『スレイヤーズすぺしゃる(25) 騎士道のススメ』
判型:文庫判 レーベル : 富士見ファンタジア文庫 版元:富士見書房 発行:平成17年10月25日 isbn:482911763X 本体価格:520円 |
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本編が終了したあともさながら寅さんのように放浪を繰り返しサザエさんのように年を取ることもなく作を重ね続けているスレイヤーズすぺしゃるの第25巻め。雪に包まれた街を徘徊する“獣”の正体を探る『白い夜の獣』、この世界には珍しい大病院に出没する幽霊の秘密を暴くため風邪っ引きの体に鞭打つ『病院奇譚』、勘違いした騎士たちの振る舞いをリナが正す(?)表題作、山に居ついた“何者か”とそれを追い立てる村の“危険な存在”との死闘(?)を描いた書き下ろし『異形の棲まう街』の、連載六回分+1の都合四つのエピソードを収録する。
いやもう毎度言っていることですがなんて読みやすいんでしょう。いちおうシリーズの前提を知っていた方がいいのは確かなのですが、ファンタジーの定石をある程度承知の方なら、このシリーズ自体に知識はなくても充分まったりと楽しめるのではないかと思う。 かなり初期からそういう色彩はあったが、特に本編を終えてからのこの“すぺしゃる”は固定キャラを弄ることよりも、一話きりでファンタジーのツボを押さえた強烈なキャラを前面に出しておいて、そこにリナとナーガを絡めていくというやり方で、安定した話運びをしています。それでいていちおう捻りや謎解きもあるので、まるっきりのマンネリズムには陥っていないし、締め括りにもそれなりの個性が出ている。 特に今回は表題作と書き下ろしの話の収め方が面白い。表題作については前編で広げた風呂敷の閉じ方に苦慮した挙句ああなったような気もするが、コントじみた展開の果てに口八丁手八丁でどうにかしてしまうあたりは結構凄い。 いまのようにキャラクター主体の作家たちが頻出する遥か以前からキャラクターの個性を際立たせる技を磨いてきたような書き手であるので、一話のみの登場人物ばかりであっても全員存在感を発揮しており、しかしそれをちゃんと最後にはねじ伏せてしまうリナ、という構図に持って行けるあたり、ほとんど職人技である。何か教訓を読み取れるわけでも深甚な余韻を留めるわけでもないが、滅法楽しいことだけは相変わらずの安定した一冊。 なお、本書を購入した日の買い物報告でも書きましたが、買ったらとりあえずいちど帯を外してよくよくカバーを眺めましょう。そしてあることを確認したらすぐに帯を掛け直し、上から書店などのカバーをつけてしまうか、或いは決して以後帯を剥がないように。……新刊で購入しなかった人は、とりあえず剥き出しのまま電車の中では読むな。『食卓にビールを2』みたいな事態になるぞ。 |
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