『「超」怖い話 判型:文庫判 レーベル : 竹書房文庫 版元:竹書房 発行:2005年10月6日 isbn:4812423384 本体価格:552円 |
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1991年に刊行されて以来、現在まで巻を重ねる現代怪談の雄『「超」怖い話』シリーズ。その第一巻において編集長を務めた安藤君平氏が執筆したエピソードに、蜂巣敦氏寄稿の二篇、更に書き下ろし十四本を追加して再編した、シリーズの原点を示す一冊。
同じ聞き書き、基本的に体験者からのみ採集したエピソードを蒐集していることで共通する『新耳袋』と『「超」怖い話』だが、今年完成した『新耳袋』が血腥さや呪いに纏わるエピソードを排しているのに対し、『「超」怖い話』はそうしたタブーを取り払い、かなりえぐい内容を収録することで独自色を出している。 だが、この原点となる第一巻から抜き出したエピソードを中心とした本書は、意外なほど『新耳袋』にテイストが近い。もともと自発的に蒐集したのではなく自然と集まってきたものを並べていった話ばかりであり、「執筆するために怪異譚を集めるという作業自体にもなじめなかった」として二巻以降は参加しなかったというだけあって、宗教が絡んだり、体験者が積極的に語ろうとしない種類の話が入り込む余地がなかったせいもあるのだろう。比較的シンプルで、いっそ牧歌的とでも言いたくなるようなあっけらかんとしたエピソードが多く、その柔らかな手触りが『新耳袋』、とりわけ初期のそれにとてもよく似ていると感じる要因のようだ。 収録されたエピソードに嘘くささがないのも出色である。「帰ってこない」「行かなくっちゃ、行かなくっちゃ」「送られてきた巻き物」のような、かなり怪談を読みこんでいると自負している私にも類話の思いつかないような話さえ収録されているあたりに、現在までシリーズを継続させる力の源泉を感じさせる。一部に定番の話やその応用程度のものも見受けられ、“体験談に限る”という制約を敷衍するとそれが第一次のソースでなければいけないはずで、果たしてこれがそうなのか? と疑問を感じさせてしまう弱さもあるが、そうした話を剥き身のまま収めてしまう純粋さには黎明期の一途さを窺わせて、却って微笑ましいとも言えよう。 近年の『「超」怖い話』のような凄みも『新耳袋』のような洗練性も乏しいが、読んでいて不快感を与えず、ほどほどに怖くていい具合に微笑ましい良質の怪談集である。最近の『「超」怖い話』のえげつなさにはちょっとついていけない、という方にも安心してお薦めできる。 |
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