三谷幸喜のありふれた生活4 冷や汗の向こう側

三谷幸喜のありふれた生活4 冷や汗の向こう側 三谷幸喜のありふれた生活4 冷や汗の向こう側』

三谷幸喜

判型:四六判ソフト

版元:朝日新聞社

発行:2005年12月30日

isbn:4022500719

本体価格:1100円

商品ページ:[bk1amazon]

 朝日新聞夕刊に週一回のペースで五年にわたって連載され続けている、人気脚本家・三谷幸喜によるエッセイの単行本第四巻。2004年3月31日から2005年3月31日までの文章に、挿画を担当する和田誠と、三谷幸喜と交流のあるタレント・清水ミチコとの30ページにわたる対談を追加してまとめられている。

 前巻では大河ドラマ新選組!』の構想・執筆まっただなかだったが、本巻ではその終盤から次の舞台の執筆・上演あたりまでの日常や裏話を綴っている。間もなく公開される自身の最新監督映画『THE 有頂天ホテル』の脚本らしきものを執筆している様子も垣間見える。

 とはいえ、基本的に執筆中心、また文章中でも「友人は少ない」と言い切っているだけあって、制作の舞台裏や芸能界での交流に関する記述は思いの外少ない。執筆中の気分転換と称した逃避や、そのさなかでのハプニング、あるいは映画・舞台に関する想い出に絡めた文章など、どちらかというと私的な部分に触れたもののほうが多い。しかし、それこそ著者らしい話題の選択とも言えよう。

 かなりあからさまに、また詳細に執筆の背景や舞台裏を綴っているように見せて、しかし実は気づかれないよう綺麗にオブラートに包んでいることにも留意したい。実際には執筆のうしろで奥方やご近所とのトラブルも起きているのかも知れないし、もっと生々しい事件もあったかも知れない。だが、それをまったく感じさせないほどに節度をもって描写し、生々しさをユーモアで緩和している気配がある。ひとつひとつの文章の短さも手伝って、喜劇脚本家らしい資質を窺わせる内容である、と言えるだろう。

 初版帯にはかなり様々なトラブルに遭遇していたようなアオリが記されているが、実際には大した問題となっていないものばかり(本当に問題が生じていたら、この著者ぐらいの人ならば新聞などで一報を眼にしたはずだろうし)。しかし当人にとっては大問題であり、それを感じさせながらも微笑ましく読ませてしまうのはさすがだ。第一巻から基本的なテイストを変えることなく、今後も楽しませてくれそうな好随筆である。

 ミステリファンとしては、ちょうど話題になっていた作品として法月綸太郎『生首に聞いてみろ』を採りあげているのに注目してしまう。今となっては大御所扱いされている法月氏を、“年下のミステリー作家”として扱っているのが妙に新鮮であり、軽く衝撃的でもある。これが一般的な認識なんだろうか……?

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