『女王陛下のえんま帳 薬師寺涼子の怪奇事件簿ハンドブック』
田中芳樹・垣野内成美/らいとすたっふ[編] 判型:B6判ソフト 版元:光文社 発行:2004年1月25日 isbn:4334974279 本体価格:1200円 |
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田中芳樹氏が現在最も精力的に書き継いでいる人気シリーズ“薬師寺涼子の怪奇事件簿”。その魅力の一端を窺わせるハンドブックである。人気の理由のひとつである装画・挿絵を手懸ける漫画家・垣野内成美氏との対談に、本書が発刊された当時の最新作である『黒蜘蛛島』の舞台となったカナダを取材したときの模様、書き下ろしの短篇『呪われたダイヤ』に、ファンを自認する西澤保彦氏によるエッセイと、垣野内成美氏書き下ろしのオリジナルコミック『ブルジョアジーの秘かな楽しみ』などを収録する。
構成からして完璧に薬師寺涼子シリーズのファンのみを対象にした書籍である。執筆の裏事情を明かす対談が巻頭を飾っているし、続く取材記も『黒蜘蛛島』を読んでいないと面白みは解りにくい。書き下ろしの短篇にしても、事件の成り行きは至ってシンプル、しかも猟奇的ではあるが怪奇事件ではない。『黒蜘蛛島』の物語に繋がる経緯をほんの少し明かす一方で、本編では登場したことのない涼子の姉・絹子が初めて顔を見せ、涼子をたじろがせるような活躍を披露するあたりが読みどころとなっているのだから、やはりこれを「面白い」と感じられるのはシリーズに親しんでいるファンだけだろう。 その代わり、ファンサービスとしては程良く充実した内容となっている。作中に頻出する単語を主に涼子の価値観から解説したエンサイクロペディアに、涼子や泉田クンの休日の様子を描いた垣野内成美し描き下ろしコミックあたりはその最たるものである。シリーズ本編ではあからさまながらも描写としては脇に廻されがちな、お涼のある意味健気なアプローチを前面に押し出して描いているのだから。本編を知らない読書にとってはさっぱり事情の解らないエピソードだろうが、ファンにとってはこんなに微笑ましい話もない。 そんなわけで、本書を楽しむためにはシリーズ本編の最低でも一冊は読んでおく必要がある。翻って、虚心にシリーズを楽しんでいるような向きには、お手頃なサイズで渇を癒すことの出来る一冊である。 どうでもいいが、ファン代表的な立場で寄稿したと思しい西澤保彦氏のエッセイ……なんか物凄く楽しそうである。人のシリーズに寄せた文章なのに、自作のシリーズキャラを動員して自在に涼子シリーズ、というよりお涼の魅力を語っている。考えようによっては、西澤作品のファンにとっても要チェックの一文……かも知れない。 |
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