先週朝早くから出かけていたのは本日、舞台挨拶つき初回のチケットを確保するためでした。座席指定なので時間ギリギリでも構わなかったのですが、経験上あんまり余裕をみないで行くと売店を覗くのが大変になると解っていたので、開映三十分前に目的地の日比谷シャンテ・シネに到着するように調整して出発。
……まだ開場してなかった。
しかし既にけっこう待っている人がいるのに配慮したのか、九時二十五分から開場という看板が立っていたのに、十五分を過ぎた頃には客を入れてました。残暑が厳しい折なので助かる。
本日の作品はあだち充の最高傑作である青春漫画を、『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心監督、長澤まさみと斉藤祥太・慶太の主演で映像化した『タッチ』(東宝・配給)。なにせあまりに有名な作品とキャラクターが原作であるだけに不安を感じたり微妙な印象を受けている人も多いようですが、毎回言ってますが原作通りなんて期待しないで映画なりの解釈と原作に対する敬意の表し方に注目すればいいのであり、その点本編は原作と並べても原作を抜きにしても優秀な青春映画だと思います。詳しい感想は「あの人はやはり下駄履きだった。」からどうぞ。原作に比べるとずっと高校生らしくもなっていたが。
……しかし、そんな本編の好印象をも微妙に黒くする出来事が、上映中に発生した。
話が中盤に差し掛かったぐらいだろうか。映画オリジナルの、非常に印象的な場面で突如音声が途切れ、ブザーのような音が鳴り響いた。この演出はどういう意味だ、と困惑していると、どー聞いても長澤まさみではない声がこう訴えはじめた。
「ただいま火災が発生しております」
事態が把握出来ない。場内はまだ暗く、台詞が聞こえないながらもまだ映像は続いている。そこへ更に、今度は男性の声で、
「火事だ! 階段で火災が発生しました。慌てずに係員の指示に従って避難してください」
というアナウンスが流れる。って警報のくせに煽っているのは君のほうだろうが、とツッコミを入れていいものか迷っていると、ようやくスクリーンの映像が消え場内が明るくなった。一部の客は意固地に座り続けていたが、ほとんどの客はアナウンスに従って後方の扉から出ようとする。
だが、まったく進む気配がない。数分ほど待った挙句、係員の指示で全員が座席に戻った。更に一・二分ほど経って現れた男性の従業員がマイクも通さないでいわく、
「ただいま警報の誤作動がありました。もうじき中断した箇所から上映を再開します。お騒がせして真に申し訳ありません」
まあそうだろう、と疑いつつちゃんと出ていこうとした観客に対して詫びの言葉がそれだけ。はっきりと苛立ちを覚え、こんな調子で映画にまた入り込めるかどうか――と思いましたが、わりとスムーズに戻れたのは、それだけ出来のいい証拠でもあるだろう。
上映終了後、日本テレビのアナウンサー司会による、主演の長澤まさみと監督の犬童一心による舞台挨拶、ですが当然のごとくアナウンサーが劇場に代わって謝り、犬童監督の第一声も「誰に代わってかは解りませんが」というジョークつきでのお詫びになり、長澤まさみでさえ「火災警報機の誤作動があったみたいですけど……」という言葉を入れる展開になるのでした。
とは言え、舞台挨拶自体は犬童監督の天然か大人の配慮なのか解らないボケもあって和やかな雰囲気で進みました。まだ十代の長澤まさみは劇場に集まった人の平均年齢が思いの外高そうなのに驚いていたようですが*1、そんな彼女もあの若さにしては非常に受け答えがしっかりしている。原作の南が大変に魅力的である一方、やもすると同性には嫌われかねないキャラクターであることもちゃんと把握した上で、同性にも異性にも親しみやすい南ちゃんになるように努力した、と応えるあたりに既にプロとしての貫禄が窺えます。監督はそんな彼女に二日かけてボールをぶつけるのが大変楽しかったそうだ。
実は本日の舞台挨拶はこのあとの回でも開催されていて、そちらには上杉兄弟を演じた斉藤祥太・慶太のふたりも登場したそうです。チケットを購入するとき、二回目を選んでも良かったのですが、初回は人数が少ないうえに監督が気を遣って抑えめに話していたせいもあって長澤まさみの露出が高くなっていたので、寧ろ濃密で良かったのでは、と思います。公式ブログを見ると、その後近くの広場でパンチ役の犬も含めた撮影会なんてのまであったそうですが。
終了後、退場するときに劇場の係員から火災警報機のトラブルのお詫びとして、観客全員に東宝系の劇場数館で使用出来るチケットが配られました。まあ、そのくらいは当然だと思うのですが――しかし、個人的にはこれでも足りないと思う。実は中断されたシーンというのが、高校一年の甲子園予選大会決勝戦の朝の場面。衝撃的な箇所をいちど音声なしの状態で見せられているのです。本当なら、『タッチ』をもういちど、中断なしで鑑賞し直す権利プラス招待券、でやっと釣り合うぐらいに酷い。
ま、私はトータルでは得したと思うから構わないんですけど。だって、いいネタになったし。
*1:ちなみに上映前、私の後ろの席から聞こえてきた会話から察するに、その方々は五十前後でした。
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