繁盛する。だがある日、常連客だった“カリスマ編集者”古川まどかが殺害され、第一発見者となったナンバーワンホストに嫌疑がかかる。高原晶とホストたちは疑惑を払拭するために、探偵のまねごとを始める――(インディゴの夜) レーベルゆえかなりがっちりした本格ミステリを予想しているとかなり意表を衝かれる。第一話である表題作こそ凝ったアイディアが盛り込まれているが、第二話目以降は<club indigo>の面々の強烈な個性を活かし、遭遇する“事件”、というより“トラブル”を解決していくといった体裁を取っている。謎解きめいた要素もあるが複雑さはなく、いずれもシンプルに解決する。 本シリーズの面白さは、<club indigo>の面々が事件に関わっていく様子と、その過程で活写されるストリートやホストクラブ稼業の姿にある。第一話こそ常連客が殺害され、勤めるホストが容疑者となってしまうというかなりストレートなプロットだが、ホストが預かった少女との交流から生じるトラブルを描いた第二話、第一話の出来事を受けて区長(!)から依頼されナンパ師を追う羽目になる第三話、挨拶もなしに辞めていったホストの巻き込まれたトラブルという格好で殺人事件から大規模な陰謀にまで発展する第四話と、それぞれに微妙に異なる趣向を用意し、その都度渋谷の若者風俗やホストクラブ稼業の(少なくともこういうミステリではあまり採りあげられることのない)側面がリアルに描かれていく。 その興味を引き立てているのは、<club indigo>の一般的なホスト像とは異なる個性的なキャラクターたちであることは間違いない。レギュラーで“正統的”と評されているのは敏腕マネージャーであり妙に顔が広くそのくせ素性の知れない憂夜さんぐらいで、巨大なアフロヘアのジョン太に筋骨隆々のハーフ・アレックス、技術も経験もないけどDJを名乗るDJ本気など、私たちの頭にあるホストのイメージとはかけ離れた、しかしそれぞれにプロっぽさと若者らしさを兼ね備えた魅力的なキャラクターが、適材適所を弁えて活躍する。この点、語り手である本業はフリーライター、自分ではさほどホストに関心のない高原晶も同様だ。第一話こそ探偵役を兼任するが、それ以降は妙にすっとぼけたところを見せつつ(第三話終盤で明かされるなぎさママの秘密にまつわる話なんか、一般常識にも近いヒントが出ていたはずなんですけど)店でただひとりの女性という立場を活かし、慣れないフェミニンな服装に身を包んだり、まったく感性の異なる子供に振り回されたり、客として余所のホストクラブに潜入したりと大活躍(?)を繰り広げる。 プロットや背景が込み入っていない代わりに、文章にある独特のビート感とてきぱきした展開、そして前述のような際立ったキャラクターの個性により引っ張られて一気に読まされてしまう。読後の余韻も爽快な、娯楽性の高い一冊。叶うならまた別の物語で彼らにお目にかかりたいものです。 |
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