かりん 増血記 恥じらいダイアリー(1)

かりん 増血記 恥じらいダイアリー(1) 『かりん 増血記 恥じらいダイアリー(1)』

甲斐透[著]/影崎由那[原作・イラスト]

判型:文庫判

レーベル:富士見ミステリー文庫

版元:富士見書房

発行:平成18年2月15日

isbn:4829163399

本体価格:540円

商品ページ:[bk1amazon]

 現在WOWOWにてテレビアニメ版も放送されている人気漫画『かりん』のノヴェライズ第7巻。従来のような書き下ろし長篇ではなく、『月刊ドラゴンマガジン』誌上に連載された6話と書き下ろしエピソード1話からなる連作をまとめた短篇集という体裁を取っている。

 吸血鬼一家に生まれながら、日光・ニンニクなど通常の一族が苦手とするものはことごとく平気で、代わりに増えてしまう血を逆に“供血”しなければならないという得意体質に生まれついた真紅果林。先日も、限界まで来た血を注ぐため通りすがりの女性を襲ってしまった果林だが、直後に偶然会ってしまった隣のクラスの女子生徒・葛城律に、どうやら吸血鬼ではないかと疑われてしまったらしい。そのうえ、何か目論見があって果林に接近してきた律は、果林の“協力者”としてそばにいる雨水健太の優しさに触れて、彼に恋心を抱いてしまった。異種族ゆえに友達から先へと踏み出すことの出来ない果林の胸中は複雑に乱れる。成り行きで揃って体育祭の実行委員となってしまった三人の関係は、準備を通して揺れ動くのだった……

 連作短篇、と銘打っているが、1話1話で完結するスタイルではなく、寧ろ原作同様に、ひと続きの流れを切り分けて提示している格好になっている。しかも、このノヴェライズのためのゲスト・葛城律を中心としたドラマはきっちり幕を引かれていないので、“次巻に続く”という状態だ。

 だが、それでも体育祭という大きなイベントを利用して、ひとまず区切りをつけているので、読み終えた時点での満足感は用意されている。そのうえで次巻への引きもあるあたりは、ちょっと厭らしいが巧い作戦である。

 雑誌に掲載されたものをそのまま引っ張ってきたためか、章が移った直後に前章最後の展開をもういちど説明するような文章が挿入されていること、また纏めて読むことが出来ない雑誌読者を考慮してか、ノヴェライズ旧刊に見られたような全体を通しての謎が(少なくとも本巻の中では)用意されていないことが物足りないが、シリーズならではの個性を活かしたストーリーという意味では申し分ない。雨水健太の抱える“不幸”に触れると増血してしまう、という果林の問題を、体育祭の企画を通してクローズアップさせる手管は巧かった。

 いまどき珍しいくらいのプラトニックぶりも、果林の設定によって正当化されているためやりたい放題で、そういう作風に飢えている人にはお薦めしたい。ミステリー文庫というレーベルに対するこだわりは薄れたが、シリーズを愛読している人には何ら問題のない1冊である。

 ただ出来るものなら、続刊はなるべく早く出していただきたい、と願わずにいられない。どうなるんだ律は。そしてどうするんだこのあと。

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