銀河ヒッチハイク・ガイド

銀河ヒッチハイク・ガイド 銀河ヒッチハイク・ガイド

ダグラス・アダムス/安原和見[訳]

Douglas Adams“The Hitchhiker’s Guide to the Galaxy”/translated by Kazumi Yasuhara

判型:文庫判

レーベル:河出文庫

版元:河出書房新社

発行:2005年9月20日

isbn:4309462553

本体価格:650円

商品ページ:[bk1amazon]

 ラジオドラマとして執筆した作品を、原案・脚本を手懸けたダグラス・アダムスが自ら小説化、SFファンや多くのクリエイターから賞賛を得た伝説のSF小説が、劇場映画版の日本での公開に合わせて新訳で登場。

 アーサー・デントは不幸のまっただ中にいた、と思っていた。長いこと暮らしていた家が突如取り壊されるという憂き目に遭ったのである。しかし、別の意味において彼は幸運だった。何故なら、我が家どころか地球が銀河バイパスの通過予定地にあったため取り壊されてしまい、すんでの所で宇宙船をヒッチハイクすることに成功したアーサーは、地球で唯一の生き残りになったのである。実は銀河ヒッチハイク・ガイドの記者であった友人フォード・プリーフェクトの導きのもと、宇宙船から宇宙船へと乗り継いで生き残りを図るが、銀河というものはアーサーの予想以上に“理解不能”のことが多い。そうして繰り返す放浪の果てにアーサーが巡り逢ったものとは……?

 発表は1979年だそうだが、怖ろしいほど古びていない作品である。時代を感じさせるモチーフが登場していないことにもよるのだろうが、盛り込まれたアイディアとイメージとが今なお鮮烈さを損なっていないからだろう。のっけから“銀河バイパス”建設という理由で地球の取り壊しが行われるのだが、その担当者の弁舌からして振るっている。唯一、数分後に迫った危険を察知した、島流しに遭っていた宇宙人の言動も状況の深刻さを忘れてしまうくらいのユーモアに満ちている。

 命からがら宇宙に脱出したあとも、まったく予測不能の出来事が連続する。何故か鯨が異空間で遭難していたり、地球とは百八十度反対の判断条件で適性と見做された銀河大統領のどうしようもない奇行を描いたり、寄り道が激しいせいもあるのだが、しかしいずれもちゃんと最終的にはアーサーをはじめとする主要登場人物のもとに辿りつくし、まったく思わぬ要素が伏線として機能していたりするので油断がならず、何だかんだと読まされてしまう。

 ヒッチハイカー嫌いの宇宙人に放り出されるわ、逃亡者と化した大統領の船にうっかり乗ってしまうわ、操作を間違えて異空間に迷い込んでしまうわ、凄まじいまでの大冒険ぶりだが、ちゃんと牽引したり自らの力や知恵で困難を乗り越えようとする人がいないので、活劇としてのダイナミズムはない。しかしその分を、イマジネーションの迫力が充分すぎるくらいに補っている。

 しかし何と言っても本編における最高の存在は、鬱病のロボット・マーヴィンであろう。自律思考型ロボットという発想を突き詰めた結果辿りついてもおかしくないモチーフながら、ここまで真面目にかつ滑稽に扱えた書き手は、たぶん著者以外にはいなかっただろう。下手な人間よりもキャラ立ちした“彼”に愛着を覚える人は少なくあるまい。時として自殺さえ企てる彼が果たす役割もまた実にイかしている。

 SF読者のあいだでは伝説化し、新潮文庫から刊行されていた旧訳版の復刻の要望も多かったというのも充分に頷ける面白さ。映画の予習として読みましたが、このまま映画を見逃したとしても、本書に出会えただけで満足です。同時発売された続編『宇宙の果てのレストラン』も買っておかないと。

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