かりん 増血記(6)

かりん 増血記(6) 『かりん 増血記(6)』

甲斐透[著]/影崎由那[原作・イラスト]

判型:文庫判

レーベル:富士見ミステリー文庫

版元:富士見書房

発行:平成17年10月15日

isbn:4829163216

本体価格:540円

商品ページ:[bk1amazon]

『月刊ドラゴンエイジ』での人気連載で、今年十一月からWOWOWにてアニメ版の放映も決定している影崎由那の漫画『かりん』の番外編を綴る小説版第六巻。

 様々な障害を乗り越え、雨水健太との仲を“秘密を共有する友達”から“親しい友達”ぐらいにはランクアップさせたことに少々浮かれ加減の落ちこぼれ吸血鬼・真紅果林だったが、好事魔多し、早速想像もしない出来事に見舞われる。はるばるアメリカから、果林の父ヘンリー・マーカーの子供だという少年がやって来たのである。嫉妬深いヘンリーの妻カレラは激昂し、ヘンリーは身に覚えのない事態に妻に対して取り繕うのが精一杯で、聡明な妹・杏樹の提案で果林が自称隠し子のジェイクに対する窓口の役割をする羽目になった。ジェイクの発する“不幸”のオーラに吸血鬼、もとい増血鬼の本能を刺激されるために出来れば避けたい果林だが、ことが自分の父に絡んでいるとあって見捨てることも出来ずに対処に苦しむ。一方で健太は、果林とはいい友達というだけのつもりでいても、同年代のジェイクに対する果林の言動に苛立ちを隠せない。家庭の空気も健太との仲も微妙になるなか、ジェイクを追う人間が姿を現し、事態は更にややこしいことに……

 毎回漫画版の単行本が刊行されるのに合わせてか、ひと月遅れぐらいで、その直後のエピソードを綴るのが習いとなっていたこのシリーズだが、今回はちょっと間隔を開けての登場となった。原作第六巻は修羅場のさなかで話が終わっており、あいだに番外編を差し挟む余地がなかったことが原因であろうが、このペースに馴染んでいたのでやや拍子抜けの感は否めない――リアルタイムで読んでいなければそんな感慨を抱くこともなかったのだろうが。

 原作第七巻で雨水健太との関係が進展したのを受けての新作ゆえ、多少は甘い雰囲気になるかと思いきや、相変わらずのトラブル三昧である。若干果林と健太の心理的距離感が縮まっているのは確かだが、ラブコメの王道を走ってやきもきさせているのは変わらない。

 レーベルを尊重してか、いちおう謎解きらしき要素を盛り込んでいることも従来通りだが、今回は少々乱暴な印象を受けた。最大の着想はジェイクの“嘘”にまつわるくだりで、実際にあり得る出来事に因ってはいるのだが、この物語のなかに投げ込まれると説明としても驚きとしてもあまり巧く機能していない。サスペンスの組み立ても、今回はさすがにちょっと単純すぎるだろう。

 とはいえ、原作の展開を破綻させない程度に設定を敷衍し膨らませて物語を構築しており、原作ファンや旧作の読者なら間違いなく楽しめる。ことこの巻は、番外編にて登場したキャラクターや設定がちらほらと顔を覗かせており、サービスに事欠かない。とりわけ、原作の最新刊においてちょっとだけ進展した果林と健太の関係をうまく応用していい具合のラブコメに仕立てているあたりは、いい意味で期待を裏切っておらず、番外編という位置づけからすると最上の仕事と言っていい。

 わざわざレーベルに合わせて謎解きやサスペンスを盛り込んでくれるのなら、その辺をもうちょっと掘り下げて欲しいという厭味はあるものの、ファンにとって楽しめるものをこのコンスタントなペースで発表しているのだから、それで充分かも知れない。

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