映画鑑賞ののち、急いでロフトプラスワン方面へ。予め映画の上映終了時間を電話で訊ね、余裕があると判断していたのですが、やっぱし南口付近にあるタイムズスクエア12階から歌舞伎町はけっこう遠い。待機場所に指定されている公園に到着したときには既に列が動いてしました。しかし私の番号が案内されるのはもうちょっと先だったので、そのまま公園内へ。今回はひとりでの鑑賞かな、と覚悟を決めていたのに、新耳袋のライブでよくご一緒する某氏がいてちょっと驚く。前回はまだ決まっていなかった新耳袋ライブの日程がそろそろ決定して、前売り券の売り出しがこのイベントのあとぐらいから始まるかも、と睨んだからとのこと。万一我慢できずに早退したときにはチケットを押さえてもらうようお願いして、少し安心する。
他のイベントと日程がややずれていたせいか、時期的に大した話は出てこないかもと踏んだ人が多かったからなのか、思いの外人出は少ない。こんなに身動きのしやすいプラスワンは久し振りです。開場から開演まで時間があるので、そのあいだに夕食代わりにカレーなどをかき込む。これで戻しそうになるなら途中退場だ、と腹を括っていたのですが、日中に薬をちゃんと飲んでいたお陰か、食べたら却って落ち着いてしまった――中身がないから若干胃が痛んでいたのか。納得。
定時よりやや遅れてイベント開始。木原浩勝氏に続いて、さきごろ小説家としての活動もスタートさせたばかりの化野燐氏がまず登場。今回は新耳袋最新刊の締切ギリギリで木原氏に余裕がなかったせいか、主に化野氏の作品『人工憑霊蠱猫』の創作理念や、登場する妖怪たちの背景や元ネタを話題に進む。私も含めて、一巻は読んでいるけど二巻はさすがにまだ(店頭に並んでまだ数日程度だし)という人も多いため、セーブしながら話をされているのが若干息苦しそうでした。創作面では何ら経歴のない新人が出した小説としてはかなり好調な売れ行きを記録しているとかで、既に完成しゲラも手許にある第三巻のあと、とりあえず四巻を出すことは決定したそうです。現在はまだマニアックだったり化野氏の創作だったり(但し、長年の妖怪研究を下敷きにしているので、設定にはけっこう説得力がある)という妖怪も、今後はもうちょっとメジャーなもの、というかこのイベントに参加するような人間なら知っているようなものが登場する予定とか。このまま順調に続いて欲しいものです――なんか話も大きくなっているようだし。
日付が変わった頃合いに最初の休憩。そのあいだに、予定調和のように開催される化野氏のサイン会の列に私も連なってみる。場所が良かったのでいの一番に頂戴したのですが、便宜のために予め名刺を挟んでおいたところ――どうもこちらの感想を御覧になっていたようで、すぐに気づかれました。葉山響の法則?!
30分ほど挟んで第二部スタート。何故か河童の着ぐるみ姿で登場する木原氏。奥にいる村上健司氏が誕生日プレゼントでもらったとかいうのを、その場のノリで来たまま出て来たのでした。にわかに妙な撮影会が始まる。冗談抜きで、『蠱猫』第三巻の著者近影に使われていたら笑うぞ。ていうか化野氏メインじゃないだろ。
気を取り直して本題へ。ここでは今夏公開、水木しげる・荒俣宏・京極夏彦・宮部みゆきという錚々たるメンバーが監修を務めた映画『妖怪大戦争』で脚本を担当されたお一人である沢村光彦氏が登場、映画の見所や話せる範囲での裏話を披露されました。敢えて子供のための映画にした、と言いきるさまがいっそ潔く、その一方で水木作品などを下敷きにした妖怪の造型に対する拘りも窺え、聞けば聞くほど興味が募ります。とりあえず会場に来ていたような人はほっといても観るでしょうが、お話を聞く限りではいわゆる特撮ファンにも見応えのある作品ではないかと思います。個人的には監督が極限まで上げてしまったという川姫のスリットに注目だ!
ふたたびの休憩を挟んだあと、今度は更に“妖怪馬鹿”を標榜する多田克己・村上健司両氏が登場。ちょっと軽めだった内容が一気にディープになる――かと思いきや、関係者室で既にそうとう聞こし召していた二氏に「壇上だと酒がタダで飲めるというから」とふたたび壇上に登った沢村氏とが暴走。その前に、呼んでも呼んでもなかなか現れない三氏を待つあいだに木原氏が披露した怪談小話に身も蓋もない(しかも微妙に話をちゃんと聞いていない)ツッコミを入れ、以後も必死に話を軌道に乗せようとする化野氏を混ぜっ返す混ぜっ返す。木原氏に至っては途中から諦めてすっかり傍観者に徹していました。普段の酒飲み話をそのまんま舞台に乗っけたような有様で、ある意味楽しかったのですが、完璧に楽しさの意味合いが違う。妖怪馬鹿に真面目に話をさせたかったらあんまし飲ませちゃいけない、といういい例を見せてしまった感じでした。
みたびの休憩を置いて、最終ターンとなる第四部。どーも妙な感じに暖まってしまった場の空気を多少誤魔化すかのように化野氏が提示したのは、二十年くらい前には沢山店頭に並んでいた掌サイズの子供向け百科本の一冊として刊行された妖怪大百科。化野・木原両氏に性根を入れ替えて再度登場した多田克己氏の三名で、その記述を検証したりつっこんだりして愛でる。当時そうした本に関わったことがあるという木原氏曰く、かなりいい加減な作り方をしており、字を埋めて絵がついていれば十分という感覚で、絵と文章とのすりあわせを殆ど行っていないらしい。火ふきばばあ、という妖怪は、文章では「人に対して悪さを働かない」という設定なのに、絵のほうはまるっきりガメラみたいな大怪物で五重塔を焼き払っている。石燕に取材したと思しい妖怪もいれば水木しげるの創作や説明をまんま引っ張ってきたものもあったり、一方で紙幅を埋めるために無理矢理こじつけたような妖怪もいて、そういうのをつっこんでいくのがなかなかに楽しい。
最後に軽い質問コーナーを置いて、今回は終了。不安だった体調もどうやら多少持ち直していたようで、途中寝潰れることもなく最後まで参加できました。初めての完全参加でも解る、特例的に雑然とした回だったようですが、これはこれで面白かった――とは言え、次のときにはもうちょっとテーマを定めてくれると嬉しい。
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