『恐怖!! あなたの知らない世界』
判型:B6判ソフト 版元:宙出版 発行:2005年8月8日 isbn:4776792028 本体価格:476円 |
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昭和五十四年から始まり、定期的に特番として日本テレビ系列で放送されていた伝説の心霊番組『あなたの知らない世界』。平成四年までに刊行された同番組の書籍版からエピソードを厳選、一部加筆修正のうえ纏めたもの。二十本の再現ストーリーに、再現フィルム撮影の現場で起きた怪異などを語る『制作こぼれ話』四本と、昭和六十一年に著者を含む制作者四名により行われた座談会を収録する。
私が怪談を愛好し、余波としてホラーに愛着を寄せるようになったそもそもの理由のひとつは間違いなく本書のもととなったテレビ番組にある。私と同年代かやや上の層には、この番組のタイトルは何らかのトラウマとして刻み込まれている確率が極めて高いと思う。それだけに、某所で本書のタイトルと内容を知ったときは興奮したものだった。早速ネット書店に注文し、届くなりすぐさま読み始めたのだが―― 如何せん、こちらは番組の終了以降も様々な怪談本を読み耽り、既に『新耳袋』というひとつの理想型を発見している。それなりに肥えた今の目で眺めると、本書に収録されたエピソードは綴り方にも内容にもどうも不満を禁じ得ない。定番中の定番である“タクシー怪談”や“壁に塗り込まれた死体”などが収録されているのは、このジャンルの開拓者である番組の空気を伝える意味では間違いではないが、後半に進むたびに「いささか潤色が過ぎるのでは?」と首を傾げたくなるような内容が増えるのはいただけない。特に『戦下、夜の美術学校で…』や『あたしの人形』のような、いったい誰が体験者なのか、誰の視点から綴られているのか判然としない話があると、ほかの話までも胡散臭く感じられてしまう。話によっては特に根拠もないまま、怪現象の源を決めつけているようなものもあって、巻末の座談会で霊魂や祖先に対する礼儀を訴えているわりには、態度がいささかいい加減ではないかと不快になる。『血まみれの懇願』という話で、三年前に死んだ祖父の三回忌を受験だから取り止める、なんて記述があるともはや目を疑うどころではない。 巻末に収録された対談も、制作者たちが現在の目線で語るのではなく、まだ毎年のように特番を組んでいた昭和六十一年当時のものを、あまり吟味もしないままに収録したと思しく、整理の行き届いていない内容もそうだが、語られていること自体にも違和感がある。いま改めて当時の関係者を集めて往時を回顧するか、さもなくば定期的に特番が作られなくなってからの対談か関連記事を収録した方がまだしも本書の趣旨には相応しかったのではないか。 ただ、そういう点を割りきって読むと、かつての怪談番組の空気や、いまの観点からすると無邪気とさえ映る語り口の甘さなども却って興味深い。怪談本としてはどうしても物足りないが、心霊もののパイオニアであった番組の雰囲気に触れるという意味では決して悪くない仕上がりである。題名を聞いて咄嗟に懐かしさと共に当時を思い出すような方が読む分にはいいだろう。 |
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